第14話 安堵の先に見える闇
コンドルの鳴き声が聞こえる。かすかな陽光が差し込む裏路地にて赤い滴りがラインを引いて開拓されていく。そこには大怪我を負った男が身体を壁に擦り寄せながら歩いていた。
「はぁ……はぁ……くそぉ」
「まだだ……この程度の傷ならば、まだ復帰できる……! あともう少しで俺のアジトが」
(貫かれたところは、応急処置だが金属に置換することである程度は塞がる。だが、この俺があんなガキどもにッ!! あんな目眩ましでこの俺がノコノコ生き延びるだとッ!?)
痛みと共に湧き上がってくる怒りと劣等感。その感情が嵐の如く渦巻く中で、あることを考え始める。
(いつからだろうか、こういうことを始めたのは……。俺は元々はこういうことをするような人間じゃなかった筈だ。アノ時、アノ時から俺は……――ァッ!!)
霞む視界の中でこの先の道の真ん中にある人物が立っていた。
「だ、誰だ!!」
「……まともに依頼一つこなせないとは、警戒するほどじゃなかったか?」
「な、なぜそのことを知っているッ! 俺に依頼してきたのはテメェじゃ――」
「関係ない。どちらにせよお前は処刑対象だ。我らが組織『
「――ッ!? ここで昔のツケが回ってきたか」
「場合によっては再度勧誘も検討していたのだが……お前は狂人だ。扱えきれん」
(この堂々とした佇まい、恐らくこいつは組織の中でも屈指の実力者とされる四人衆の一人。組織が崩壊せず、その秩序と絶対的な存在として裏社会に君臨し続けたとされる最も大きな理由の一つ。その一人である可能性が高いッ!!)
「だが、こっちもこっちでタダで死ぬわけに行かないからなァッ!! 一気にケリつけさせてもらうぜッ!!」
「“メタル・フォートレス”ッ!!」
満身創痍ながらもナット・ガインは目前の男に向けて走り出す。その過程で、できるだけ防御力を高めるために持ちうるすべての金属を肉体に変換する。鉄壁の要塞が生身を持って突っ込んでくるに等しい高威力。
しかし、今の彼はもう“ただいつも楽に勝つ側にいただけの人間”ではなくなっていた。
「……“
「――ッ!! ぐああああばああっばばばばばばばあば!!!!!」
男の指先放たれた青白い閃光。その電気が全身がほぼ金属と化したナットにとっては最悪の相性であった。
「ぐ、があ……あぁ」
高電圧の電撃により彼の肉体は丸焦げになり、そのまま絶命した。ドサッと音を立ててその焼けただれた肉体は倒れ込んだ。
「……弱っていたとはいえ、くだらんな。面倒な後処理だけが残ったが、それは他に任せてある。……帰るとするか」
そうしてナット・ガインを始末した者はどこへなりと消えていった。
(………………………………………? こ、こは?)
紅音が目が覚めた時に見たものは見知らぬ天井であった。覚醒から時が経つとともに少しづつ意識も鮮明となっていく。
(この感覚……ベッドの上か? なんでここにいるんだ?)
そう思考に耽っていると、彼女を呼ぶ声が聞こえ始める。
「紅音! 目が覚めたんだね!! 良かったぁ……」
「良かったのにゃ! 助からにゃいかもと思ってたにゃ」
紅音の無事を確認できた二人は安堵する。それに対して当の彼女は疑問に思う。
「……グリル? それにミニルまで……アタシは一体」
「覚えてないの? 紅音はナット・ガインっていう男に殺されそうになってたんだよ!」
「ナット・ガイン……。――ッ!! そうだ、アタシは奴に襲われて……イッテェ!!」
すべてを思い出した紅音は飛び起きそうになるが、戦いによる傷がそうはさせなかった。
「まだ動くんじゃにゃいニャ! 傷口が開くにゃよ!」
「……なぁこんな事聞くのはあれかもだけどよ。……回復魔法とか無いの?」
「魔法というかポーションなら使ったにゃ。でも瞬時に傷が治るみたいなのは無いにゃ」
この世界に存在するポーションの多くは掠り傷といった程度の軽傷ならば瞬時に治るが、紅音のような重傷ともなれば傷の回復を促進させるような程度に落ち着く。勿論さらに上質なポーションにでもありつければ瞬時に回復させる事もできるが、そのようなものは手に入りにくいのである。
「そうか、そういうもんなのか。それで、あの野郎はどうなったんだ?」
「ヤツにゃら何処かへ逃げたにゃ。また襲ってくるかもしれにゃいから早く治さにゃいとね」
「とにかく! 紅音が無事で良かったよ!!」
強敵を退けることに成功した事は実に喜ばしいことだが、その根本的な部分が解決されていない以上はぬか喜びもできない。こういった状況であるため場の緊張は解かれなかった。
「なぁ、なんでアタシはアイツに狙われたんだ?」
「それについてにゃんだけど紅音は心当たりにゃいかにゃ? 奴が何か口を滑らしたりとか……」
そう言われた紅音は戦っていた最中のヤツの発言を思い返す。そこである事を思い出す。
「……そういえばグリルに助けられる前に、アタシを殺して金がどうとか言ってた気がするな」
それを聞いたミニルは、ナット・ガイン関連の悪事や過去に起こした事件を振り返って一つの結論に至る。
「……にゃら、もしかすると紅音を殺すように誰かがナット・ガインに殺しを依頼したかもしれないにゃ」
その答えを聞いた紅音は「いやいやそんなまさか」といった態度をとる。
「アタシを? なんで? アタシはここに来てから日も浅いし、何よりそうそう誰かに恨みを買われるようなことは一度たって……」
突然言葉を詰まらせると、何やら真剣そうに考え始める。
「どうしたのにゃ? 何かあったのかにゃ?」
そう尋ねるミニルに対し彼女は真面目な顔つきで答える。
「アタシがこの街に来る前、その道中で盗賊に襲われてた貴族の馬車に偶然遭遇してな。お礼目当てで助けたんだが、まさかあの盗賊の関係者なのか?」
「にゃるほど。でも関係者っていうよりかは、その盗賊もナット・ガインみたいに雇われた可能性の方が高いにゃ。邪魔した紅音をわざわざ殺そうとするほどで、貴族が関わってくるとにゃると……どうもきな臭いにゃ。因みにその貴族って誰ニャ?」
「……あぁ、えっとぉ。えーーっとぉ……?」
「もしかしてデリアさん?」
名前が中々思い出せない紅音に対してグリルが助け舟を出す。グリルは先程出会った彼女の事を覚えていたのだ。
「あぁそうだ。デリア……フォンケールとか言ったな」
「フォンケール……階級は確か伯爵にゃね、この中央部の方に邸宅があるはずにゃ。巷では清廉潔白で有能な貴族として知られているにゃ。それ故に一部の悪徳貴族連中からは疎まれているともあるにゃ」
ミニルは知っている限りの情報を話しだした。紅音はそれを聞いて答えを出す。
「つまり、その伯爵を邪魔に思ったそのクソ貴族が殺そうとしたと?」
「この場合はファンケール伯爵本人というよりはその娘である彼女を狙ったということになるにゃね。詳しい意図までは分からにゃいけど……。多分失墜させようとか、それに漬け込んで何か悪い企みでもしようとしてた可能性が高いにゃ」
「なるほど、貴族絡みってのは頭抱えんなぁ……。ん? てことはよ、デリア……今大丈夫なのか?」
彼女の突発的な発言に一同は一瞬「?」となるも、すぐにその意図を理解できた。
「確かに……紅音が今襲われたことも考えると、同時になにか別行動を起こしていてもおかしくはないにゃ。ナット・ガインの何かと大胆不敵な行動ばかり取りたがることを利用していてもおかしくはないにゃね」
「じゃあ今中央部の方にいるかもしれないデリアさんの身の危険が迫っているってこと!?」
「じゃあ今すぐ、行くか!! ――イッテェ!! ァッ!!」
予想の域を出ないとはいえ、衝撃の事実が発覚した一同は「こうしてはいられない」となり、すぐさまデリアの安否の確認と今回起きたことの報告等々をしに行こうと決めたのだった。
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詳細:所謂異世界版マフィアであり、裏社会の大部分を牛耳る巨大組織でお抱えの商社や悪徳貴族とのパイプといった諸々の強みを持っている。麻薬売買や死の商人といった活動もしているため、確実に周辺国家を脅かす存在となっていることは間違いない。
ステータス
名前:???
世界異能:【雷電法衣】
詳細:体に電気をいくらでも帯電できる。電気吸収や集中解放が可能。雷系統無効。
称号:秩序の雷帝・模範的聖職者(邪)
種族:不明
魔法:雷属性
耐性:不明
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