第7話 肉、肉、肉ッ! 人はそれだけで幸せになれる
ある日の昼下がり、宿屋の窓から薄い煙がモクモクと立つ。紅音はダンジョンの宝箱から入手した葉巻で一服していた。扉窓を開けてダラッとして身を乗り出し、町並みや人の行き交う姿……そんなものをおかずにしながら吹かしていた。
「ッはぁーー……今まで葉巻は一度も試したことは無かったが案外良いじゃねぇか。しかもこの葉巻、昨日から全く減らねぇし。当面の間はこれでいいな。シャレオツだし」
「紅音ぇ……お腹減ってきちゃったよぉ」
と後ろからグリルが紅音に話しかける。彼女らは二人しかいないためか、二人共かなりラフな格好をしている。紅音に関しては元々の世界でも自宅ではほぼパンツとシャツのみで過ごしていた。だが紅音の影響を受けてか、グリルも同じような格好をしてしまう始末であった。紅音は振り返りグリルに返答をする。
「お前……さっき飯食ったばかりだろ。ちと早すぎやしねぇか?」
「私はこういう身体だからすぐお腹減るの! はーやーくー、ご飯くーだーさーいーー!」
とグリルの身体にある復数の口がウネウネと動きだす。彼女の色んなところにある口から発声は出来ずとも食事はできるようだった。未だ謎に包まれた彼女の出生や種族は分からず
(……はぁ、そこらの野球男児より食い意地ありやがる。そんな華奢な体格でどんな腹の広さ持ってんだよ。このままじゃ飯代ですぐ金がなくなる。……まぁ残飯等と色々吸い殻みたいな廃棄物とかも与えてるが……それでも限度ってのがある。その腹、まさしくブラックホール。……アタシはとんだヤツを拾っちまったようだな)
普通見た目的にも残飯や吸い殻のような物は例え食べれたとしても避けるものだ。だがグリルはそれを苦もなくお菓子感覚でつまむため、彼女にとってこの世の全ては食べ物だと言っても過言ではないだろう。無論ちゃんとした食のほうが美味しく感じる味覚は持ち合わせている。
「あぁ……そうだな、なんかの大衆料理屋にでも行くとするかねぇ。まだ真っ昼間だがな」
「やったーー! じゃあさっさと支度しようよ!」
「そう急ぐな、転ぶぞ」
そうして彼女らはまともな服に着替えてから部屋を出るのだった。そして宿屋を出る際に、紅音はここの店主に良い食堂でも無いのかと聞いたのだった。
「なぁおっさん! ここらによ、上手い飯屋ねぇか? できれば食い放題みたいな感じの店がいいんだがよ」
「ん? あぁ! それなら……えーとっ、確かここ最近にできた【丸焼き龍火】っていう何やら大雑把な焼肉屋が露店パフォーマンスとして開かれているそうだ。それで場所なんだがぁ……ここから中央部の方向へ行って、露店が立ち並ぶ “
「ほーん、なるほどな。じゃー行ってくるわ、あんがとなー!」
「丸焼き龍火ってどんなお肉出るところなんだろうね? 楽しみ!」
「まぁそうだな……肉かぁ。ここに来てまだ豪勢と言える肉を食ったことねぇからな。楽しみだぜ」
こうして二人は中央部の方へと向かってから例の街道へと到着した。紅音もココに来てからの日はまだ短いが、ここでの生活は昼が多いということもあり以前の不健康そうな顔は少し晴れていたのであった。
「おぉ! ここが “
「うわぁ! 色んなところに、いーっぱい食べ物がある! 肉ッ! 肉ッ!」
そうして二人がこの市場を見渡しながら目当ての店を探す。すると張りのある大きな声でその店の名前を叫ぶものがいた。
「いやー寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! ココにおわすは【丸焼き龍火】の名物! 龍人族直火焼きのブレス調理だよーッ!!」
「お、どうやら目当ての店があるみたいだな。さっさと行くか」
二人はその
「さて今回調理いたすはこのッ!! かの名産カノラーユ牧場の洋黒牛100キロの肉塊ッ! これを油を染み込ませた布に包ませて……準備は完了!! あとはこの私自慢の炎の息吹でぇ……」
――デュゴオォーーン!!
と龍人族の店主は勢いよくドデカイ炎を吐いたのだった。一見するとこれほどの威力を誇る炎では丸焼きどころか丸焦げになってしまうと、誰もが思うほどのものだった。その炎と焼けた煙の中から出てきたのはなんと真っ黒になった肉の塊ではなく、巨大なローストビーフの塊であった。
本来、あそこまでデカい肉でのローストビーフは外側の肉が焼け焦げるものだが、それをあの油の染み込んだ布で外側の肉の役割を果たしていたのだった。つまり、出てきた肉はローストビーフの美味しい部分のみがくり抜かれたようなものである。
迫力のありすぎるこの光景を見て紅音が言葉を漏らす。
「おぉ! こいつはスゲェや。実にうまそうだ……なぁ?」
「うへぇーー……おっとっと
グリルは手で自らの
「ウェッ! バッチィなぁもう……ほらかせ」
紅音はグリルの口元を持っていたハンカチで拭う。
「う、うべっ……うぶ」
「……ほら、じゃあ買いに行くぞ」
「うん。ありがとう!」
二人は店主の龍人に話しかける。
「こっちはビッグサイズで二人分くれ」
「あいよーーッ! ……毎度あり!」
と二人は大雑把かつデカすぎるローストビーフの肉塊が詰められた袋を手渡された。
「ん、じゃあどこで食うか? どこかいいとこ知らねぇか?」
「んーー……路地裏?」
「いや、さすがにそれは嫌だ。……食べながら歩くか」
そうして二人は肉を食いながら露店街を観光した。その過程でも、二人では注目するものが違った。一人は飲食店、一人はくじ引きや賭博関係だった。すると紅音はとある小ぢんまりとした露店を見つけた。
(何だあれ、他の店とえらく見た目が違うな。ちょっと行ってみるか)
「おい、グリル! あそこ行ってみようぜ」
「え、うん」
二人は奇妙な露店へと近づいた。そこにいた店主は人間の少年だった。
「いらっしゃいませ!
「進物化? って何も置いてねぇじゃねかよ。何売ってるつもりだ?」
「あー、そのですね。私はお客様の持っている武器や持ち物を進化させるという店でして。……実はこれを言うと皆様信じていただけなくて、途方に暮れてました。ははは……」
と少年は言う。そんな摩訶不思議すぎる話を真に受けて信じるヤツはいないだろうと誰もが納得する内容だ。だがそんな嘘をわざわざ言うのもまたありえない。本気で嘘付いているとしたらとんでもない間抜けとしか言いようがない。だがこの少年はそこまでのバカとも言えなさそうだ。つまり、本当である可能性があるため紅音はそれに賭けてみようと思ったのだった。
「ほーん、じゃあこの銀貨を進化させて金貨にしてくれよ」
「あ、それは出来ないです。銀貨自体は進化出来ますけど金貨という全く別の物質には出来ません。私のは概念的な進化ではなく物理的なものです。すみません」
「ちぇーーなんだよ、そういう感じかよ。でも他に良さそうな物なんて……」
「私持ってるよ! グニィ……プハァッ! はいこれ、この前のメイス!」
「ッ! お、お前それどこから……待てそこからか?」
と紅音が指さしたのは彼女の腹。つまり、お前のどこかの口に収納していたな? というサインである。
その意味にちゃんとグリルは気づけたのだった。
「うん! 入れてた!」
(入れてた! じゃねぇよッ! ……痛くねぇのかよ。まぁいいや、これで試してみるか)
「……んじゃ、これをよろしく」
「はい、それならば……【アップグレード】ッ!!」
と彼がそう唱えるとみるみる素朴なメイスが少しだけ立派な物へと変化した。
「おぉ! 確かに前よりは良くなってんなぁ。……だがこれそんなにだな」
「あはは……まぁ僕にできるのは一段階上までですし、それに重ねがけは出来ませんのでこれ以上はちょっと……。よりよい物を買ってもらうしかないですね。因みに200セールです」
「200……か、まぁそれくらいの価値はなくはねぇか。アタシらはそこまでの恩恵受けちゃいねぇけどな。ほらよ」
「ありがとうございます! またありましたらよろしくお願いします!」
「あったらな。じゃ帰るぞ」
「うん! あ、それ貸して!」
とグリルは両手を紅音に差し出す。
「ん? あ、また食う気だな! 間違って消化されでもしたら堪んねぇからやんねーよ!」
「えぇーー! 分かったよう。……そういえばミニルちゃんどうしてるかな? あれ以来会ってないよね?」
「んあ? ……あーね。と言ってもアイツはあの場限りのパーティーだったわけで別になぁ?」
と紅音は言うがある事を思い出す。前の依頼で手に入れた賞金は2万セール、だがその前に2万セール分をドブに捨てていたこと。つまり所持金が全く持ってプラスになんて成っていなかったのだ。しかもあの後少しだけ何度かカジノとかに行っていたのでもう金が無いのだ。紅音の額から汗が噴き出す。
(……やべぇ。金無かったんだった。そうだ! ミニルにでも頼れば楽な稼ぎ方を教えてくれるかもしれん。アイツは多分冒険者ギルドにでも居るはずだ! 今すぐ行こう!!)
「グリル! 今すぐ冒険者ギルドに行って会いに行くぞ!!」
「え? うん! 分かったよ、紅音!」
こうして紅音は生活費と娯楽のための金策を伝授してもらうため、
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*今回の実績
グリルの腹は満腹になった!
極上ローストビーフを手に入れた!
ステータス
名前:???
種族:人間
世界異能:【アップグレード】
詳細:触れた物を一段階上に引き上げられるが一対象につき一回きり。
称号:無し
魔法:無習得
耐性:無し
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