第29話


「それでその上司の人まで出てきてなんの御用ですか?」


俺はそう言って起き上がりベッドに腰掛けた。


「伏見!説明しろ!」


「かしこまりました。今日は先日の魔族襲撃の際に伊藤さんが発揮した異能力についてお伺いしに参りました。」


すっかり機嫌の悪くなった臼井は伏見に説明を任せた。


「あー、よくわかんないけどたぶん何でもブン殴れる異能力とかなんじゃないですかね?わかんないですけど。」


「えぇ、私の方もおおよそ同意見なのですが辺見の鑑定で見えなかったのが問題になりまして…」


「つまりお前のような訳のわからない異能力を持ったヤツをこのまま野放しには出来ないって事だ!」


申し訳なさそうに説明する伏見とは逆に先ほどまで馬鹿にされていた臼井が意気揚々と話し始めた。


「それでどうするんですか?あ、別に抵抗とかしないんで安心して欲しいんですけどね。やっぱり怖いじゃないですか。」


「ふん、察しの悪いヤツだ!お前を拘束するって事だよ!」


案の定俺が想定していた嫌な展開になってしまった。

臼井はそう言うと頭の横側に残されたわずかな髪の毛を伸ばして俺を髪の毛で簀巻きのように拘束した。


「うげっ!ちょっ、マジで勘弁して下さいよ!おっさんの髪の毛に拘束されるとか流石にマニアックすぎじゃないですか!せめて伏見さんの綺麗な髪にして欲しいんですけど!」


「黙れ!私だってお前のような若造に異能力など使いたくないわ!」


俺はげんなりとした表情で抗議をしたがもちろん通るはずはない。


「おっと、抵抗しようなど思うなよ!私のこの髪は戦闘特化の異能力者でも解けるものはいない最強の拘束能力なのだ!」


自慢げに話す臼井とその後ろで申し訳なさそうな表情をしている伏見と辺見。

とりあえず抵抗する気はないがそれでもやっぱりおっさんの髪と思うと気持ち悪くなった。


「それなら試しに抵抗してもいいすか?別にそうゆう気がある訳じゃないんですけど、やっぱりやるだけやってみたいと思うのが男じゃないですかー?」


「ふん!まぁいいだろう、万に一つもその可能性は無いがな!もし私の拘束から逃げられたらお前を私の代わりに副室長にして高待遇で受け入れてやろう!さぁ、やってみろ若造!」


「ふん!」ブチブチブチ


俺は左右の手に気力を流すのと同じ事を全身にやってみると簡単に俺の身体を拘束していた臼井の毛髪が千切れた。


「私の髪ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「なるほど、異能力ってこうやって使うのか。丁度いい実験になったわ。すいませんね。」


俺は身体に付いた千切れた髪の毛を払いながら自分の異能力について考えていた。


「いまのって前に伏見さんがやってた身体強化するやつですよね?」


「そうですね、練習してたんですか?」


「いや、初めてやりました。この前の件で異能力?の使い方が何となく分かったんでやってみたいと思ってまして。流石に暴走するのとか怖かったんで。最強の拘束って言うから大丈夫かと思ったんですけど、流石に毛根の弱ったハゲだからあんなもんですかね?」


「いえ、今でもあの人の拘束は現役な筈なんですけどね…」


床に散らばった髪の毛を必死に拾い集める臼井を無視して俺は伏見と異能力の使い方について少し話をし始めた。


「もしかしてこれって気力による身体強化で俺の異能力の本質じゃない可能性あります?」


「その可能性はありますね。ですが先日のように無傷で殆ど質量の無い火の玉を殴り返す、つまりは反射させるのは普通の身体強化では無理ですね。私が同じ事をしても火の玉が霧散するかそのまま私が火だるまになる可能性が高いですね。ですので系統としてはやはり拳または手を強化する異能力なのかもしれませんね。」


なるほど、気力や魔力を使えば誰でも身体強化は出来るけどあくまで身体を強化しているのであって炎を殴り返すなど現象としてあり得ないからそれが異能力ではないかと言うことか。


「あ、ところで拘束破ったんですけど逃げる気とか本当に無いんで安心して下さいね。ちゃんと着いていきますんで、なんなら手錠とかしてもらってもいいんで…」


俺は両手を伏見に差し出したがやんわりと拒否された。



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