第19話

【side:山本 健】


僕の意識は暗い闇の中を彷徨っていた、

なにも考えられずただ流されるだけ、

そんな暗闇の中で僕は一筋の光を目にした、

そしてそれを掴もうとした時、

僕は目を覚ました。


初めは目が開きただ虚空を見つめ頭の中に霧がかかったようにうつろだったが、

段々と頭が冴え、周りの状況を考えられるようになった。


そしてやっと僕の精神が覚醒しきった時、頭の中に大量の記憶が流れ込み僕はそれ耐えきれず嘔吐した。


自分ではない誰かの記憶、

魔法で多くの人間を殺し、同じ魔族と呼ばれる存在さえも殺し恐怖で世界を支配した【魔王】と呼ばれた存在。

そして最後は【勇者】とその仲間たちによって殺された記憶。


この記憶は魔王と呼ばれた誰かの記憶?

それとも僕が魔王と呼ばれていた記憶?


僕は何も理解できずただベッドで胃液を吐き出すことしか出来なかった。


それから一か月程僕は入院していた。

入院中に同僚が来てくれて僕がいない間にあった事を教えてくれた。

会社に労働基準監督署が入り立ち入り調査がされた事やそのせいで社長が夜逃げして会社がつぶれていたことを知り驚きながらも安心している自分がいた。


退院後はすぐに隣県で再就職が決まった、

前のようなブラック企業ではなく給料は安いけど働きやすい会社だ。


けど、とれだけ時間が経っても僕の心には魔王の記憶がこびりついて消えることはなかった。

ふとした時に思い出して吐き気がする。

今でこそ吐くことはなくなったけど最初はとてもつらかった。


でもまさかその記憶がいまの僕を助けるきっかけになるなんて思わなかった。

魔王が使っていた呪いや魔法、魔力の使い方が分かばこれ以上皆に迷惑をかけなくてすむよね?




【side:伊藤 怜治】


俺は一人考え込んでいた健に声をかけた。


「大丈夫か?呪いをかけるとか言われてもわかんないよな?」


だが予想外に健の声は明るいものだった。


「ううん、大丈夫!なんとかなりそうだよ!」


「お、おう…それならいいけど…ってなんとかなるのかよ!」


俺は何とかなると言った健の言葉に驚いた。

普通に呪いとか言われても困るだろ?

ゲームみたいにデバフします!とかじゃないんだからさ。


「まぁけど健が元気になったようでうれしいわ。久しぶりに会った時は昔みたいな暗い雰囲気してたから心配してたんだぞ?w」


「まぁ、僕も色々あったからね…でもありがとう、もう大丈夫だよ。」


健は俺に昔のような笑顔でそう言った。

そしてその目に俺は健の自信を感じた。


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