第一章:狭間の森
第22話 陽気な冒険者
あれから数時間の時が経った。ロブスターは彼女たちに対してあからさまに距離を取っている。ずーっとこのような調子なもので、それを見かねた紅音はロブスターに向けて先程の発言は冗談だった事を告げる。
「おいおい、さっきのは冗談だって! そう怯えんなよ、な?!」
そう紅音がロブスター言う。すると彼女の隣りにいたグリルが驚いたような表情をする。
「え!? 冗談だったの!? ……なーんだ、残念」
彼女は言葉通りに受け取っていたらしく、いつの日かロブスターを食べれるのかもしれないと少々期待していたようだ。それを聞いた紅音は少し引き気味でツッコんだ。
「いや、……ちょっと期待してたのかよ」
さて、多少はロブスターが彼女たちに対する誤解は解けた所で、紅音は日が落ち始めているのに気づく。あれからほぼ自動で馬車の車輪は動き続けている。
しかしどうにも道が完璧に舗装されているわけでもないためか、それとも馬車の構造に何か問題があるのか、ガタガタと揺れに揺れまくり、下手をすれば思わず吐いてしまうほど乗り心地が最悪な物となっている。それにより、自動で動いているとは言え、とても休まらない事もあってか足を動かしてなくとも彼女たちには着々と疲労が溜まっていた。
「にしてもそろそろ暗くなってきたな。歩きと違ってガタガタで乗り心地が悪くても、それなりの距離は進めたんじゃねぇかなぁ?」
そのように言いながら彼女はどこかを自分たちのキャンプ地、本日の野営地を探そうと身を乗り出してあたりを見渡す。
「そろそろテントを張らねぇとな、ってぇ……ん?」
辺りを見渡していると、丁度進んだ先になにやらテントらしきものを発見する。それなりの距離離れたところから見える辺り、かなり大きめのテントのようだった。
「何か見えるな。あれは……お! 冒険者
目を凝らして凝視した所、冒険者
「あ、でもどうすっかなぁ。こんな金ピカ馬車っつうか荷台みたいなもんか。これそのままでいくのはちっとまずいよなぁ」
金ピカの馬車。しかも馬を連れずに動かしているなど異様の極み。このまま向かうのは必ず問題ごとの種になると彼女は考えた。実際、それは正しい。このまま向かえば必ず問題になることは間違いなしだ。それ故に彼女は決断する。
「仕方ない。ここで一旦降りるか、歩いて行くぞ!」
ここから降りて歩いて向かおうという旨を伝えた所、グリルは心底面倒くさそうな顔で理由を尋ねる。
「えぇ、なんで?」
「なんでって、どう見たってこの馬車のままじゃまずいだろ!」
「不味くはないよ! 美味そうだよ!」
「いや味の話じゃ……ああもう! いいから行くぞ!」
半ば強引な形で彼女達は馬車から降り、馬車を小さなサイズへと収縮させる。その様を見て、やはりただ触れた物を金へ変えるだけではないと思いつつも、だからどうと言う事も思いつかないので彼女は気にせずそのまま例の場所へと向かって行った。
これは近づいて行ったことで気づいたことだが、これは大きなテントではなく。等間隔で建てられた細い木の柱に白い布を合わせることで壁のように仕切り、ここより内側は自分たちの
それなりに大きな範囲の場所を占領しているようで本当にここはキャンプ地なのだろうかと思いながらも取り敢えず入口に佇む門番へと話しかける事とした。もしキャンプ地ではなかったとしても、近くでテントを張らなくてはならないのでその許可を頂かないといけないからだ。
彼女達は門番らしき鎧で身を包んだ人物へ近づいていくと、あちらのほうから話しかけてきた。
「ここは冒険者
大きな声でハッキリと語りかけてくる門番は人間ではなく獣人の馬であった。体格を見るに人間と遜色ない用に見えるが、顔は完全に馬であった。彼女はついその顔を初めて見るタイプの獣人であったがために、凝視しそうになるが、それは失礼だと思いとどまりさっさと提示することにした。
「ほい」
彼女はこういった時のために獲得した冒険者カードを門番へと渡す。しかしそれを受け取った門番は怪訝な顔をする。馬面でもわかるほどに。
「ふん。これだけか?」
「ん? あぁそうだが?」
そう答えると何か納得したのか、そのまま渡した冒険者カードを返す。
「なるほど、放浪者の
「……おう」
そう言い渡された彼女はなんだか思っていたのと違うと思いながら入っていった。そこであの本に書かれていたことを今一度思い返す。
(冒険者カードって
彼女は冒険者カードという
(まっ、無いよりかはマシなんだけどさ)
彼女のような突然この世界にやって来たような人間にとってはどれほど社会的信用性が薄い物だとしてもないよりかはマシであるし、まるでそのための物のようでもある。
「よぉ! あんちゃん達もしかしてここに来たばっかの冒険者かい?」
そう思いふけっているところに突然彼女たちに声をかける者が居た。その人物はまるで誰かを待っていたかのようにこの出入り口のそばに突っ立っていたようだ。
「ん? あんた誰だ?」
彼女はその人物へ目をやる。外見は人間の推定三十代半ばの成人男性。短髪の茶髪に髭を生やし、格好はまさしく冒険者と言えるものであり、腰のベルトに剣を帯刀している。
当然紅音は知らない人物から話しかけられただけあって警戒してか、怪訝な物言いで質問してしまう。
「俺か? 俺はペネトレイトっつうもんだ。よろしくな!」
彼女がとった反応に慣れているのか気にもとめず、彼は元気な物言いで挨拶してくる。それに若干気圧されながらも彼女は挨拶を返すことにした。
「お、おう。アタシは
「いやな? 俺も同じ冒険者何だけどよ、どうやらこの先の道が封鎖されているみたいでな。ここで地団駄を踏んでんのよ。それでまぁ一応冒険者連中用のテント区域があるからこうして案内役として、ここにいたっつう理由よ!」
と、彼女の言葉を遮り、食い気味に彼は怒涛に話し始めたのだ。それに彼女はますます気圧される。
「そ、そうか。なんか悪いな」
その言葉に彼は手のひらをこちらに向けて左右に数回素早く振りながら言う。
「いやいや、あんちゃんに謝られる筋合いはねぇよ! ついて来な!」
そして彼女たちはその男に言われるがままついて行くことにした。その道中で彼女は彼が言っていたことを思い出す。
(まさかこの先の道が封鎖されているとはな。……この先へ真っ直ぐ進んでいこうと思ってたんだがなぁ)
彼女はこの先へ進み次の街へと進むつもりでいたのだ。丁度、このテントのすぐ先にある森を抜ければ見えてくるほどの距離である。どうしたものかと考える彼女にとある出来事が思い浮かぶ。
(いやそもそもなんで封鎖されているんだ? ついこの前の町で乗ろうとしていた馬車はこの道を通るはずだぞ)
「お、その顔はもしかしてこの先どうするか悩んでいる顔だな?」
どうやら思い悩む彼女の思考が顔に出ていたようだ。不意に考えていることを当てられた彼女は思わず驚嘆の声を漏らしてしまう。
「うぇっ! あ、まぁそうだな」
「ま、そう悩むこともないぜ? なぜなら明日にはその
彼はどこか嬉しそうな物言いで彼女に教える。だが彼女は彼の発言の中にあった「問題」という部分が気になり、尋ねることにした。
「問題? それは封鎖と関係していることでいいんだよな?」
「ん? ああ! そうだったな、まだ言ってなかったな。実はな……この先へ進むにあたって森を通るだろう? その森でな、ちっとばかし厄介なもんが出張ったようでよ。それを退治しに行くのさ」
どうやら森で何か厄介なものが出現したようだ。それはどういった魔物なのかそれともまた別の物なのか、それが具体的に何なのかは分からないが特に気にせず流すことにした。
「そうなのか」
「ああ、そうさ。にしても、そこのお嬢ちゃん。珍しい種族だな? 何ていうんだ?」
彼はどうやらグリルのことについて聞いているようだ。実際紅音自身も彼女自身もどんな種族かはわからない。町で少し調べたものの結局のところ何なのかはわからなかった。
「え、いや、それはわからないみたいでな」
「そうなのか? だとしたら
「ゆまぞく? 何だそりゃ?」
「おいおい、
あまりにも怪異な目で見られるため、彼女の心境は恥ずかしさや気まずさより不快感が募り始める。その影響で少し口調に反映されてしまう。
「……んだよ。悪いかよ」
彼女の抑揚から機嫌を損ねてしまったのだと気づいたペネトレイトは先程の自身の発言に付け加える形で訂正する。
「いや、別に? ただとんだ世間知らずみたいで少し驚いただけだ。……まぁ気にすんな。あんちゃんみたいなのは冒険者じゃあそう珍しくないからな! だから気を落とさなくていいぜ!」
爽やかな笑みで慰めと言える言葉を彼女へ送るも彼女はちっと嬉しくなんかなかった。
「そんな慰め方で気が済むかよ」
「ハハッ! ちげぇねぇ!」
もはや笑って誤魔化すしか無いといった男。そんな振り切れた態度から先程までの不快感に対し、もうどうでもよくなった彼女は話を戻すことにした。
「それで
「あーっと、その話をしてやってもいいんだが……もう着いちまった。ほら」
そう彼が指し示した場所には冒険者らしき人物が幾人も居た。が、どうにもあまり全体と比べて縮小されたように思えるほど手狭に感じる。
「ここが俺たちの居住区だ。本当はこんな狭くないしもっと広く使えたんだが、今は緊急時なもんだから一般市民や商人用のスペース確保のために俺たちは隅へ固まってるってわけよ」
「そうなのか」
一定の納得はできる。が、気の所為かどうにも腫れ物みたいに扱われてかつ隅へ追いやられているようにも見えなくはない。しかし、この男性がここまで明るいのだからそのようなぞんざいな扱いは受けての末ではなく彼らが率先してスペースを譲った結果なのだと彼女は自己完結する。
「そいじゃ、一応あんたの冒険者カードを確認させてもらうぜ」
冒険者のテントスペースへ入る際に冒険者カードを見せるようペネトレイトは言ってくる。その必要性に疑問を感じた彼女は質問する。
「え、なんでだ? さっきの門番みたいなやつに見せてちゃんと許可降りてたのは見てただろ」
「それとは別よ! ま、スペースの関係上……な?」
察してくれと言わんばかりの顔つきで彼は言う。恐らくは詰めに詰めた結果、冒険者ランクの序列でテント場所の優劣が決めるようにしたのだろうと彼女は察した。
「……そうかい」
ランクが下から二番目のDランクである彼女は大した場所には泊まれないと思い、半ば不服な態度で冒険者カードを渡す。
「どれどれ……ほーん、Dランクねぇ。だったらあそこだな」
彼が指し示した場所は等間隔に設置された白い布のテントであった。他のテントの真隣に設置されているテントである。奥行きがどれほどあるのかは分からないが二人までならギリギリ眠れなくはなさそうに見えた。
「あと一応言っておくが、俺のテントはあそこだ。何か用があったら遠慮せず話しかけに来いよ!」
「はいはい……そういやあんたのランクは?」
ふと彼女は彼――ペネトレイトのランクが気になる。理由は簡単なもので、彼のテントのほうが少し大きめに見えたためだ。
「ん、俺か? 俺はこれでもCランクなんだぜ」
自信満々に言う彼に対し彼女はランク一つ違う程度どんぐりの背比べだろと思い呆れてしまう。
「あっそう」
「何だよ、随分と冷てぇじゃねぇか!? ま、いいけどよ。そんじゃあな!」
そう言い残しどこかへと去ってしまう。まだ何か仕事でもあるのか、それともまたあの出入り口で他の冒険者が入るのを待っているのだろうか。
彼女はそう思うも取り敢えずは荷物をテント内へ降ろそうと思いテントへ向かうこととした。
「……さて、入るとするか。グリル」
「うん。それと、さっきの人すごい元気なおじさんだったね」
グリルの年齢は恐らく中学生程度。三十代半ばの髭を生やした男性ともなれば十分おじさんに見えたのだろう。しかし紅音はおじさんと呼ぶにはまだ若いと感じているため、それに違和感を覚える。
「おっさんて、まだ三十代半ばぽかったしまだ若いほうだろ」
「そうなの?」
「そうなんじゃないの」
その言葉にグリルは納得したような……。腑に落ちないような顔をする。
「……ふーん。それで今日のご飯は?」
「今日? 今日は……」
今日の晩飯を特に決めていなかった彼女はある単語をつい呟いてしまう。
「ロブスター?」
「!?」
グリルに抱えられているロブスターは爪や足をガバッと開く。それはまるで驚嘆を表しているように思える様であった。
「嘘だよ食わねーよ。んじゃま適当に食いますか」
「はーい!」
元気よく返事するグリルと共に彼女たちは自分たちが使用して良いとされたテント内で晩飯を取る。
◆
それから一時間後、紅音はペネトレイトが言っていた
「グリル。アタシはさっき話してたおっさんのところへ行ってくるからな」
「ん、分かった。じゃあ寝て待ってるね」
「そうか、んじゃ行ってくるわ」
そうしてテントを出た彼女はペネトレイトが居るであろうテントへと訪問しに行く。そして彼女はテントの出入口に向かってこう言った。
「ペネトレイト。居るか?」
「おう、居るぜ」
そう返答すると彼は入口から顔を出してこちらを伺う。
「って、あんちゃんか。さっきの話だな? ここじゃなんだ、まあ入れよ」
彼女はお言葉に甘えて入ることにした。そして入って早々、彼女は先程の話について詳しく聞くことにした。
「それで、さっきの
「あーそうだな……。それよりも俺はお前の知識に疑問がある」
「んだよ知識に疑問って……どういう意味だよ」
少々奇妙な事を聞いてくる男に対し、彼女はその意図が読めなかった。続けて彼は質問する。
「そもそも十二魔帝王って知ってるか?」
「いや」
「じゃあ連邦は?」
「いやぁ」
「ほらな! 何にも知らねぇじゃねぇか。そこらのガキに聞いたって知ってるぜ、こんな話」
思ったとおりと言わんばかりの反応をする。それに対し己の無知さ、詰まる所の世間知らずなところを突かれた彼女はあまりいい思いはしなかった。
なぜなら彼女はこの世界に来たばかりの存在であり、この世界でいかに常識的なことであろうと知り得ないのだから。
「んだよ。人の無知をからかって楽しいかよ」
彼女の少し拗ねたような言葉に対し、彼は笑って答える。
「違う違う。そんなんじゃねぇよ。その無知さは今後を考えたら危険だって話をしてんの」
「どういうことだよ」
「つまりな。知らなかったじゃ済まされないことに直面しちまうぞっつうことだ。よほど他人と絡んでこなかったと見えるな」
「うっ……」
他人と全く関わってこなかったわけではない。しかし考えてみれば、そのコミュニティと言うべきものは確かに狭かったと言わざるを得なかった。
何も知らない異邦人。そんな怪しさ満点の人物であると広く知られるのも大概不味いと言えばそうだが、唯一まともそうであった
これもひとえに「あの本」に頼り切りであった末路とも言える。
「ま、いいさ。あんちゃんがどこまでものを知らないかはわからねぇが、少しは手助けしてやるよ。これも何かの縁だ」
「……あ、ありがとうございます」
はにかむような物言いで彼女はお礼を言う。
「いいってことよ! 困ったときはお互い様ってやつさ!」
「まずはそうだな……。ここからより先、海を超えた先には魔族の国がたくさんある大陸がある。その数は十二国ほどだ。そして各国に君臨する王を魔帝王と呼び、それらが集い徒党を組んだことで十二魔帝王と呼ばれるようになった」
「そんで徒党を組んだ理由は各国を連邦としてまとめ上げ、巨大な一国として建国することだった。それが魔帝連邦国ゾディア・バランっつう国だ。どうにも連邦では各国共通に強いる法律はあれど、基本的には各国に大部分は任されているため国によって法律が違う。面倒くさい話だよな?」
「なるほどな、それで?」
「んでだ。その十二国を魔族が収めてるのはそうなんだが、種族が別々なんだ」
「というと?」
「つまり……全部挙げちまうが、悪魔族、獣魔族、死魔族、龍魔族、魔蟲族、妖魔族、海魔族、無形魔族、天魔族、魔樹族、魔人族、唯魔族っつうレパートリーだ。これらは丁度魔族と呼ばれる種族の全種類だ。もちろん系譜等と枝分かれはするが、大まかに種族というとこんなもんだ」
「それと外見で説明すると亜人や異形系の見た目だな人間的じゃない。もしくは身体構造がかけ離れているとかかな? ま、実際の見分ける方法はまた別なんだが……それは後に説明するとしよう」
「それでその
「ふぅ……とうとうその話まで来たな。
謎の多い種族。それを聞いた彼女は思わず顔をしかめる。
「なんだって?」
「彼らには生殖機能がない無性。そして寿命も長く、外見にほとんど変化が無いまま老衰する」
「おいおい生殖機能がないだって? じゃあどこからそいつらは生まれてくるんだよ」
普通、生物であるならば単一生殖であろうがなかろうがそういった機関は存在するもの。その一切が無いというのだからおかしな話だ。
それを問い詰めた所、彼はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの反応をする。
「そこなんだよ。彼らには親がいない。しかしどこからか生まれてくる。しかも成熟した状態でだ。外見も様々だ。人からかけ離れていれば人と遜色なかったりする。他生物との違いは生殖機能の有無、それだけだ」
「そんな摩訶不思議な種族がいるのか」
今までにも元いた世界を基準にして考えれば摩訶不思議な生き物なぞたくさんいた。しかし、出生不明、正体不明とも言えるような存在がこの世界には存在するというのだから世界は広いと、そう感じたのだった。
「ああ、そういうのもあってか、その昔じゃ神として崇められたりと何だりとあったそうだな。今じゃあ
今までの話を聞いてグリルにそれが存在していたかを思い返す。何度か体を濡れた布で洗ったこともあったので彼女の裸は見ている。
今思い返してもやはり不思議な体をしていたと言える。体中のあちこちにどんなものでも食らえるほどの鋭い牙と底なしの口腔。一体彼女の胃はどうなっているのか、そこが一番気になるところであるが今はそこではないと思い頭を切り替える。
よくよく思い返す。彼女にアレは存在していたかを。……熟考の末、彼女はこう答えた。
「いや……あいつはちゃんとあったぞ」
「そうなのか。うーーん、じゃあ魔人族とかか?」
「魔人族? それは……」
先程の魔族の話にもサラッと出てきた種族の話が持ち上がる。勿論それを知らない彼女はそれについて詳しく聞こうとしたところ、分かっていると言わんばかりに彼はその言葉を遮る。
「あー待て、説明する。魔人族っつうのは人とだいたい同じ姿をしている。魔人族と聞けば、大体は巨人や人間と同じ体格でも体表に何か特殊な言語が浮かんでいる種族がよく思い浮かぶな。人間みたいに見えても全く違うし、他の魔族みたいに動物の角や尻尾があるわけでもない。だから魔人族と呼ばれている。あの嬢ちゃんに生殖機能があるっつうなら恐らくこっちだな」
「消去法で考えたら……まぁそうか」
勿論他の魔族である可能性はなくはない。しかし、今の話を聞く限りだと魔人族であるような気がする。そう思はざるを得なかった。
(確かにあの複数にある口、動物の角や尻尾もない、生殖機能は……ちゃんと確認したわけじゃないが、まぁ見た感じあったしあるだろう。ならやっぱり魔人族なのか?)
「なるほどなんとなく分かったよ。じゃあもし魔人族の国に行けばあの子と同じ種族の奴が居る可能性が高いってことか」
「ま、そうなるな」
それはそうだろうという反応をするとともに彼は続けて話をする。
「それと最後に大事なことを教えてやる」
彼の反応的にまさしくこれこそが本題とも言えるような面持ちで言う。
今までとは一変した彼の言葉に彼女は若干気圧される。
「なんだよ。大事なことって」
「魔物と魔族の見分け方だ」
彼女はそれを聞いて奇妙に思った。今まで遭遇した魔物や魔族はそこまで多くはない。しかしそれらは全くと言っていいほど異なるものであったと彼女は感じているがゆえに彼の見分け方という言葉に疑問を覚える。
「魔物と魔族の見分け方だぁ? 何言ってんだ魔物と魔族なんてまるで見た目が違うだろ?」
「それは一部だけだ。あんちゃんが今までどんな魔物を見てきたかは知らないが魔族と魔物には酷似しているものもいるんだよ」
「そう……なのか」
もし見分けが全くつかないというのなら、誤って魔物ではなく魔族を殺してしまうなんていう自体が起きかねない。それは非常に厄介なことだと感じ、重く考える彼女に対し彼はあっけらかんと答えた。
「ま、簡単に言っちまうと服装と身分証。そして知性だ。魔物は動物的思考のもと動くが、魔族は人間と遜色ない思考能力がある。つまり会話ができるかどうかだ」
「……なんだかなって感じだな」
確かに見分けるには間違いがないという方法と言えよう。しかし、魔物と魔族を見分けられないということは場合によっては
「ハハッ! ま、そう感じるよな。あとは慣れだ」
彼女のどこか腑に落ちない気持ちを彼も概ね賛同しているようだ。
この時、彼女はこの野営地の門番であった獣魔族である馬の獣人。彼に言われたとある言葉を思い出す。
「そういやよ、ここの門番がアタシのことを放浪者って言ってたんだがどういう意味だ?」
その問いに対し彼はなんてことのないような返答をする。
「ん? それは冒険者カードしか身分を証明するものがない奴のことを指し示す言葉だ。あんちゃんも流石に分かっているとは思うが冒険者カードは安易にライセンスを取れるだけあって相当社会的信用は低い。だから社会的にも最低限信用できるランクはCからだ。因みにDからCへ上げるには
社会的信用度が低い。これ自体は想像していたが彼女が思っていたよりも低いものであり、今の彼女のランクでは足りていないことに気づく。
「おいおいCからって随分だな。ランクの最高位はSなんだろう?」
「いーや、悪いが実質最高位はAまでだ。理由は単純だ。Sへ到達できるようなやつは化け物みたいな連中くらいだ。そうだなぁ才人の努力でいける最高点はB。それより秀才であればA。さらに掛け放たれた存在、それがSだ。……ちなみに俺は万年Cランクの男だ! 笑っていいぜ?」
彼の軽口を無視して彼女は疑問をぶつける。
「ん? 今の話から最高位がAの理由がまるでわからないんだがどういうことだ?」
「つまりな……Sランクの連中の殆どは人間じゃない。人間で入っているやつは勇士様くらいさ」
「勇士?」
またもや彼女の知らない言葉である。今日一日で何度彼女は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのであろうか。知らないことばかりである。
そう思う彼女をよそに彼はそのまま続けて喋る。
「ま、そもそもの話、全部が全部冒険者に登録しているわけじゃないしな。例えばさっき話した十二魔帝王とかはもしかしたら現存のSランク以上の力を持っているかもしれんしな。あまり有効な物差しとは言えないがな」
「そ、そうか」
取り敢えず一通りの話は終わったようだ。この隙に彼女はこれまでのことを思い返す。
(それにしてもどれもこれも聞いたことのない話ばかりだ。十二魔帝王や
今まで頼みの綱としていた例の本。その情報の信用性に些か疑問を覚える。
(ただ単に書いてなかったのかもしれないが、アタシのような人間に向けた本に書かないなんて考えにくい。つまり、今回初めて知った事柄はあの本があの場所に埋められた後に出来た事なのかもしれない。大体の地図情報が合っているがゆえに本に頼り切りだったが、あまりあてにせずこれからは情報のすり合わせも兼ねて独自に情報収集をする必要があるかもな)
考えをある程度まとめた彼女はこのようなことに気づかせてくれた彼に対し今一度お礼を言わなければいけないと思う。
「まぁなんだ。改めてありがとうよ。お陰で自分の世間知らずさがよーく分かったわ」
「何、礼には及んさ」
さて、話も終わったことだしそろそろお暇しようかと思った彼女はそこから出ようと立ち上がろうとする。
その時、森が封鎖されていることを思い出し、彼がその説明で言っていた「厄介なもの」。一体それは何なのか聞いてみることにした。
「そういやだけどよ、森の方で厄介なものが出たって言ってたがそいつは一体何なんだ?」
それを聞いた彼は先程までとは一変して少々暗い顔をし始める。
「ああ、その話か。実はな、その森に
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