第3話


「あ、やばい会社になんの連絡もしてない!今日は日曜だからとりあえず上司に連絡だけしとくか。はぁ…またぐちぐち言われるんだろうな…」


辺りがすっかり暗くなった頃に家に着いた俺は会社に連絡をしていないことを思い出し、とりあえず嫌々ながらスマホを取り出し上司に電話した。


「お疲れさまです。伊藤です、夜分に失礼致します。いまお電話よろしいでしょうか?」


俺はいまから言われるであろう嫌味や小言を想像しながらいつものように上司へ電話を掛けた。しかしいつもなら嫌味1時間コースは固いはずの上司がなぜかとてもやさしかった。それどころか心配もしてくれてもう数日休んでもいいと言い出した。

いつもなら今から出社して遅れを取り戻せ!というような上司なのだが…


「いえ!大丈夫です!明日から出社させて頂きます!ご心配おかけして申し訳ございません!明日からまたご指導宜しくお願い致します!ありがとうございます!失礼いたします!」


そう言って電話を終えたが、

いつもと違う上司の様子に俺は驚きを超えて恐怖すら感じていた。


「え?なにあれ、めちゃくちゃ怖いんですけど…まぁとりあえず連絡出来たからいいとするか」


そう言ってベッドに放り投げたスマホが薄く輝いているのに俺は気づかずシャワーへ向かった。




【side:とある一族】


「報告いたします。先ほど微弱な神力を感じたと探知担当から連絡がありました。」


和室の中で正座をして瞑想し厳かな雰囲気を醸し出す50代の男は、

襖越しに聞こえた報告に苛立ちを抑えながら続きを聞く。


「場所は?」


「ここから20㎞程先の河川敷辺りからとのことでした。いま式神に現場を確認に行かせております。」


遅い、男はそう思った。

自分なら20㎞先など一瞬で式神を飛ばすことが出来るのに、

最近の若い連中はまるで鍛錬が足りていない。


「いや、今はそんなことより守護神の行方が最重要か」


本当であれば1週間前のあの日、男は前当主から守護神を継承し新たな当主となるはずだった。

儀式は滞りなく行われたった一つの間違いすらなく正しく行われた、

しかし、儀式が終わると男の前には抜け殻となった前当主の遺体だけが残され男の身には一片たりとも守護神の力が感じられることはなかった。

前当主が亡くなるのは初めからわかっていた、

守護神を別のものに継承するとはそういう事なのだ、

しかし肝心の守護神の力の行方が分からない。

そのせいで一族の内部は大混乱を起こしなかには次の当主になり替わろうと企てる者たちが現れる始末だ。


「なんとしても他の者たちよりも先に手がかりをつかまなくては…」


神力を使うことが出来るのは守護神を宿したものだけだ、

そして日本で他の守護神の力を観測したことは過去一度もない。

つまりはその神力を使ったものがこの一族の守護神を宿したといういうことだ。


「手荒なことはしたくはないが、場合によってはやむなしか」


男はそう呟くと再び瞑想を続けた。


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