第14話

暖かい、


微睡む意識の中で俺は心地いい温もりを感じていた。

ずっと眠っていたい。

そう思う程の気持ちよさ、

最後に感じたのはいつだっただろう?


あぁ、このまま眠っていたい、

だが社畜生活に慣れた身体がそれを許さない。


そう、これは歳をとって睡眠時間が短くなるやつとはなんの関係もないのだ。

誰にでもない言い訳を考えながら目が覚める。


「めちゃくちゃ良い睡眠だった。昔のように二度寝出来ない身体になったのが残念で仕方ない。」


「それはきっと加齢のせいだな」


「やめろ、ちょっと気にしてんだから」


目覚めた俺の独り言に隣のベッドで横になっていた俊がチャチャを入れてきた。

あたりを見渡すと昨日の病室で俺はそこのベッドで寝ていたらしい。


「あれ?昨日ってその後どうなったんだ?」


俺は昨日の最後の記憶がはっきりしていない為、

俊にあの後の事を聞いた。


「とりあえずあの後は俺とお前が悠に吹っ飛ばされた以外はなんもなかったらしいぞ。気を失った俺らを悠がここまで運んでくれたそうだ。」


「そうか、その悠は?」


「少し前に起きて健がいる体育館の方に行ったぞ」


「そうか、んじゃ俺も起きるとするか」


俺はベッドから起き上がり時刻を確認しようとポケットからスマホを取り出すと画面がひび割れていた。

昨日散々吹き飛ばされたのだから当たり前だった。


「うわぁ、スマホの画面割れてるわ…」


普通ならスマホが壊れて使えなことにショックを受けるのだろうが、

普段から持ち物は大切に長く使うタイプの俺には自分のモノが壊れたこと自体がショックだった。


「こりゃ修理出すか買い替えだな」


「そうだよな…はぁ…」


壊れたスマホを見て同情する俊の言葉に俺は更に落ち込んだ。

仕方ないと、スマホをポケットに仕舞うと俊が何かに気づいた、


「お前いま、「おはようございます、ずいぶんとゆっくりしているようですね?」


俊が俺に何か言いかけたとき、

ドアを開けて疲れ切った様子の伏見が現れた。


「あ、おはようございます。伏見さんずいぶんボロボロですけど大丈夫ですか?」


俺はよく見るとスーツも若干ボロボロになっていることに気づき伏見を心配した。

しかしそれが良くなかった。


「えぇ、おかげさまで昨夜は大変でしたので。」


「あっ」

「っすー…」


俺と俊は全力で目を逸らして素知らぬふりをした。


「いやー、ほんとお仕事お疲れ様です!俺も社畜してるんでその大変さとか十分にわかりますよ!でも働くってそういう事ですもんね!」


「そうっすよ!でも仕事ばっかりしてるとけっk「ふんっ!」


「ぐへっ!」


また余計なことを言った俊は腹を蹴られて吹き飛んだ。


「今のはマリッジハラスメントです。覚えておくと同じ失敗は回避できるのではないでしょうか?」


「うっす」


「はぁホントにこいつが馬鹿ですいません…」


俺は俊に代わって静かに憤慨している伏見に頭を下げた。




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