第30話
【side:伏見 ちひろ】
多少のトラブルはあったものの本来の目的である伊藤怜治さんの連行は達成でき一安心した。正直彼が臼井副室長の拘束を解けるなど想定していなかったのでもし彼が私たちへの同行を拒否したらと思うと想像しただけで胃が痛くなる。
そして今から待ち受けるものも私の胃痛の原因の一つだ。
だがいつまでもこうしてはいられない、
室長室と書かれたドアの前の立つと3回ノックした。
「はい、どうぞご入室ください。」
「失礼致します。異能力者保護担当の伏見です。先日の魔族襲撃と新規保護対象者の
件で臼井副室長に代わり報告に参りました。」
部屋の中から女性の声で入室許可がされたのでドアを開けて中に入る、
待っていたのは立派な椅子に座り腕組みをしている中年の男、この人が室長と呼ばれる私の所属する組織の長だ、そしてその隣に立つのは秘書の女性だ。
「例の件か、とりあえず先に君の報告を聞こうか」
「はい、では報告をさせて頂きます……」
室長が腕を組んだままの姿勢で口を開いた、
そして私は報告書を渡すとここ数日での出来事について報告をおこなった。
「ふむ、同時に4人の異能力が覚醒し原因についても明確には不明、そして全員の異能力が特異であると…そして特に問題なのはあの秘密結社の首領と同じ異能力が発現した佐藤俊と、辺見にも異能力が鑑定出来なかった伊藤怜治か。」
「はい、そして佐藤俊の方は退魔の一族である佐藤家の長男だそうです。ですのであの結社とは長年敵対関係にある佐藤家のしかも長男が、となると正直判断に困るところです。」
「確かにそうだな。本人とは今後の事は話が出来ているのか?」
「本人は他の3人次第とは言っていましたがおそらく此方側についてくれると思います。」
「ほう?その根拠は?」
「それは伊藤怜治の異能力に関係しています。どうやら伊藤怜治はただの異能力ではなく神力に目覚めているようなのです。正しくは佐藤家の守護神の力が宿っているのではないかと言っていました。」
「それは…ふむ、いろいろと問題がありそうだな。佐藤家当主が代々継承する守護神の力が第三者に渡ったとなると一族総出で殺してでも奪い返しに来てもおかしくない。」
「はい、彼ら4人はありきたりな言葉で言えば強い友情や絆で結ばれています。それこそ佐藤俊からしてみれば一族より大事な親友達です。私も先の襲撃の際にも見ましたがかなりの信頼関係があるようです。だから親友の為になると分かれば佐藤俊はこちらについてくれる事は間違いないかと思います。」
「ふむ、どちらにしても一波乱も二波乱もありそうだな。だがその4人がうちに入ってくれれば間違いなく大きな戦力にはなってくれるだろう。残りの二人はどうなんだ?」
「先にこちらに来ていた渡辺悠も他の3人が入るならと、そして山本健は本日まで入院中だった為まだ確認が出来ていませんので後ほど確認し別途報告いたします。」
「わかった、あとは問題は伊藤怜治をどうやってうちに入れるか、だな。」
「あ、いやそれは…」
私は先ほどの臼井副室長と伊藤さんのやり取りを室長に話した。
「はっはっは!それは逆に好都合だな。臼井には別な役職を与えてやらないとな。しかし臼井の拘束を簡単に抜けるとは、やはりハゲて毛根が弱ったからだろうか。」
「それは私の口からはなんとも…ですがいきなり副室長はまずいのではないですか?」
「それはなんとかなるだろう、伊藤怜治は今の会社でも上手くやっていたようだしな。」
伊藤さん個人の資料に目を通しながら室長はそう言った。
「異能力とか神力とを抜きにしても組織的にはこういう中間管理職を出来るやつは欲しいからな。」
新しいおもちゃを見つけたような笑顔を浮かべる室長は、
すぐに秘書に指示をして新しい組織改変案をまとめさせ始めた。
「報告は以上になりますので私はこれで失礼させて頂きます。」
「うむ、ご苦労さま。新しい組織改変を楽しみにしていてくれ。」
私はその言葉に言い知れぬ不安を抱いたまま一礼をして室長室から逃げるように足早に退室した。
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