第21話 伝説の英雄の墓を荒らす大事件・・・

それは現在、紅音達が居る国とは違う国で起きた大事件のことである。


 ある日、普段とは一段と空模様が暗い夜の日。闇を好み、その底なしの沼から抜け出せずにいた荒くれ者三人はとある墓地へと向かっていた。その目的は無論、墓荒らしである。実に罰当たりな連中でなんとも木端と言い捨ててしまえる。しかし、今回の事はある意味で彼らを命知らずの馬鹿という意味で『勇士ゆうし』と人々は呼ぶであろう。

 その理由は彼ら自身が目的地へと至る道中で語ってくれている。


「あ、兄貴! ほんとにこっちで合ってるんスカ?」


 目的の墓場へと辿り着くには侵入者を惑わせるための魔法がこの森には掛けられているのだ。しかし、正しい道を辿れば難なく辿り着く事はできる。


「馬鹿お前! 今更弱音吐いてんじゃねぇよッ! 確かな筋からここの安全通路は調べてんだ。もし違ったら俺たちは明日の朝までこの森の中でさまよい続けて朝になったら巡回してる衛兵に捕まり、独房へブチ込まれた後は極刑ってだけだ。安心しな」


「どこも安心できねぇじゃねぇでスカ!!」


 そうツッコむも兄貴と呼ばれたこの墓荒らしのリーダー格の男はため息をついて答える。


「おいおい、だからこの俺がそんなリスクを負わねぇようにしてるって言ってんだよ! 察しワリィな」


「いや、今の話にどんな察せる要素が……」


「うじうじ言ってんじゃねぇ! もういいだろ。見えてきたぜ」


 無事に三人は目的の墓所の前まで来る。墓と言えどもただ墓石があるのではなく、遺跡のような石造りの建造物だった。そしてその入口には遺体が眠る棺へ続く地下への階段があった。

 いかにもな雰囲気を感じ取った墓荒らしの一人はつぶやく。


「ここが……あの伝説の英雄【黄帝ノ勇士こうていのゆうし】の墓……ッスカ」


「ああそうだ。歴代最強の勇士とうたわれた五代目。そしてこの墓にはそいつ専用の伝説の装備一式が遺体と共に埋葬されている」


 すると、今まで沈黙していた三人目の墓荒らしが疑問を口にする。


「でも、そんな高価なもんよく国宝とかで国の宝物庫とかに収納されなかったんですかね? そういう逸話物って王国的には大好物じゃないんですか?」


「ま、そこら辺は詳しくは知らんが当時の王様と仲良かったとかじゃねぇの? つーか、んなこたどうでもいいだろ。さっさと入るぞ!」


 中へと入るため、墓荒らしのリーダー格の男がランタンを灯す。そして三人目の墓荒らしに指示を出す。


「あ、それとお前はここで待機だ。見張ってろ。何かあったら急いで知らせろよ」


「へーい」


 こうして墓荒らしのリーダーと、それを兄貴と呼ぶ墓荒らしの二人が伝説の英雄が眠る地下室へと土足で入り込んで行く。

 意外にも長い階段に飽きてきたのと不安が募った墓荒らしの一人が話し出す。


「それにしてもなんですが兄貴。五代目ってだいぶ昔に存在した勇士でしょう? その装備品って……錆びてたりするんじゃないスカね? 状態次第じゃ大損じゃ……」


 苦言を呈する部下の言葉に苛立ちを覚えたリーダー格の男はキレ気味に返答した。


「馬鹿言え! 伝説の装備だぞ!? そういうのは……まぁ。魔法かなんかで錆びないようにしてたりとか、伝説だから錆びないとかだろ、きっと」


 もしかするとこいつの言う通りかもしれない。という思いが頭の中を駆け巡る。ここまで来てこんな気持ちになり始める自分の頭からそんな不安を取り払おうと頭を左右に振り、部下へこう告げた。


「だいたいお前は心配性が過ぎるんだよ! 少しは明るく振る舞え! ここにある物を売っちまえば一生……いや二、三生遊んで暮らせる金が手に入るんだぞ!? そうすりゃあ俺たちは【ギガス海空挺団】からも足を洗える。……そうだろ?」


 彼らはかなりの下っ端とはいえ、【ギガス海空挺団】という最も有力な海賊もとい空賊団の一員である。だが現在は軽い足抜け状態である。故に正当に団を降りるためにも手っ取り早い方法は金である。

 その言葉を聞いた部下は納得いっているような、いっていないような曖昧な返事をするもそれに構わず続けて言った。


「ほら! いくら今日当番の衛兵に賄賂を渡しているとはいえ、タイムリミットはある。さっさと見つけて運ぶぞ!」


「へい!」


 二人はせこせこと階段を駆け足で降りる。

 そうしているうちに無事、二人は英雄の眠る棺へとたどり着くことができた。


「ようやく着いたようだな。そして、この石の棺の中にお宝が眠ってるってわけか」


「そうっスネ。……ん?」


(ん、なんだか棺の蓋が少し傾いているような……)


 部下はとある違和感に気づく。本来、きちっと封されているはずの棺の蓋が少し傾いている様に見えるのだ。そこから得体のしれない怖気を感じ取ろうとした時……。


「ほら! 何をボサッとしてる! さっさと開けるから手伝え!」


「へッ、ヘイ!」


 リーダーに急かされた部下は先程までの違和感を払い除け棺の蓋を開けるの手伝うことにした。

 重い石の蓋を二人で一生懸命に押し出すことでその蓋を開けることに成功した。リーダーの男はランタンをかざして棺の中を確認する。


「おお! これが……やったぞ! ちゃーんと一式揃ってやがるな」


「すげぇ装飾っスネ! 俺にだってこれが伝説の装備って言われなくたってわかっちまうくらいにはすげぇもんを感じやす!」


 中には無事、伝説の英雄が身につけていたであろう鎧、剣、盾の一式全てが主と共に眠っていた。何百年と眠っていたはずの鎧や剣は錆びることも朽ち果てることもなく、全盛期と変わらぬ美しさとオーラを纏っていた。

 暗がりで全貌を隈なく見れないが、黄色を基調とした黄金に輝く鎧には銀の装飾が施された神々しい一品であった。歴代最強とうたわれる理由が分かってしまえるほどに素晴らしいこの装備を売ることができれば確実にウハウハなのは間違い無しと鼻息を荒くし、興奮だったリーダー格の男が目を輝かして部下に言った。


「よーしこれを運び出すぞ!」


 その言葉に元気よく反応する部下。二人は鎧を棺から運び出そうと手を伸ばした。

 そう……その時だった。


「ふぐッ!! んっガハ!」


「あ、兄貴!!」


 突如リーダーの男は苦しみだし、血反吐を吐く。そしてその腹には英雄の剣が突き刺さっていた。

 男はその剣を引き抜き、よろけながらも急いで常備していたポーションで回復する。だがそれよりも男は今自分が見ている信じられない物のほうにショックを受けているようだった。


「嘘だろ。こんなん予想できるか……!」


 そう、英雄は動き出したのだ。何百年の眠りから覚めたかのように……。


「伝説の英雄がアンデット化してるなんてよォ!!!」


 この異常事態を男はアンデット化した英雄に襲われたのだと判断する。……伝説の英雄。まさしくその存在は神にも愛されていると断言しても過言ではないほどの人物がアンデットに成り下がっていたのだと。


「ど、どうしやす兄貴! あ、兄貴ならアンデットくらい倒せますよね?」


「馬鹿言え! 伝説の装備ぶら下げたやつに俺の攻撃が通じるかよ!」


 慌てふためく部下をよそに男は考える。先程も自分で言ったように全身フル装備でかつ伝説の代物を身に着けたアンデットに勝てるとは思えず、どうしたものかと考えるがあることに気づく。未だ棺の中から出てこないのだ。いや、正しくは出ようとはしているが体の操作がおぼつかないのか、出てこれていないが正しいと言える。これはまさしくチャンスと捉えた男は口惜しながらも言い叫ぶ。


「チッ……逃げるぞ! 幸いまだ動きがぎこちない様だからな!」


「ヘイッ!!」


二人は分け目も振らず急いで階段を駆け上がる。その最中にリーダーの男は頭の中で愚痴を吐き捨てる。


(クソがッ! とんだハプニングだ! 伝説の英雄がアンデットに成ってるとかおかしいだろ! ……だが棺から出てくる時に見たあのギコチない動きからしてアンデットに成ったばかりと推察できる。なら俺たちを追ってきてもすぐには追いつけやしないはずだ。だったら逃げ切れる!)


 階段を駆け上がり、無事に外への入口まで辿り着く。その安堵からか、疲れがどっと出て膝に手を置いて少し休み始める。


「はぁ……はぁ……」


「どっどうしたんですか兄貴たち……? 例の勇士の装備品はどうしたんですか?」


 息を切らしながら戻ってきた二人を見て異様さを覚えた見張りの部下が質問する。

 それに対し男はかすれ声ながらも答えようとした。


「今はもうそれどころじゃねぇんだ! 早くここから帰――」


 男が言葉を言い切る前に突如として男の喉から剣先と、男の血しぶきが現れたのだった。

 そう、アンデット化した英雄はもう追いついてしまっていたのだった。


「う、うあああああああああああ!!!」


 男と共に地下へと潜った方の部下は恐怖のあまりそのまま森の中へと逃げて行ってしまう。


「えっ、おっおい! そっちは――! うお、なんだこいっ」


 あらぬ方向へと行ってしまった仲間の一人を止めようと声をかけようとしたが、次の瞬間にはもう英雄の間合いの中に居たのだった。

 それとは別に森の中へ逃げていってしまった最後の部下はただただ恐怖でいっぱいだった。


(畜生! 兄貴がやられちまった! もう駄目だ、殺される! い、いやだ! 死にたくない! 死に、死にたくぬあああいッ!!)


「うべッ!!」


 突如何かにつまずいた男は倒れ込んでしまう。その痛みは涙と恐怖による興奮で幾ばくか痛みを感じにくくなっていた。だがそのおかげで少しは冷静さを取りもどせた。


(畜生、何かにつまずいちまったみたいだ。早くここから出ねぇと、あの化け物に殺される! それにいつか巡回してくるだろう衛兵にでも見つかったら捕らえられて兄貴が言ってた顛末てんまつをたどることになっちまう)


 そうして立ち上がろうとした時、ふと後ろ確認した。後ろから追ってきていないかなどを心配して……。


「ヒィッ!!」


 だがそうしなければ良かったと後ろを見た時に思う。自分が躓いたものは木の根か何かだと思っていたのに、その正体は仲間の首であった。

 驚きとともに体は跳ね上がるように仰向けになり、そのまま後ろへと後ずさる。が、「ガシャン」っと何かにぶつかる音がした。


「――ッへ」


 その重い金属音の正体に薄々察しながら恐る恐る後ろへ振り向く。


「あ、ああ」


 案の定、そこに居たのはアンデットと成り果てた英雄が、墓荒らしの男を静かに見下ろしていた。


「あ、あ、あ」


 英雄はゆっくりと剣を両手で構えて剣先を自分の足元で座り込んでいる男へと向ける。


「あああああああああああああああ!!!」



 ――明朝。巡回に来た衛兵が死体を発見。その報告を受けた王国上層部は、その内情を知ろうと厳重な調査をすることとなる。結果としては墓荒らしに来た賊が伝説の英雄の装備品を見事奪い取った後、同士討ちによる争いの末と断定。国家としては今回の事件は国の英雄が眠る墓に墓荒らしが来てまんまと持ち逃げされたと国民に報じることもできないため、内々に処理する事となった。


 そして遺体の身元を調査した結果、【ギガス海空挺団】に所属する下っ端であることが判明した。故に国は【ギガス海空挺団】による組織犯罪も考慮するも、先述の通り同士討ちの痕跡がある以上は彼らが保有しているとは考えにくい。そのため英雄の装備がどこへ流れてしまったのかは分からないが早急に回収するように取り組まれることとなった。これが大事件の全貌である。


 一体、英雄はどこへと消えてしまったのだろう。そしてそれは今もなお彷徨い、いつの日か相まみえる事となろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


*このあとがきに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。


ステータス

 名前:???

 世界異能:???

 称号:【黄帝ノ勇士こうていのゆうし

 種族:???(元人間)

 魔法:???

 耐性:???

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