第8話 教えて! ミニル先生!!

 冒険者ギルドに着いた紅音とグリルは自称ダンジョンハンターの羽柴ミニルに事情を話して楽なお金の稼ぎ方を聞こうとしていた。


「んで、気付いたら色々とお金がなくなっていたにゃと……」


 と紅音の目の前にいるミニルは椅子に座ってかつ肩ひじをテーブルに乗っけながら言う。


「……おう」


 紅音は少し口をすぼめながらに言った。


「にゃるほどねぇ……まず賭け事とかやめたらどうにゃ? あとは節約の術を知るとかにゃ」


「……いやーそれはちょっと無理かな。今更それはやめれる気がしれんし、あと節約とか考えたくないし。ここに来てからというもの一攫千金いっかくせんきんを狙えてかつ大儲けできちまったからな。もう昔の生活には戻りたくない……です」


「その殆どをギャンブルで溶かしてどうするにゃよ」


「まぁ……でも合計で勝ってっから」


「もし本当にそうにゃらミャーに楽な金の稼ぎ方にゃんて聞きに来ないはずにゃよ? にゃにちょっと見栄張ってるのにゃ」


 紅音に対し数々の正論が押し寄せ浴せられる。そして心なしかミニルの視線はどこか冷たいものだった。


「……まぁそんなことはいいじゃねーか、早く教えてくれや」


「はぁ……それににゃ、楽して大金を稼げるわけ無いにゃろ。いい加減にするにゃ」


「んなことねーだろ! この前だって……」


「あれはそもそも指名依頼で依頼主の高額な報酬金だっただけにゃ。それにダンジョン攻略で稼ぐだって本来は周回するものにゃ」


「えーー……じゃあどうしたらいいんだよ」


「真面目にコツコツと働くのが一番にゃよ」


(それが嫌だから聞いてんだよ! このダボ猫ッ! ……ん? そういえば前回の依頼はデリアからの依頼だったよな? なんでアイツがあのダンジョンの一階層踏破依頼なんてするんだ? メリットなんて無いはず……!! わかったぞ! あのダンジョンにはもっと物凄ーーいお宝があるに違いない。ということはその宝を先に獲っちまった方がいいかもなぁ)


「……とりま参考になったわ、んじゃもう行くわ。行くぜグリル」


「う、うん。じゃあねミニルちゃん」


「……大丈夫かにゃ?」


 冒険者ギルドを出た二人はどこへ向かうと決めることなく、ただ道を話しながら歩いていた。


「さてどうしたもんか。ダンジョン攻略ねぇ……それで上手くいけばいいんだが」


「でも紅音、流石に前のように上手くは行かないと思うよ。もっと安全な方法を探そうよ」


「つってもなぁ……」


 そう二人が考え込んでいると明らかにこちらに向かってくる人がいた。金髪のポニーテールで服装は冒険者の様な格好だった。


「すまなーいッ! そこのピンク髪の女! 少し良いか?」


「ん、なんだぁ? それにアタシの髪はマゼンタだって……」


 この時向かってくる人物を見て紅音は違和感を覚える。


(なんだかコイツ見覚えがあるな。だがこういうタイプの人間は知らねぇよな。闘技場の警備員とかみたいなので見たクチか? いや待てよこの感じもしや)


「お前まさかとは思うけど、デリアか?」


「――ッ!? ……なんで分かった? 今までこの姿を見破られたことはないのだが」


「口調も格好も確かに色々とチゲぇけどな。……アタシには分かる」


(……大見栄きった言い方しちまったが、昔の仕事でそれなりに色んな人間を見てきたっていうだけで、ただの勘なんだがな)


「え!? この人がデリアさんなの!? 全然貴族様に見えない……」


「はぁ……見破られたのなら仕方ない。そうだ私だ、デリアだ。だがこの事は他言無用だぞ」


 とデリアはかなり真剣な眼差しを紅音に向ける。


「へいへい、ってかよ何しに来たんだよ。アタシたちにまたなんかの依頼でもする気か?」


「依頼? 違う違う。別件の用があってここに居たのだが偶然お前たちを見かけたので声をかけてみたのだ。不躾で礼のない君が普段どんな生活しているかとね」


「……ッ! まーそう思われてるわな……ムカつく」


「紅音? デリアさんってこの前、紅音に指名依頼してきた人だよね?」


「え? ……あ! そうだ丁度お前に聞きたかったことあんだけど良いか?」


「ああ。構わないよ、言うがいいさ。だが面倒な頼みはもう聞く気はない」


「……マジで色々とチゲぇな。お高いところから一気に地べたまで来てるぜ」


「それは褒め言葉と受け取っておくよ。それでなんだい?」


「あーそのな。お前さ、この前アタシたちにダンジョン攻略の依頼出したろ? なんでそんな事したんだ? あそこの第一階層クリアでお前に得なんてあったのか?」


「ん? 何のことだ? 私はそんな依頼は出してないぞ?」


「……は」


 紅音は予想外を飛び越えて妙な怖さも感じた。なぜならデリアはその事を全く知らないと言うのだ。嘘をつくにしても、もっとまともな嘘を付くはず。つまりこの言葉は真実であり、そしてもっと得体のしれないものがあると感じざるを得なかった。


「いやいやちょっと待て! 確か闘技場の後に丁度お前んとこの魔法使いの男が依頼を伝えに来たぞ! 名前は確かえっとぉ……」


「ドンデルさんだった気がするよ。紅音」


「ドンデル……。確かに彼はトールと同じ私の側近だが……妙だな、そんな依頼を彼がするとは思えない。第一私は出会ったばかりの君にそのような事を頼みはしない。ダンジョン攻略で第一階層……もしやあの東のダンジョンか?」


「あぁそうだが? どうした、それがなんかあったのか?」


 その言葉を聞くとデリアはますます顔を暗くし始める。


「あのダンジョンは出来たばかりだが高難易度に指定されてる。だからその依頼は冒険者に成りたてでかつ恩人を死中に送るような真似だ。どういうことだ? ……一先ず私は彼に話を聞いてくるが、すまない! 君たちに迷惑を掛けてしまったようだ」


「あーいや別にぃ……ッ!」


(待てよこの事を餌にすれば謝罪金を踏んだくれるかもしれない! ここは迷惑が掛かり過ぎて死にそうだった、とでも言うか)


 彼女は狡いこと考え、大袈裟にその事を言おうとした。


「あーーーそうだなッ!! ものすんごーい迷惑掛ちゃったなぁッ!! ここは多額の謝罪金でぇ――」


「紅音、もう居ないよ」


「え? あ」


 紅音が気付いたときにはもうデリアは居なかった。


「恐ろしく早い足、アタシでも見逃しちゃったねぇ……トホホ」


「どうする、追いかける?」


 紅音は少し考える。どうしたものかと。しかし軽薄な彼女はこのことにもう興味は失せてしまった。


「いや……別にもういいか、それはアイツに任せときゃいいだろ」


「まぁ紅音がそう言うなら」


 グリルは何だかしっくりこないといった表情をする。それに紅音は疑問に思い、聞いてみることにした。


「なんだ気になることでもあんのか?」


「そうじゃないけど、なんかね」




 ――人や時は変わり薄暗き場所にて怪しげな会話が響く。


「お前がナット・ガインだな」


 と怪しげなフードを被った謎の人物が目の前の大男に話しかける。


「何だお前? この俺に何か用か?」


 この大男はとても筋肉質で身体に何箇所かの傷跡がある。ジャラジャラと鎖やら装飾やらと金属製の物をぶら下げていた。


「お前にこの女の殺しを依頼したい。それとこれは前金だ」


 とフードの人は大男に写真と30万セールが入った袋を渡した。


「こいつは写真じゃねーか、随分と高いもんを持って来やがったなぁ。そんなに憎い相手なのか? この赤髪の……いやこれはマゼンタカラーだな」


「お前には関係ないことだ。成功報酬は弾む。さっさと引き受けろ」


「へっ! 随分と偉そうじゃねーか? まぁいいだろう、俺の事を知ってて依頼しに来てんだろうしな」


「あぁそうだ。お前の持つ異名、【メタル喰い】をな。……期待しているぞ」


 と言い残しフードの人は闇に消えていった。


「まだ受けるとは一言も言ってねぇのに勝手な野郎だぜ。まぁいいか、楽な仕事みたいだしな。にしても不幸な女だぜ、この俺の異名は俺が持つから来てるっていうのにな。――ハッハッハッハッ!!」



 暗闇の中で不敵に笑う謎の大男……。一体ヤツの異名に何の意味があるのか?

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*今回の実績

 悩みのタネが増えた!

 ミニルの好感度が20減った!

 デリアの好感度が7増えた!


ステータス

 名前:ナット・ガイン

 称号:マーダープロ

 ―――以下不明

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