第2話

というのは後から分かった話だ。

実際のところは、ぴーぴぴ、ぴーぴぴぴぴぴー、ぴぴ、という音に過ぎなかった。

小学生はリコーダーを咥えていた。

今時の小学生はみんなリコーダーを咥えて帰るものなのだろうか。


小学生を観察する。

ジト目が特徴の、高めのツインテールの女の子だ。

赤いランドセルと黄色い帽子は普通の小学生と言った感じだが、ジト目とリコーダーは特異点だろうな。


「えーと」


JS(女子小学生)は未だリコーダーを口から離さない。


「あー」

頭をかく。

「はじめまして、神様です」


ぴー、と甲高い音が響いた。


リコーダーを口からはなし、ランドセルのサイドポケットから取り出したケースにのんびり仕舞った小学生は、俺に向き直った。ちなみに意思疎通できるようになるまで結構かかった。彼女は延々とリコーダーを咥えたままの会話を試みたからだ。


それはともかく、リコーダーをはなした小学生はこう宣った。


「あんた、かみさまなん?」


「まあ、一応ね」

と俺は答えた。


「これがウワサのかみかくしなん?」

「うーん……まあ確かに神隠しか?」

「かみかくしなら、ひより、おうち帰れないん?」

「……っすーっ、えーっと、まあ……」


マニュアルはこの小学生を投与した異世界人と認めている。

俺はすーっと目をそらした。


「かみさま、ぽんこつなのん……ひどいのん……」


ジト目のまま小学生は手で目元を覆い、しくしくと泣きまねをしている。

まあ、指の隙間からこっちの様子を伺っているのはバレバレだけど。

しばらくその態勢を続けて、場は膠着。


かと思えたが、そんなこともなかった。


「……まあ、しょうがないのです。」


小学生はあっさり泣きまねをやめてそう言った。


「こたえてくれ、なのです」


なので俺もうなずいた。


「じょーきょーかくにんをするのです。」


はい、了解なのです。

俺はびしっと敬礼で返した。


「かみさま?」


指さされて、うなずく。


「ゆーかいはん?」


うなずく。


「おーまいがー」

小学生は棒読みでのけぞった。


残念ながら、あのバンが彼女を誘拐し終えなかった以上、俺が誘拐犯である。

しかも異世界への誘拐犯だ。

これは完全にやらかしている。

まとめるとまあ、こういうことだ。


「残念ながら俺が神様で、誘拐犯です」


「えー」

間延びしたリアクションだった。そして小学生は言った。


「あんびりーばぶる、なのです」


「急に語尾変わったな⁉」


ジト目は軽くうなずいた。


「イメチェンなのです。さっきまでのひよりはのんのんびよりにハマっていたのです。でも今はきんきゅーじたい、なのです。ならばしんきいってん、なのです」


「のんのんびより……懐かしいな」


「かみさま、しってるのか、なのです」


「うん、まあ。のんびり暮らしたくなるよね。……一応、ここならスローライフ出来るけど、どう?……って、小学生にスローライフの魅力はまだ分からないか」


「?」


小学生は首をかしげた。


「そんなことより、大事なことをわすれているのです」

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かみさま、ゆーかいはんです! 巻貝雫 @makigaitown

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