第48話 女王陛下
翌日、約束通り、カタリナとレンは王城へと赴いた。来賓室では、すでにヴィルヘルムが待っていた。
「旅の支度は整っているが、リーゼ様はまだ公務が残っている。少々待っていただけるかな?」
「構いませんが、一つお願いがあります。冒険にあたって、ミコトが使っていた剣をお借りすることはできますか? また、クロスさんの剣も」
レンはいつになく凛々しい顔で尋ねた。
「構わんよ。だが、レン殿は二刀流なのか?」
「いえ、剣を使うのも初めてです。でも、ぼくが二本とも、ミュートロギアの神樹に持っていきたいのです」
ヴィルヘルムはレンの心意気を買ったようだ。
「実は旅の馬車の荷台に載せてあるが、今必要か?」
「はい。お手数ですが、今すぐに借りることはできますか?」
それを聞くとヴィルヘルムは使用人に取りに行かせた。しばらくして、使用人が二本の剣を大事に抱えて戻ってきた。息が上がっている。
レンはそれらを受け取ると、ミコトの剣を抜き眺める。そして、クロスの剣も同様に。二本の剣を確認して鞘に納め、それぞれを両側の腰に携えた。
ちょうどその時、来賓室にリーゼが入ってきた。昨日のドレス姿とは違い、冒険に適した服装だった。髪も一本に結えている。
「お待たせしました。公務の引き継ぎに時間がかかってしまいました」
「リーゼさん」とレンは声をかけ、同時に彼女の前でひざまづき、腰の左側に差していたミコトの剣を鞘に納めたまま、彼女に献上するように両手で掲げた。
「近衛騎士クロス・マサトに代わり、未熟ながら女王陛下の護衛を努めさせていただきます」
と、言った。
え? 女王陛下? カタリナは話についていけてなかった。
「ふふっ。レンさんは聡明な方なのですね。ミコトから聞いていたとおり。……でも、残念ながら、まだ戴冠していないので、正式に女王にはなっていません。王位継承には勝ちましたが」
と、さらりと凄いことを教えてくれた。
ヴィルヘルムが、驚くカタリナの顔を見て、声をあげて笑う。
「ありがとう、レン。そして、カタリナ。お二人と一緒の冒険は堅苦しくなくいきたいと思います。レン、剣を納めて大丈夫です。二人とも仲間としてパーティを組んでくださいますね?」
二人はうなづいた。
「それでは、出発しようか」とヴィルヘルムが声をかけた。
馬車の場所へ向かう途中、カタリナはレンから聞いた。
屋敷に戻らなかったことは、むしろ簡単に王城から出られない身分になっている可能性があること。ヴィルヘルムより遅れて来賓室に来たことは、彼よりも忙しい身分になっている可能性があること。あとは、王城の門番の慌てた様子、出迎えにきた役人の身分が高そうだったこと、使用人などの態度から、彼女が王位を継承したと推察したとのことだった。
驚異的な観察力と論理的で深い考察力、それに加えての時に大胆な行動力。カタリナはレンという人物を理解してきているけれど、いまだに驚かされると感じた。
そして、四人は用意された馬車に乗り込み、ミュートロギアの神樹を目指して旅立った。
*
馬車の中で、カタリナとレンは、リーゼたちに冒険にあたって大切なことを伝える。
「ぼくらは、リーゼさんたちのパーティ作戦コードを暗記しています。クロスさんから教わりました」
「ミコトさんの役割に近いのは私だと思います。剣の方が得意ですが、弓も使えます。一応、エルフの森で認められた元『森の騎士』です」とカタリナが続ける。
「これはまた凄い人を、クロス殿は寄越してきたな」とヴィルヘルムが喜ぶ。
「なので、今まで通りの作戦コードで、ミコトの位置はカタリナさんに、クロスさんの位置にはぼくを当てはめて、使ってくれればと思います。クロスさんのように剣と魔法を使うようなスタイルではないのですが」
レンが作戦コードの使い方を補完した。
彼のアイデアで、出張前にクロスに頼んだのはこれだった。作戦コードを使える方が有事の際に役立つからだ。クロスは体系立てられた作戦コードをきちんと資料にしていた。資料を渡してくれる時に、「再び使うことがあると思ってたから」とメッセージをくれた。
時間のない中で覚えるのは大変だった。だが、無駄がなく的確にコミュニケーション取れる作戦コードを、カタリナは美しいなと感心もしていた。
「それは、非常に頼もしい」とヴィルヘルムが嬉しそうにニヤリと笑った。
「覚えるの大変だったでしょう?」とリーゼが労ってくれた。
道中の空いた時間に、レンに片手剣の基本を教えた。相変わらず、重要なポイントを抑えるのが得意で成長が早い。レンは、その片手剣の基礎を活かして、二刀流での構えや立ち回りを自分なりに研究していた。
街道を進むので魔物に遭遇することは稀ではあったが、それでも数回はゴブリンやスライムなどと戦闘になった。作戦コードの練習にもなり、レンの実戦経験にもなった。剣を扱うのは一本だけでも難しいのに、器用に二刀流を扱い始めていた。
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