第20話 早朝の技術革新

 早朝の時、彼女たちは目を覚ます。


「んっ……んー! ……ふわぁあ」


 陽光が差し込めるテントに、澄み切った空は街中で眺めるものとは違った。草原のほのかな匂いと晴れた自然の景色は素晴らしきものであった。そして昨夜に出来たばかりのクレーターからは独特な土の香りがしてくる。


「やっぱり夢じゃねぇのか。あれ? あのロブスター、どこ行きやがった?」


「ふわぁ……おはよう紅音」


 あくびをかいて眠そうにしながら、あのロブスターを両手で抱きかかえながらグリルはテントから出てくる。


「なんだ、抱き枕にしていたのか。……え、何で? 硬くない?」


「んー、なんていうか。美味しそうだなーって……あ!」


 そう彼女が言ったのを聞いたロブスターは暴れ出して彼女の元から離れて紅音の後ろへと回り込む。


「まぁ確かにロブスター自体は食いもんだし美味いとは思うが……宇宙から来たロブスターはやめとけ。腹壊すぞ」


 彼女がそう注意すると、グリルは「心外だ!」と言わんばかりにムスッと頬袋を膨らまして言う。


「そんなただの冗談だよ! 確かに美味しそうだと思ったのはホントだけど、食べる気はないよ!」


「うん、思ったんだな。……まぁいい、朝飯食ったら出発するからな」


「うん!」


 彼女たちはひとまず、朝食の干し肉と硬いパンを食す。

 特段何か話すことはなく、黙々と食べ食事を終える。


「さて、そろそろ出発しようと思うんだがぁ……。如何せんこのまま歩いて行くのはやっぱり途方もなさすぎて良くないと昨日の経験を経て思った……ていうか気づいた」


「じゃあどうするの?」


 グリルは彼女の発言はいいとして、それを解決する案が何かあるのかと尋ねるも、そもそも彼女にそのような案がもしあれば、はじめからそうしているものだ。彼女はばつが悪そうに頭を掻きはじめる。


「それ何だよなぁ……。そこらの木とかを金に変えて車とか作れたら良いんだけど、できるわけねぇからな。荷馬車みたいなもん作るにしても馬がいねぇしなぁ」


 そう二人して頭を悩ませる。……しばらく考えた後、グリルが閃く。


「紅音の金って結構自由自在だよね? だったら同じ感覚で車輪とか回わせないの?」


「え? ……確かに、車輪が回るイメージだけをするなら案外できっかも。試してみるか」


 ものは試しと、取り敢えずそこら辺の雑草をむしってそれを金に変える。そしてそれをミニチュアサイズの4つの車輪がついた板の形に変形させ、それに触れながら4つの車輪が回るイメージをすることで回すことは出来た。が、イメージがしづらくだんだんと疲れが出始めた。


「ウッ……ちっちぇやつで試したら、できはしてもめちゃくちゃ精神的に疲れるし上手く回らねぇ。……これ、なんとかならねぇかな」


 アイデア自体は良かったもののそれを簡単に実現することは出来なかった。何かこれを成功させる案は無いかと、子供がミニカーを遊ぶような手付きで思考にふけりはじめる。


(ううん……まず金を操ったり動かしたりすんのは触れながらアタシの頭で回さなきゃできないこと。それを瞬時にする方法。そしてあんまりイメージすること無く永遠と同じ動作を繰り返す方法……アニメや漫画の知識が豊富だったらなーんか思いつくかもしれねぇがあんまし興味がなかったからなぁ……なーんも思いつかんわ。……いや待てよ)


 ここで彼女の脳裏に電流が走る。


(そういや今思い出したが、あの野郎ナット・ガインが能力使う時、なーんか言ってたよな? メタルなんとかって……もしかしてそういう技名みたいなのをつけるのが良いのか? ミニルも『【斬手刀】ッ!!』ってよく叫んでたし、試してみるか)


 彼女はまたそこら辺の雑草をむしり取る。


「……じゃあこの試作のミニチュアを『ミニ荷馬車』と名付けるとして……『ミニ荷馬車』!」


 すると彼女の手には先程作った物と瓜二つのミニチュアの荷馬車が現れる。


「おぉ! す、すげぇ、マジか……。お、同じだ。全く同じのやつだ」


 彼女は驚くと共に全く同じものが出来たことを確認したことで、能力の応用性が広がった。

 つまり、事前に生成したものに名前をつけて保存するという『プリセット』を行い、その名を叫ぶことで同じものを生成または変形が彼女の能力の場合は行えるということを知覚した。これにより、一部擬似的な無意識下での能力の行使をする事ができるため、脳への負担が一気に軽減することとなる。


「なるほどな。これならイチイチ頭ん中でイメージしながら能力使わずに済むっつーわけか」


「あ、紅音、どう? いけそう?」


 一連の行為をただ見ていたグリルには何が具体的に起こったのか分からなかった。それに対し彼女は自信ありげに答える。


「ああ、多分いけそうだ。これならさっさと楽に出発できそうだ!」


「あっでも、あの白い岩の塊はどうする? あのままでいいのかな?」


「ん? 白い岩……あーあの隕石みたいな乗りもんの事か、いやー持ち運ぶとか無理そうだし放置するわ。何か他に物とかありそうじゃなかったし」


 昨夜、恐る恐る中身を確認したが特段何も無かった。あの中にあったのはあのロブスターと福音書と現地の言葉で書かれた謎の本だけだった。

 この時、彼女はロブスターの処遇について何も考えてなかったことを思い出す。


「なんか馴染んでて忘れてたが、コイツ連れてくか?」


「え、あ……駄目?」


「いや駄目っていうか……得体のしれないものを連れてくのはなぁ。……まぁ、非常食にはなるか」


 彼女の発言にロブスターは「ビクッ!」っと身体をはねさせる。続けて彼女は言う。


「うん。連れてこう」


 逃げようとするロブスター。だが彼女は無言で尻尾を鷲掴んで持ち上げる。


「グリル、持っとけ。逃がすなよ?」


「もちろん!」


 彼女から渡されたロブスターをしっかりと抱きしめる事で抑える。ロブスターは必死に抵抗する様を見ながら彼女は喋りだす。


「宇宙産のロブスターでも火さえしっかり通せば多分大丈夫だろ。ま、あんましアタシとしても食いたくはねぇから非常の非常食としてだがな」


 それを聞いたロブスターは抵抗を諦めた。そして紅音は近くの木へと近づく。


「さーてそこらの木を金に変えて――ってそれも名前つけた方がいいのか? そうだなぁ……」


「んじゃあ【金触きんしょく】と名付けるか……【金触きんしょく】!」


 すると、通常のスピードよりも早く金へと変換された。


「んじゃあ、ミニ荷馬……ってサイズ違うしイチから作らねぇとな」


 そうして彼女は大きな粘土で荷馬車を作っていくのような感覚で完成させた。


「よーし! んじゃま適当にこれを『荷馬車』って名付けて、車輪の回転を略して『車転』とするか」


 このように着々と進めた事によってほぼ全自動で動く黄金の荷馬車が出来たのだった。


「金だから派手だし、なんか悪趣味だけど……。まぁいいか、背に腹はかえられん」


「んじゃ早速行くとしますか!」


「うん! 出発だね、紅音!」


 二人はその荷馬車に乗り込んで旅を再び進め始めるも、この中で唯一肩身を狭くしているロブスターが一匹……居たのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


*あとがきに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。


よろしければ、感想や評価といった応援等々よろしくお願いします。結構励みになりますので。


*今回の実績

 神閤紅音かんごうあかねの能力の技量が上達した!

 ロブスターは身の危険を感じた……。

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