第3話 ヴィラン復活!? 汗だくメスガキ変身ヒロイン、勝利を目指して最大の挑戦!


 ――ROBOLGER-Xの引退からしばらくの月日が流れ、2121年12月24日。イブの夜を迎えた世間はクリスマスムードに包まれており、人々を脅かしていた凶悪な犯罪組織ブラッドスペクターが潰えたこともあってか、東京は平和な賑わいを見せるようになっていた。街を彩るイルミネーションの輝きは、冬の夜空を艶やかに照らしている。


 だが、全てのヴィランがこの世から1人残らず駆逐されたわけではない。多くの正規ヒーロー達は今も、次なる戦いに向けて身体を鍛え、技を磨いているのだ。RAY-GUN-SLINGERこと辻沢風花も当然、その1人であった。


「んっ、ふぅっ、んんっ……!」


 都心部に建つ高層マンションの最上階。そのフィットネスルームで独り鍛錬に励む風花は、過酷なバーベルスクワットを繰り返していた。鬼気迫るその表情には、普段のお調子者らしさは微塵も無い。


 身体が持ち上がるたびに、瑞々しい汗が飛び散る。汗ばんだ釣鐘型の乳房が、ぶるんっと上下に揺れ動く。肩甲骨がグッと寄せられ、背筋が仰け反り、むっちりと実った安産型の桃尻が後方に突き出される。細く引き締まった腰つきにより、大きく膨らんだその曲線がますます強調されていた。


 凹凸の激しい肉体にぴっちりと密着し、身体の曲線をくっきりと浮き立たせている彼女のトレーニングウェア。その衣服には、芳しい汗の匂いがじっとりと染み付いている。白く瑞々しい柔肌に密着しているJカップのブラジャーとTバックのパンティも、芳しい汗でしとどに濡れそぼっていた。


「はぁ、んっ、くぅう、うぅんっ……!」


 彼女がスクワットの要領で持ち上げているバーベルは、並の重さではない。筋骨逞しい現役の正規ヒーロー達でさえ、10回持ち上げられるかどうか……というほどの、常軌を逸した重量なのだ。風花はそのバーベルをすでに、50回以上も連続で持ち上げている。


(こんなものじゃ……足りないっ……! 私はもっともっと、強くならないとっ……!)


 だが、風花はこの程度・・・・では足りないことを知っている。あの「No.1」――火弾竜吾なら、このバーベルを何百回持ち上げようが一滴の汗もかかないだろう。それを思えば、これしきのトレーニングで疲れてなどいられない。音を上げるなど以ての外。


 幼少の頃から竜吾の強さと背中を見て来た風花だからこそ、この過酷な鍛錬にも耐えられているのだ。他の正規ヒーロー達とは、目指しているもの、見えているものの「次元」が違うのである。


「んんっ……くぅ、ふぅうんっ……!」


 苦悶の表情を浮かべ、汗に塗れた肉体を虐め抜いている彼女は、ゆっくりと負荷を掛けるように腰を下ろして行く。弓なりに背中を反って前方に突き出された張りのある爆乳が、どたぷんっと大きく弾んでいた。


 後方に突き出された安産型の巨尻もさらに迫力を増しており、ウェアを押し上げる爆乳の谷間には、芳醇な香りを帯びた汗の雫が滴り落ちていた。無防備に晒されている腋の窪みや鼠蹊部の線には、甘美な汗の香りが特に深く染み込み、熟成された女のフェロモンがむわぁっと周囲に漂っている。


「んっ、ふぅうっ、んぅうっ……!」


 男の本能を焚き付ける、甘く濃厚なフェロモン。その色香を帯びた汗に塗れた彼女の肉体は照明の輝きを浴び、扇情的な光沢を放っていた。豊満に実った乳房や桃尻に対してその腰は細く引き締まっており、しなやかな腹筋のラインが鍛錬の成果を証明している。


「ふぅ、うぅっ……!」


 やがて今夜のトレーニングメニューを終えた彼女は、バーベルを所定の位置にズシンと戻して行く。そしてタオルで汗を拭い、携帯デバイスに手を伸ばす。その画面に表示されているレビューサイトは、いつも通りの「酷評」で溢れ返っていた。


(……ふんっ。相変わらず、この私の素晴らしさが分からない愚図共ばっかりですねぇ。他のよわよわヒーローさん達に足りてない「火力」を、この私がいつも補ってあげてるというのに)


 だが、言葉の刃で傷付くような精神力では正規ヒーローなどやっていられないのだ。風花は自分に対する罵詈雑言を鼻で笑い、冷たい表情を浮かべている。


 酷評の内容の多くは、「他のヒーロー達が弱らせたヴィランを風花が倒し、ハイエナのように成果を掠め取っている」というものだった。外側から観ているだけの市民達にはそう見えている、ということなのだろう。

 しかし実際は、風花の最大火力エレガントスカッシュでなければ倒し切れなかったというケースがほとんどなのだ。治安維持に直結しているヒーロー活動が「エンターテイメント」と化した弊害なのか。市民はヴィランを倒してくれた風花に対する感謝も忘れ、心ない言葉を投げ掛けている。


 それでも風花の心が折れないのは――自分の美点を理解し、勇気付けるかのようなレビューを書き続けている唯一のファンの存在が大きい。今日書かれたばかりの最新レビューを見つけた風花は、にへらと口元を緩めていた。


(……まっ、響太郎きょうたろう君だけは分かってくれてるから良いんですけどねっ! んふふっ、もっともっと褒めてくれて良いんですよぉ〜っ!)


 「響太郎」というユーザーネームでレビューを書き続けているその人物は、風花が正規ヒーローとしてデビューした頃から彼女を応援し続けていた「ファン1号」なのだ。他のレビュアー達が風花の態度に辟易して文句を並べている中、そのユーザーだけは風花の言動に理解を示し、熱心にエールを送り続けている。


 時には、戦闘時における「アドバイス」のようにも取れる内容のレビューを書くこともあった。響太郎ファンがそう言うならと、上機嫌でその内容を実践した風花がヴィランに快勝したケースは一度や二度ではない。そんな響太郎の存在があったからこそ、風花は今もヒーロー達の1人として戦えているのだ。


「……何やってるんでしょう、私は」


 そして、そうであるからこそ。未だにROBOLGER-Xのような人気を得られず、響太郎の応援に応えられていない自分の不甲斐なさが許せないのだ。

 きゅっと唇を噛み締めた彼女は、オーバーワークを承知でトレーニングを再開しようと、バーベルに再び手を伸ばそうとする。その時だった。


『臨時ニュースをお伝えします! 先日に脱獄した凶悪ヴィラン「BIGBULL-CHARIOT」が再び、警察署を襲撃しておりますッ! BIGBULL-CHARIOTは警官隊やヒーロー達を撃退し、建物を破壊し尽くしております……!」

「……っ!?」


 クリスマスムードに沸き立っていた東京の街。その平穏の崩壊を告げるニュース映像が、フィットネスルームに設置された大型ビジョンに表示される。かつての所属組織ブラッドスペクターを潰され、収監されていたヴィラン――「BIGBULL-CHARIOT」が、脱獄して大暴れしているというのだ。


『ご、ご覧ください、あの恐ろしい姿を! 以前とは比べ物にならない迫力です……! あんな怪物がこの世に居るなんて、にわかには信じられませんっ! まるで……悪夢を見ているかのようですっ!』

「……あ、あれは……!」


 数ヶ月前に惨敗したヴィランの復活に、風花の表情が強張る。BIGBULL-CHARIOTこと紅金牛太郎が装着している猛牛型の装甲服は、以前に戦った時よりもさらに凶悪なデザインに変貌していた。恐らくは組織の残党が、彼のために新型スーツを用意していたのだろう。


 数ヶ月前の屈辱を忘れないためなのか、竜吾にへし折られた角は敢えてそのままになっており、その左右非対称アンバランスなシルエットがより不気味な印象を与えている。それが単なる見掛け倒しではないということは、ニュース映像に映された彼の戦い振りが証明していた。


(ふ、ふぅ〜ん? み、未来の「No.1」の踏み台に丁度良いヴィランじゃありませんか。どうやら、私が軽〜く捻ってあげる必要がありそうですねぇ?)


 ただでさえ凶悪な力を持っていたあのヴィランは――脱獄を果たした後、さらに頑強な装甲服を完成させていたのだ。ますます手が付けられなくなった怪物の出現に、デバイスを持つ風花の手が震えてしまう。心の中で虚勢を張っても、か細い手指の震えは誤魔化せない。


『すでに近隣住民の避難は完了しているため人的被害こそ出ておりませんが、BIGBULL-CHARIOTのテロ行為による街の被害規模は計り知れません……! このままでは……きゃあっ!?』

『寄越せ』

「……!」


 そんな時。現場から街の惨状を中継していた女性アナウンサーの傍らに、紅金がぬっと割り込んで来た。彼はアナウンサーからマイクを奪い取ると、カメラの前に立ち「宣戦」を布告する。その相手は――考えるまでもないのだろう。


『ROBOLGER-Xに告ぐ! 貴様に組織を潰され、帰る場所さえ失った俺は……決着を付けるために帰って来たのだ! このまま勝ち逃げなど絶対に許さんッ! 貴様のような「本物」が現れない限り、俺はこの東京を破壊し尽くすまでだッ! 「No.1」のヒーローでなければ、この俺を止めることなど出来んぞッ!』

「……『No.1』の……ヒーロー……!」


 竜吾へのリベンジを胸に脱獄を果たした紅金にとって、彼の「引退」は到底許せるものではなかったのだろう。紅金は奇しくも風花と同じく、竜吾の背中を追い続けていたのだ。そんな彼の姿を目の当たりにした風花はデバイスの画面を切り、ぎゅっと拳を握り締める。


 ――ヒーローとして、この事態にジッとしているわけには行かない。しかし自分が出張ったところで、まともに戦えば勝ち目はないだろう。

 だが、その状況を覆す方法ならある。「プライド」が邪魔するあまり、それを手段の選択肢に含めていなかっただけだ。


 そんなものにいつまでも囚われているようでは、「No.1」になど永遠になれない。響太郎の励ましに応えられるような成果など、挙げられるはずもない。

 それは頭で理解している。それでも、心が付いて来なかった。プライドを捨てる踏ん切りが、付かなかったのだ。


(……私、本当に何してるんでしょう。いつまでもこんなところで燻ったままで、人気を上げられないままで……! どんな時も応援してくれるファンの期待に、いつまでも……応えられないままでっ……!)


 しかし今の自分には、プライドよりも大切なことがあるはずだ。迷っている時間など無いはずだ。弱い心を押し殺すように唇を噛み締めた風花は、やがて意を決したように顔を上げる。


「んぁあ……もぉおおっ!」


 脱獄した紅金の力に対抗するためには、「No.1」の力をぶつけるしかない。それを実現し得るRAY-GUN-SLINGERの「新装備」を作れる人間など、この世に1人しかいない。その結論に至った風花は悔しげな叫びを上げ、フィットネスルームから飛び出すのだった――。


 ◇


 トレーニングウェアからベージュのブレザーに着替えた彼女は、身体に染み込んだ汗の匂いに構うことなく地上に降りると、桃色の愛車ターボスカッシャーに跨り、疾風の如き速さで高層マンションを後にする。ピンク色を基調とする彼女専用のレーサーバイクは、瞬く間に時速300km以上の速度に達していた。

 緊急出動中の正規ヒーローは速度制限の一切を免除される……というのが22世紀の交通法なのだが、それにしても飛ばし過ぎである。風花の動体視力でなければ、いつ事故死してもおかしくない速さだ。


 前輪付近に装備されている、カマキリの鎌を想起させる形状のパーツ。その意匠は、彼女の鋭い闘志を表現しているかのようであった。ますます加速して行く風花のバイクはその刃を輝かせ、真夜中のハイウェイを駆け抜けて行く。


「さぁ……行きますよぉっ!」


 この数ヶ月間の中で、風花自身の手によって強化改造されていた「後期型」。そんな彼女の新車・・は、それ以前の「前期型」とは比べ物にならない加速力を発揮していた。より鋭いデザインに生まれ変わった彼女の専用バイクは、弾丸の如き速さで道路の上を疾走している。


 マフラーから噴き出す猛火は、流線型の車体を真っ直ぐに吹き飛ばしていた。風花はその猛烈な加速に振り落とされまいと、シートに腹部を擦り付け、身体をぴったりと密着させている。豊満な乳房をむにゅりと車体に押し付け、下着パンティが見えてしまうことも厭わずに、安産型の巨尻を後方にぷりんっと突き出して行く。


(どこを走っても街中大騒ぎ……。どうやら、先に現場入りした正規ヒーローの皆さんはギッタギタにやられちゃってるみたいですねぇ。私も……モタモタしてはいられませんっ!)


 ヴィランの出現にどよめく人々を尻目に、彼女は夜のハイウェイを疾走していた。猛風に煽られ捲れ上がったミニスカートは、彼女の白い太腿と巨尻を露わにしている。むっちりと実った桃尻に深く食い込んでいるTバックのパンティは、後続車両の運転手達の視線を釘付けにしていた。


 やがて、新宿区の片隅に建てられている小さなビル――「火弾探偵事務所」に辿り着いた風花は、颯爽とバイクから飛び降りヘルメットを脱ぎ去る。着地の瞬間には特大の爆乳がばるんっと上下に弾み、スカートが捲れ上がってパンティが露わになっていた。夜風を浴びた艶やかな黒髪が、フレグランスな香りを振り撒き、ふわりと靡く。


「こんばんは、ロブ。『ご主人様』はまだ事務所ですか?」

『ポピポ! ピポパパ!』

「オッケー、ありがとうございます。お散歩ツーリングはまた今度、ね」

『ピポパ〜!』


 事務所前のガレージに停められていた青いオートバイ――ロブに対して気さくに声を掛けながら、風花はグローブを脱いで建物を仰ぐ。彼女にじゃれ付くかのように、その周りをぐるっと一周するロブの挙動は、まるで人懐っこい大型犬のようであった。そんなロブの青いボディを優しく撫でながら建物を見上げている風花は、神妙な面持ちで目を細めている。


「……あの人にだけは、頼りたくありませんでしたねぇ」


 そこは、かつて「No.1」と呼ばれていた男の住処であった。

 「最強のヒーロー」の力を再現し得る新装備。それが作れる人間など、もはや1人しか居ないのだ。ROBOLGER-Xを開発した科学者の元助手だった、火弾竜吾しか。


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