第46話 二人の異世界転移

「『眠れる宝石』を施した宝石と俺の指は、俺にしか見えない光る糸のようなものが結ばれることは話したね。転移する前に、異世界でリーゼのルビーの指輪やアイオライトの髪飾りなどに、『眠れる宝石』を使ったんだ。そして、今もスキルを使おうとすると、俺の手からは天に昇る光の糸が見えるんだ」


「つまり、その光の糸は異世界まで繋がっている。たどらせて、翡翠から身体へミコトの魂を導くってことですね。きっと、クロスさんの手からぼくが持っている翡翠へも光の糸がある」

 レンは持っている翡翠に目をやって確認するように言った。


「ああ、そのとおりだ。だから、ミコトの魂が翡翠に宿ったら、こちらの世界の彼女の身体に魂を導く。レン君、申し訳ないけれど、これは俺にしかできない」

 レンは理解を示したように、うなづいた。

 

 カタリナは役割を整理してみた。


 レン君は、ミコトさんの魂を翡翠に取り戻すために適任。レン君はスコアの都合で長期に異世界に転移できない。だから、その都合が影響されない転生・転移管理事務所の見習いになった。見習いは単独では異世界へ出張できない。同行者が必要。それが私。クロスさんは、ミコトさんの魂をこちらの世界の身体に戻すために必要。異世界には行けない。


 ……無駄がない配置だった。クロスさんはどれだけ準備してきたのだろう。私の就職の時よりも前からだ。リーゼさんの元を離れて、寂しいはずなのに。ずいぶん時間をかけているのではないか。


「絶対、成功させないといけないですね!」


 カタリナは思わず気合が入った声を出してしまった。


 ハーフエルフだからと、エルフの森で仲間外れにされていた日々をちょっと思い出す。でも、今は、自分を必要としてくれている人たちがいる。それだけで、力が湧いてくる。


「ああ、もちろん」とクロスとレンも応じた。


「カタリナさんはこちらの世界に転移した時、向こうでの身体は魔法陣の中に封印されている。異世界転移の際に、その召喚魔法陣に身体も封印解除されて同化できるから。こっちの世界では病院で管理が必要なのにな。向こうは便利だ」

 クロスさんは向こうの転生・転移管理についても、よく知ってそうだった。


 *


 月曜日。十時前に女神ヶ丘病に着いた。クロスは転生・転移管理事務所の仕事があるため、レンとカタリナの二人だ。


「先に会わせておいた方がいいと思って」と、レンはミコトの病室へ案内したいと言ってきた。カタリナもこの世界で眠ったままのミコトに会いたかったので快諾し、彼についていく。


 レンは時間が許す限り、ミコトの病室に通っていたという。いつも病室へ向かう廊下で、今日は起きているかもしれないと思っていたそうだ。その期待は毎回裏切られ、そして、病室で静かに寝ているミコトを見て、安心もしていたそうだ。ミコトが生きていることが、彼の希望でもあったのだ。


 ベッドの上で寝ているミコトは、髪が長く伸びていて、日にあたっていないせいか肌は白かった。話に聞いていた快活なイメージとは、かけ離れていた。でも、綺麗だった。


 レンはベッドの側にあったパイプ椅子に座り、ミコトの手を取った。後ろからなので彼の表情は見えない。


 レン自身、ミコトさんに会いたかったのだろう。二人きりにさせたくて、静かに病室を出た。この二人をちゃんと会わせてあげたい、と心底思ったのだった。



 十一時前までに病院で説明を受け、支度を整えて、二人はそれぞれ別のベッドに寝た。そして、いつの間にか静かに寝てしまった。


 *


 ふと目が覚めると、カタリナは魔法陣の上に立っていた。隣には、驚いた顔をしているレンがいた。異世界の景色を初めて見て、驚きを隠せないでいるようだった。


 カタリナは身につけているものを確認する。森の騎士として授かった聖剣も腰にあった。戻ってきたのだ。背中には愛用していた弓もあった。


「レン君、おはよう? かな。王家の翡翠はある?」


「大丈夫です。王家の翡翠も印章もあります」


 魔法陣の上は屋根がなく吹き抜けになっていた。周囲は魔法陣を保護するための壁があり、一箇所だけ通路になっていた。そこから出られるのだろう。二人はその通路を進んだ。


 通路の出口には建物が立っていて、門番がおり、二人の名前や異世界滞在期間を確認してきた。つまり入国管理のような手続きだった。それが終わると、門番に王城への道を尋ねた。道も教えてもらったが、街中でひときわ高く建っている王城は探す必要もないほど存在感があった。


 王城の正門にたどり着くと、持っていた印章が聞いていたとおり、淡い緑色に輝いた。


 正門の衛兵に印章を見せ、自分たちの名前とリーゼ・マリア・レグナ様に会いにきたことを告げた。またクロス・マサトの名も添えた。衛兵はひどく驚き、困惑した様子だった。確認するために、ここの詰め所で待機してくださいと案内してきた。


 二人はしばらくその場で待っていたが、やがて身分の高そうな案内人が来て、王城の内部への導いてくれた。


 王城の来賓室に案内された。豪華な調度品が並んだ部屋だった。二人は用意された椅子に座って待っていると、ドアがノックされた。側にいた使用人がドアを丁寧に開けた。

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