第33話

本部にきてから一週間が経った頃、俺は机に突っ伏して後悔をしていた。

机に山のように重ねられた書類がそれの一因だ。


「あーーー全然減らない!誰だよこんな面倒な役職引き受けたやつ。」


数日前の自分に文句を言っていると机の上にさらに書類が重ねられた。


「文句ばっかり言っていても終わりませんよ?今日も定時で上がりたいのでさっさと片付けてください。」


そういって眼鏡を光らせているのは伏見だった。

俺が先日室長に言った要望の一つが伏見を部下として欲しいという事だった。

その要望は即決され翌日からなぜか俺付きの秘書として転籍になったそうだ。

部下に移動能力ある人が欲しいと思って知っている伏見の名前を挙げたのであって、決して秘書が欲しいと思ったわけではない。


そもそもなぜ秘書なのか?と疑問を持った俺だがそれの理由はすぐに分かった。

新組織における人員の割り振りやその為に個人の能力資料の読み込み、新規業務と現在進行中業務の進捗確認、業務遂行に必要な物資とそれに掛かる経費の算出などなどやることが山積みになっている。

だが今なにより問題なのは俺の知識が不足していることだ。

業務を進めるシステムや組織体系づくりはともかく俺が実務となる異能力やそれに関わることの知識がなさ過ぎて判断が一人ではできない。

社畜時代は本社から流れてくる実務を知らず数字や机の上でしかものを見ない、自称仕事のできる上司達のせいで散々苦労した経験があるので俺がそうはなりたくないので必死である。

だからそういった知識面を含めてサポートができる存在がが必要だったのだ。そして伏見は運悪くもそれに巻き込まれてしまったという訳だ。


「うえーん、チヒえもーん、仕事が終わらないよー。あと個人の経歴がおかしい人がいるけど改ざんとかされてない?」


「誰がチヒえもんですか!まったく、そんなわけ無いじゃないですか、どれですか?」


死んだ目して冗談をいう俺にすかさず伏見がツッコミを入れた。

そして問題の資料を見せる、その資料にはうちの所属、つまりは俺の部下となる約600人の能力データと個人の経歴が載せられていて、俺は目を通していく中で個人の経歴でとある記載がある名前を指さした。


「この一色彩いっしき あやって人だよ。」


「この人がどうしたんですか?」


「職歴にある株式会社○○○の△△事業所って今は存在してないんだよね。」


「え?そうなんですか?でもなんでそれを伊藤さんが知ってるんでしか?」


「5年くらい前にここと取引してたことがあってその時に発送担当の馬鹿が送り先の事業所を間違えて閉鎖した△△事業所に製品を送りやがって、運送会社から荷物が全部戻ってきて納期に間に合わないから俺が夜中にトラックで本来の送り先に持っていったってことがあってな…」


「ひえっ…」


「その謝罪をしたときに2年くらい前、いまだと7年前になるか、に閉鎖したって話を聞いてたからさ。そんでこの一色さんの職歴だと3年前までそこで働いてたことになっている。な、おかしいだろ?」


「確かにそうですね、一度諜報部にこの話をもっていきます。」


「頼むよチヒえもん。」


「ふざけてないでさっさと仕事してください。」


伏見はそういって能力移動専用のドアから出て行った。


「いや、それどうみてもどこでもドアじゃん。」


俺はそう呟くとまた書類の山を登り始めた。





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