第27話 星空の下で
月明かりが街道を照らしている。リーゼを探している時には全く気づかなかったが、晴れて高い空にたくさんの星が輝いていた。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
リーゼが馬車を運転しながらだったが、クロスの顔を見つめて言った。
「えっと、あの、無事で良かったです。俺の方こそ洞窟で助けてもらってますし、酒場では迷惑をかけてしまって」
軽く横に首を振ると、リーゼは言った。
「この翡翠に何かしてくださったのでしょう? 前からずっと身につけているものでしたけれど、今回のように何か力が発動して、守ってくれたのは初めてです」
「『眠れる宝石』というスキルです。宝石に魔力を流し込み魔法を発動させるものです。翡翠に触れさせてもらった時、リーゼさんを守れという誰かの想いが翡翠に込められていたのがわかりました。なので、俺はその想いが自動で発動するように魔力を込めたのですが……。初めて使ったので、加減がわからず一気に魔力を注入してしまったようです。すいませんでした」
リーゼはクロスの話を聞いて、とても嬉しそうな顔になった。
「……この国では、母親から娘へと代々、大切に宝石が受け継がれていきます。クロスさんは、私の母の願いも叶えてくれたのですね。本当にありがとうございます」
クロスは、自分の顔を熱くなるのを感じた。夜風がいっそう涼しく頬を撫でる。
「リーゼ。すごいよね、クロス君の魔法」と、馬車の横に馬をつけてきたミコトが言う。
「わしはできたら、リーゼ様の翡翠に今回の魔法を引き続きかけておいて欲しいと思う」
ヴィルヘルムも会話に入ってきた。
「そうだよね。今回のような時、リーゼを守れるし、クロス君が探せるし」とミコト。
「探せる? どういうことですか?」
リーゼがクロスに尋ねる。
「えっと、俺のスキルは宝石に触れないと使えません。触れてスキルを施した宝石なら、その場所がわかるんです。俺にしか見えない、指から糸みたいな線が伸びて宝石に結びついているんです」
クロスは、リーゼたちには正直でいたかった。だから、スキルのことも話す。所詮、高価な宝石を持っていないと使えないスキルだ。
「それで、私を見つけてくれたのですね」とリーゼは嬉しそうな顔だった。
「翡翠のためにリーゼの居場所がわかってしまうのは、良いことなのか悪いことなのか」
と、ミコトは口に出しながら悩んでいるようだった。
「どういうことだ?」とヴィルヘルムは尋ねる
「だって、クロス君にリーゼの居場所がバレバレになっちゃうんだよね」
「だから、今回はすぐに見つけることができであろう」
「でも、もしね。クロス君が裏切ったら? 居場所がわかるから追跡は楽だし、うちらの隙をついてリーゼを捕らえて、翡翠の魔法を解除したら? 奴らにそそのかされてさ。最悪の事態だよね」
ミコトは、クロス本人の前で冷静に最悪のケースを共有したのだった。
「そこまでいかないにしろ、リーゼの気持ちを考えたらね。居場所がバレているのは落ち着かないでしょ」
「確かにな。だが、翡翠にかけてくれてた魔法は非常に強力だと今回の出来事でわかった。最悪の事態を回避できるのは非常に大きい。問題は、リーゼ様の所在を秘密にすることを約束させ、裏切らせないということだな」とヴィルヘルム。
リーゼは複雑な顔をしていたが、何かを思いつき二人に確認した。
「今の話は、私たちのパーティにクロスさんが加わっている前提ですよね?」
「もちろん」
ミコトとヴィルヘルムが声をそろえて言った。
それを聞き、リーゼは声を上げて笑った。二人とも、クロスをもう受け入れているのだ。
「クロスさん、私たちのパーティに正式に入りませんか?」
リーゼは、馬車の運転に気を使いながらも、クロスの顔を見て言った。
「えっ?!」
「もう仲間って感じだけど、正式にってことを確認しないとだね」とミコト。
ヴィルヘルムもうなづいている。クロスは応える。
「……はい。よろこんで。こっちの世界に来て……いや、その前の世界でも、俺には居場所と言えるところが無かったです。俺の方からも、お願いします」
「はい。では、よろしくお願いしますね」
リーゼは、微笑んで応えた。
四人は無事に宿屋に戻った。明け方近い時間になってしまったが、四人は三部屋に分かれて休むことにした。リーゼとミコトは相部屋だ。
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