第31話

伏見さんに本部と呼ばれる場所に連れてこられて今日で三日目になった。


初日は一日がかりで身体能力の検査をされた。

健康診断的なものかと思ったて簡単に了承したら体力テスト的なものでシャトルランなんて10年以上ぶりにやったけど本当にしんどかった…


二日目は適正検査のような事をやらされた。

基礎学力や一般常識、性格診断のような事もやった。

正直結構ボロボロな結果になってしまったと思ったが就職試験でもないので気にしないことにした。


そして今日はなぜか室長室と書かれたドアの前に立っている。


「さぁ伊藤さん、ノックをして入室してください。」


「あの、これもしかして面接だったりします?」


「私からは何もお話は出来ません。」


そう言って案内役の女性は俺にドアを開けるように急かした。

俺は少し迷ったが覚悟を決めてドアを3回ノックした。


「どうぞ、」


中から男性の声でそう聞こえたので俺はドアを開けて入室した。


「伊藤怜治と申します。よろしくお願いします。」


中に入ると中年の男が一人立派な椅子に腰かけてこちらに微笑んでいた。

俺はなんと言っていいか分からないので適当に名前と挨拶をして頭を下げた。


「これはご丁寧にありがとうございます。挨拶が遅くなり申し訳ない、私が異能力特別対策室の室長をしている国峰保くにみね たもつです。伊藤さんには先日の魔族襲撃の件では部下を守って頂き感謝の言葉しかありません。」


国峰と名乗った男はそういって立ち上がり俺に頭を下げた。

見るからに偉いオーラ全開の男に頭を下げられて俺は一瞬驚いたが、

それと同時にこの人がかなりの切れ者であることを察した。


「頭をあげてください、ですよ。」


俺がわざとらしくそういうと国峰も顔をあげてニヤリと笑った。


「いやー君は中々面白いね。」


「そんな事はないですよ、ただの一般社畜ですので。」


「そうか、では単刀直入に言おう。君にはうちに入ってもらい新しい部署を任せたい。」


「お断りします。と言いたいところですけど実際拒否権とかなさそうなので了解しました。」


「ふむ、察しが良くて助かるよ。私も面倒ごとは避けたいのでね。」


「それでその新しい部署っていうのはなんでしょうか?いやそもそもこの組織自体よくわかっていないのでその辺りも簡単に教えてくれると助かります。」


「いいだろう、簡単にだが説明しよう。まず一言でいうならばこの組織は国内の異能力者の管理を目的とした国家機関だ。異能力者による犯罪の防止やその対処、政治面を含む対外的な抑止力、一般への秘匿や新たに目覚めた者の保護など活動は多岐に渡る。その中で我が国で特に問題になっているのがモンスターや怪異の対処、そして犯罪者の討伐だ。日本は他の国と比べて様々な異能力が幅広く生まれるがそのせいで戦闘を軸において活動できる者が少ないのが現状だ。」


「そこで君には新設する戦闘関係を含む特殊任務についてもらう部署のまとめ役をお願いしたい。君が先日臼井と副室長の座を賭けた件についても聞いているのでそれも踏まえて立場としては私の直轄とする。どうだね?」


「いや、どうって言われても拒否が出来ないならやるしかないですね。しかしモンスターや怪異?ってのはよくわかりませんし自分の異能力の事もちゃんと理解していない、そんな俺で良いならば謹んでお受けします。」


すっかり社畜魂がこびりついている俺は出来なくてもやる!無理でもやる!の精神で引き受けてしまう。


「それとお聞きしたいんですけど、俺の友人達3人ってどうなるんですか?」


「それについては問題ない、君以外の3人とはすでに話がついている。君が了承し上で、全員同じ部署の所属に配属することを条件にうちに入って貰うことになっているよ。」


「そうですか、それが分かれば大丈夫です。」


「ならば良かったよ。それにしても君たちは随分と固い信頼関係ができているね?」


「まぁ俺たちもいろいろありましたからね。」


「そうか、いつかその話を酒でも飲みながら聞かせてくれ。」


「いつかそんな機会があるなら考えますよ。」


「ではその時は室長命令として聞かせて貰おうじゃないか。」


「おっと、今度の上司もパワハラしてくるのか。」


俺と室長はそんな話をして笑いあった。


「ところで現在の会社の退職手続きやらは此方でやっておくし、雇用内容はあとで書類を持っていかせるからそれを見て欲しいんだが、それ以外になにか希望があれば今のうちに聞こうか。」


「それじゃ、もし可能であれば―――」


俺は室長にいくつか要望を言うと驚いた顔をしたあとにまたニヤリと笑っていた。




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