第13話 窮地! 紙一重の戦いッ!!

 ナット・ガインは余裕綽々よゆうしゃくしゃくと構えて講釈を垂れ始める。


「俺の能力の強みは取り込んだ金属をに扱えることだ。例えば……」


 と、彼は手の平から瞬時に金色の金属の棒を取り出す。そしてそれをバットのように構えてフルスイングをする。


「オラッ!!」


「グッ!」


 一気に距離を詰められ反射的にガードをするも、その金属は紅音が先程攻撃に使ったもの。それに肌が触れさえすれば液体のように変質させることでダメージを負うことはなかった。がしかし、反射的にガードをしたため金属を直接触れる事はできず、そのままの硬さによる痛恨のダメージを負ってしまう。

 そしてそのまま紅音は吹っ飛ばされ、またもや壁に背中をぶつける。


 これにより紅音の両腕の骨にヒビが入り、二度の背中からの衝撃による身体的内部のダメージも相当なものとなり、紅音はこれ以上攻撃を喰らえば死に至るかの瀬戸際であった。


「ハァ……うぶッ!」


「へへへッ、しぶとかったがもうこれで終わりだな。あばよ上質なサンドバック女、――オラッ!!」


「“メタル・ナックル”ッ!!」


 それと同時に彼は自身の拳を鋼鉄に変えて紅音の頭目掛けて、それを振り下ろすッ!


 ――ズドーンッ!! という重い地響きが鳴り響いた。辺り一面に砂埃が立ち込める。


「へっへっへっ……さて、どんな肉餅になってんのかねぇ?」


 次第に砂埃が消えていく。そしてそこにあったのは、だった。


「ッ!? 何!? どこいった!」


「大丈夫?! 紅音!」


 そう声を掛けたのはグリルであった。間一髪のところでなんとか間に合ったようだ。


「……よぉ、これは……アタシの、幻覚か?」


「大丈夫だよ! まだ生きてるから!!」


「……チッ、余計なことしやがって。黒髪女は標的に入ってねぇんだがなぁ。……仕方ないか諸共ミンチにしてやるよ!」


 グリルを巻き込んでの紅音の抹殺をしようと突っ込むが、彼の背後から誰かが走ってきた。


「ニャーーッ!! そうはさせないニャッ!! 【斬手刀】ッ!」


「――何ッ!! クッ!!」


 彼は突然襲ってきたミニルの攻撃に対して鋼鉄の両腕でガードする。が、それは悪手であった。


「ぐ、ぐあああああ!!! お、俺の腕があああ!!」


「大丈夫かにゃ、二人共! グリルッ!! 何も考えず突っ走っていくんじゃないにゃ!」


「ご、ごめんなさい……」


「……へ、これが……走馬灯ってやつか」


 朦朧とする意識の中で紅音は妄言を呟いた。


「にゃッ! これは酷い怪我にゃ、急いで治療しなきゃ――」


「クソがああああ!!! お前ら良くもこの俺の腕をッ!! 絶対にぶっ殺してやる!!」


 腕を切られ悶絶していたナット・ガインが咆哮を上げる。がそれに対しミニルは冷静に受け答える。


「その腕でどうするって言うにゃ! 諦めて投降するにゃ!」


「舐めんなよォ? クソネコォ、腕なんざ俺の能力でええええ!!!」


 そう言うとナット・ガインは切断された両腕を吸収し、再び自身の腕に置換した。


「ッハァー……だいぶ精神すり減らしちまうが、こういうことだってできるんだぜ!!」


「にゃッ! こいつの魔法規格外ニャ!!」


「……魔法じゃねぇ、あれは……アタシたちと、同じものだ」


 紅音は意識を持ち直してミニルに重要な事を伝えた。


「ニャッ、そういうことだったのかにゃ」


 ここでナット・ガインは数の差の不利によるこの状況の打開策を模索する。


(……あのマゼンタ女は恐らく触れたものを金に変えてそれを操る能力だ。それ自体は怖くない、だがあの猫獣人野郎はダメだ。マゼンタ女の発言から推察するに同じ世界異能だとするならば、あのブレードはどんなものでも断ち切れるみたいな破格の性能をしていてもおかしくねぇ。切られたところが鋼鉄に変えた腕だったから良かったものの、頭や他の部位に喰らったら一巻の終わりだ)


 状況の急激な逆転に額から汗が吹き出しはじめる。


(クソッ……世界異能持ちがこの場に三人もいるとはなぁ。いや待て、あの黒髪の女はどうだ? あいつも世界異能持ちなのか? ……ここは逃げるべきか?)


 彼は深く考える。自身が置かれた状況から最善の選択は何かと。


(……ダメだ。リスクはあるが、もし逃げたら俺の名が廃る。それに俺の腹の底からどうしようもなく目の前の異能者を殺せと湧いて出て来やがる。……もう抑えられねぇ。一か八かの全力勝負だ!)


 己の欲望に従った彼は大袈裟に片足を地面に踏みつけ、茶色の魔法陣を展開する。


「地属性魔法ッ! “ロックライズ”ッ!!」


 そう彼が唱えると、魔法陣から一直線にミニルに向けて岩が次々と湧き上がっていく。


「ニャッ!! 避けるにゃ!」


「うわっ!!」


 魔法で湧き上がった岩を境界線にミニルと紅音たちは分断される。彼は続けて、魔法を発動する。


「地属性魔法ッ! “サモン・ロックドール”ッ!」


 魔法陣から現れたのは一体のゴーレムだった。ゴーレムとはこの世界に存在するモンスターあるいは種族の事を言う。その外観は岩で構成された無骨なデザインの人形兵器だった。


「ロックドール、お前はあの猫獣人を相手しろ。俺はこっちを殺る」


「ゴーレムかにゃ、……核を壊せればなんとかイケるのにゃ。グリル! ヤツからできるだけ逃げるにゃ!」


「ごめん! それは無理そう! もう逃げれそうにない……紅音は私が守らないと!」


「お前に要はねぇええんだよッ!! “メタル・ストライク”ッ!!」


 その雄叫びと共に彼の腹から極太な鉄塊が現れ、グリル目掛けて勢いよく解き放たれる!!


「――ッ!! 仕方ない、エイッ!」


 とグリルは片手を突き出す。するとそれは引き裂かれるように変形し口となった。そして飛んできた鉄塊をその口で受け止め捕食した。信じられない光景を目の当たりにしたナットは目を丸くする。


「ァッ!! 何だそれ、気持ち悪ッ! テメェ一体何の化け物種族だァ?」


(こいつの世界異能がその気持ちの悪い化け物なのか? いやまだそうと決まったわけじゃねぇ、早とちりは良くねぇからな。……にしても気持ちワリぃ)


「まぁテメェがなんの種族だろうと今は関係ねぇ。早くぶっ殺さねぇとなぁ」


「紅音! 紅音だけでも早くここから――ッ!!」


 朦朧とする意識の中で紅音は思考する。


(……ダメだ、身体に力が入んねぇ。もう助からないのか、アタシは……)


「ミャッ! まずい何か……、これでも喰らえニャッ!」


 彼女がヤケクソでナット・ガインに向けて投げられたのは硬貨だった。だが彼は当然の事だが、それをものともせずただ弾かれただけだった。


「ハッ! 俺のゴーレムで手一杯だからって、硬貨なんざカスみたいな攻撃しやがって! 無様だなぁッ!」


 そう調子づく彼の姿を見た虚ろな紅音は考える。それは好機であった。


(ん? 今、硬貨がアイツの身体に吸い込まれずにただ弾かれたよな? もしかしてアイツの能力は金属を自動吸収するわけじゃないのか? もし、だとしたら……!!)


「ぐ、ぐりる……耳、貸せ……」


「え? うん。……――ッ! 分かった、紅音の言う通りにしてみるよ」


 朦朧とする意識の中で見出した彼女の策をグリルは信じることにした。そしてヤツもまた攻撃を再開した。


「さーてと……地属性魔法ッ! “ロックショット”ッ!!」


 彼の手から大粒の石がグリル目掛けて放たれる! しかしグリルはそれを片手の口で受け止め食す!!


「チッ!! テメェいい加減にしろ!!」


「ご馳走様でしたーーッ! あなたは私にとって、ただの食事を運んでくれるお馬鹿さんなんですぅうう!!」


「……あぁ??」


 この時、ナット・ガインはブチギレた。彼にとって他者とはほとんどの場合において自分より非力な存在であり、おもちゃだ。自分の欲望を、乾いて仕方がない殺人衝動という欲望を満たすためのおもちゃでしかない。そんな彼にとってこの追い詰められた状況、思い通りに行かない展開は非常にストレスだった。その中で取るに足らぬ、かよわく幸薄そうな少女如きに煽られるというのは、彼の今まで保ってきた理性を吹っ飛ばすには十分であった。


「このクソがきゃああああ!!! ズタズタの肉袋にしてやる!!!! 覚悟しろ!!!!」


 顔面といった全身の血管が浮き立ち、ドシンッドシンッと重い足音を鳴らしながらグリルに近づくが……。


「ン!? グハァアアアアアッ!!!!」


 突然、彼の口から血反吐が飛び散る。それは決定的な致命傷だった。


(な、何が起きて……ッ!! こ、これはアノクソ女ァ!!)


 彼が目にしたのは紅音の能力による金の刺突攻撃だった。それも彼の背中から貫かれたものだった。


(そうか、アノ女! 俺が金属を自動で吸収できないことに気づいたのか! だが何時からだ? ――ッあの硬貨か! クッ、いつもの弱者をいたぶる癖が裏目に出やがった。まずいこのダメージは……!)


「ハァ……ハァ……グハッァア!」


(まずい! 本当にまずい! これ以上は誇りだなんだ言ってらんねぇ)


 すると奴はポケットの中から青く輝くクリスタルを取り出し始める。やっとのことでゴーレムを倒したミニルは彼の方を見てその異変に気づく。


「――ッ!! まずいアレは! グリルなんとかして止めるにゃ!」


「あばよッ! フンッ!!」


 そう言うと奴は持っていたクリスタルを割り始めた。するとそのクリスタルは眩しく光り輝くッ!!


「「ウッ!!」」


 あまりの眩しさにその場に居たものは目を手で覆う。光が消えてなくなった頃には奴はどこにも居なかった。


「い、今のは?」


「今のはあのクリスタルに持ち主が持つ全魔力を一気に込めて割ることで、光として全方位に放出する。その輝きは目くらましの効果を持っているのにゃ。その隙に攻撃されるものかと思ってたにゃけど……どうやら相手も満身創痍だったみたいにゃね」


「……にゃ! だったら早く紅音を治療しないと! 冒険者ギルドにある医療所に運ばにゃいと、まずいにゃ!!」


 戦いの余韻につい浸りそうになるも彼女は紅音の状態を瞬時に思い出す。


「紅音! しっかりして!」


「…………」


 苦戦の末、ナット・ガインを退けた三人であった。しかしまだ根本的な問題は解決していなかった……。

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