第41話 想いを信じて
テルミヌスの村に着き、ヴィルヘルムが村長に事情を説明した。彼は脅威が去ったことに安心した様子だったが、クロスたちが仲間を失った事情を知り、肩を落として悲しんでくれた。村長の厚意に甘え、その日は村に泊まった。
*
王都レグナレットへの帰り道も静かだった。三人とも重要な話は王都に戻ってからと、暗黙に決めていたのだった。
リーゼの屋敷に戻り、休息を取った後、リーゼとヴィルヘルムは王城に報告しに行った。
――行動する勇気さえあれば、世界は変えられる。
ミコトの言葉を思い出し、クロスはいくつもしないといけない覚悟のひとつをした。
あまり多くはないお金を持ち、まずは道具屋へ。冒険に必要な道具を売り払って、お金に変えた。だが、自分の剣だけはミコトの形見の様に感じ、売る気持ちにはなれなかった。もちろん、リーゼから借りていた宝石の装飾品は返さないといけないから売らない。
次に、王都にある金細工の店へ向かった。プラチナの指輪を二つ。そしてネックレスのチェーンを買った。指輪の一つはクロスの指に合うサイズだった。
あの場は勢いで言ってしまったけれど、それとは別にきちんと自分の気持ちを伝えないといけない。叶わない想いだとしても、けじめをつけたかった。
屋敷での夕食の時、クロスは後で王家の翡翠のことについて話をしたいと申し出た。談話室で、三人は話をすることになった。
談話室で三人が揃うと、まずヴィルヘルムが王城へ報告しに行った結果をかいつまんで説明してくれた。
「ミコトを犠牲にして生まれた聖なる力をもった大樹は、『ミュートロギアの神樹』と名付けることになった。また、発生していた脅威は、『腐食の厄災』に認定された。一年以上も早く厄災が現れたことについては、後日調査をするそうだ。ふん、勝手なものだな」
ヴィルヘルムは何かを思い出したのか、少し機嫌が悪くなったようだ。だが、リーゼは静かなものだった。なぜだろう。佇まいが、あの騎士の儀式を思い出させる。
「クロス、王家の翡翠でミコトを救えるのですよね。説明してください」
静かな声だったが、有無を言わさぬ迫力を伴っていた。
「ミコトを確実に救えるとは言えない。でも、全力を尽くしたい。いくつか困難が伴うと思う」
クロスは、一度目を閉じて、自分がやろうとしていることを確認する。そして、口を開いた。
「この魔法を込めた王家の翡翠を、ミコトのことを一番に大切にしている人に渡す。そして、想いを込めてもらう必要がある。王家の翡翠に、魔力と想いを最大限に溜める。それから、その翡翠をミュートロギアの神樹に掲げて、ミコトの魂を翡翠に移動させる。後は、ミコトの身体に魂を戻して復活させる」
ここまで一気に言ってから、具体的に説明する。
「まず、ミコトを一番に大切にしている人だけれど、それはミコトの恋人だ」
「テンドウイン・レンという方ですね」
リーゼはミコトの惚気話というか恋話を聞いていたのだろう。
「ああ。ミコトが元いた世界にいる」
「どうやって、元いた世界に行くんだ? ミコト自身、その方法を探していたはずだ。彼女の目的はその恋人の元へ帰ることだった」
ヴィルヘルムも知っていたのだ。だから、聞いてきた。
「ミコトが遺してくれたこのバイカラー・トルマリンを使う。『眠れる宝石』を使って、魔力とミコトの想いを蓄えてある。元の世界に戻りたいという想いだ。この宝石で瞬間移動の魔法を使う」
クロスはその宝石を二人に見せた。
「ミコトが最後に言っていた、帰る手段というのはこれでしたのね。向こうの世界で彼を探し、王家の翡翠を渡して想いを込めてもらうのかしら?」
クロスはうなづいた。
「王家の翡翠に十分に魔力が蓄えられ、想いが込められたら、彼をミュートロギアの神樹に連れて行き、ミコトの魂を王家の翡翠へと取り戻す」
ヴィルヘルムは話を聞いていて、顎に手を当てながら、首を傾げた。
「だが、ミコトの身体はもうないのではないか。魂を取り戻したとしても……」
「俺とミコトは向こうの世界から来た転移者だ。おそらく転移した時に、こちらの世界の身体を与えられている。そして、向こうの世界には、なんというか魂が抜けた身体があると思う」
そして、クロスはミコトも自分も見た『病室で目が覚める夢』の話をリーゼたちに伝えた。
「つまり、王家の翡翠に取り戻したミコトの魂を、今度は向こうの世界にいる彼女の身体に戻すというわけか」
ヴィルヘルムが理解を示し、付け加えてくれた。クロスはうなづく。
「今説明した全てを実行しないと、ミコトを取り戻すことができないと思う。困難な点はいくつもある。
一つ目は、このバイカラー・トルマリンで本当に向こうの世界に戻れるか?
二つ目は、向こうでミコトの恋人を見つけることができるか?
三つ目は、その彼が本当にミコトのことを今でも想っているか?
四つ目は、彼と王家の翡翠を、こちらの世界へ転移させることができるか?
五つ目は、ミュートロギアの神樹からミコトの魂を本当に取り戻せるか?
六つ目は、取り戻せた魂を向こうの世界のミコトの身体にどうやって届けるか?
と、かなり難易度は高いと思う」
リーゼは静かにクロスの顔を見て、
「クロス、あなたが行くのですか?」と聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます