第6話

 翌日になると昨日さくじつの不安と焦燥は忘れ去られ同じように大学にも行かないようなつもりで身体を起こした。頭の中ではどこかに自分を苛む声が聞こえてきているがこのような小さな目標を達しても自分のために何かを役に立つものではないだろうなどの思考によって蓋を閉めた。

 カーテンの隙間から射す陽の光は以前と比べ徐々に暖かみを失いながら優しさのみを保っている。その光を見ていると目が覚め思考にかかる霧が晴れてくるのと同時に腹の虫の目も覚めたようなので陽に当たるのもかね何かを食べるために外へ出る。外の陽は室内からの陽と違いまだ暖かみを残している。過ごしやすい日でもあったので、少し遠いファミレスへ歩いていくことにし、その道中も終始機嫌が良く眠っているとも起きているともつかないほど心地よくもあった。ファミレスにつき、席に案内され顎に手を当てながら五分程度メニューを見たあと結局最初に気になっていた料理と人気がありそうなものと二つのみを頼んだ。料理が運ばれてきて食べ始めた頃合いに隣の席にカップルが一組案内されてきた。男は座るやいなや女にあれこれ指図を出し女の鈍臭いところに人目もはばからぬ程に嗤い手伝う素振りの一つも見せない。また、不思議なことに男の方の服装はみすぼらしいのであるが女の方の服装は大変綺麗で整っており、主従関係がそこにあると言われても何ら違和感のない差でなのである。どんな関係なのだろうと思い食べすすめていると、男が女を叩いたのを視界の端に捉えた。どうにも自分以外は見ていなかったらしくなんの騒ぎにもならなかったし、自分も見ないふりをしてやり過ごしてしまった。とはいっても見ていて気分が良いものでもなかったので急いで食べ、足早に店を出たあとも小走りで家に戻った。

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