第47話 新しい四人

 オレンジ色のドレスに身を包み、亜麻色の長い髪の若い女性が入ってきた。その女性の後ろに屈強な壮年の男性がついてきた。


「初めまして。リーゼ・マリア・レグナと申します」

 そう言うと彼女は丁寧にお辞儀をした。


 カタリナもレンもお辞儀をし、自己紹介をする。


「カタリナ・オクトベルです。こちらは、レン・テンドウインさんです」


「レンです。初めまして」


「ヴィルヘルム・バーナーだ。よろしく」


 リーゼさんの所作は丁寧だったが、心の色は少々怒りの赤色が見える。どういうことだろう。初対面で怒りの色を見せる人は稀だ。


「あなたが、レンさんなのですね。以前、ミコトからいろいろとお話は聞いてました。ところで、カタリナさん、あなたはエルフのようですが、向こうの世界にもエルフはいらっしゃるのですか?」


「いいえ。私はこちらの世界の生まれで、ハーフエルフです。今は、向こうの世界にて転生・転移管理事務所で、職員をしています。職に就くために向こうの世界へ異世界転移しました。クロスさんの同僚になります」


 クロスの名を出した途端、怒りの色が強くなった。


「レン殿を連れてきたということは、ミコトを取り戻す計画はご存知ということかな?」

 ヴィルヘルムが尋ねてきた。側にいるだけで、強者だと感じる気配。


「はい。クロスさんから聞いています。こちらの国で起きた出来事も」


 やはりクロスという言葉を聞くと、リーゼさんから赤い炎のような心の色がなびく。でも、丁寧な所作は変わらない。


「レンさんが王家の翡翠をお持ちなのですか?」


 そう言われて、レンは王家の翡翠を取り出した。虹色の輝きを見せる翡翠に、リーゼとヴィルヘルムは感心したようだった。


「やっと……」


 リーゼがつぶやき、翡翠を見つめていた。そして、柔らかい表情を見せた。


 だが、急に、

「……ところで、クロスは何故ここにいないのですか?」

 と聞いてきた。


 やはり怒っているようだ。彼女は真剣な顔だった。


 少しの沈黙が流れた。


「彼から聞いています」


 そして、カタリナは異世界転移する前に聞いていた段取りを、リーゼとヴィルヘルムに話す。レンもところどころ補足の説明をしてくれた。クロスがこちらに来れない理由を伝える。


「……わかりました」


 だが、リーゼの心の色は赤いままだ。凛とした印象のリーゼだったが、一瞬寂しそうな表情を見せた。それを見逃さなかったレンが伝える。


「リーゼさん、クロスさんはあなたに会いたがっています」


 そうなのだ。リーゼさんとクロス先輩は、世界を隔てて会えないまま、かなりの月日が経っている。


 ミコトさんを取り戻し、レン君に再会させる目的とは言え、寂しい日々ではなかっただろうか。リーゼさんは、この場にクロス先輩が来るとずっと期待していたのではないか。


 リーゼは、静かに窓の外の空を見ている。


 綺麗な人だ。そして、威厳と強さを感じさせつつも、周囲からはこの人を守らないといけないと思わせる何かがあった。それを弱さというべきかわからない。誰もが自分の宝物を丁寧に扱い同時に見惚れるように、リーゼさんにはそんな魅力があるように感じた。


「リーゼさんは、クロスさんとご結婚をされているのですよね?」


 カタリナは、以前、事務所で結婚していて単身赴任だという話を思い出し、先日聞いた異世界の冒険譚もふまえて、相手は当然リーゼだと思っていた。


 その言葉を聞いたリーゼは急に顔が赤くなった。それと同時に赤かった心の色は黄色くなっていく。 


「カタリナ殿、リーゼ様とクロス殿は、正しくは婚約という関係になると思うぞ」


「あれ? そうなのですか? クロスさんから結婚していて単身赴任だと聞いていたものですから」

 レンが、すかさず単身赴任とはどういうことかを補足してくれた。


 クロスさんはややこしい説明を省きたくて、あの時はそう言ったのかと、カタリナは今、理解した。


 リーゼさんの顔は真っ赤で、ちょっとうつむいている。ああ、なるほど。ミコトさんが彼女をからかい、そして可愛がりたくなる気持ちがわかった。


「きちんと左手の薬指に指輪をしていましたから、てっきり」

 と、思わず追い撃ちをかける。


「ですね。それに、時々、その指輪を大切そうに眺めていました」

 レンも添える。


 二人の追撃にやられたリーゼは、うつむいたまま黙ってしまった。


 だが、心の色は嬉しさの黄色だ。よかった。少しだけ彼女の心を癒せたと思う。そして同時に、クロス先輩にとっては何か大いなる危機を救ったのだ。帰ったら、奢ってもらいたい。


「今日のところは、リーゼ様のお屋敷で休まれるといいだろう。手配しておく。我らはまだ王城で務めがある」


 ヴィルヘルムが助け舟を出したようだ。


「明日の昼前までには、またここを尋ねてきて欲しい。旅の支度はこちらで用意しておく。午後には手筈通り、ミュートロギアの神樹へ向けて出発しよう」

 さらに、ヴィルヘルムが方針を示してくれた。


 カタリナとレンは王城を後にし、リーゼの屋敷にやっかいになり、その日は過ごした。だが、リーゼは王城から帰らなかったようだ。

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