かみさま、ゆーかいはんです!

巻貝雫

第1話

我は神。偉大なる神の力を持つ使徒、もとい下僕、もとい官吏……早い話が下っ端。

天上世界も世知辛いものであるので、下っ端はよくわからん仕事でもひいひい言いながら取り掛かるしかないわけです。


こんな下っ端ではあるけれど、一応神と名の付く存在ではあるので、世界を管理するという仕事もあります。

我、いや俺は平行世界の中でも最も発展の遅れた世界の一つを上司から任されたばかりの新任です。


とまあ、俺も新任だし、神っぽい仕事をするのも初めてなわけだ。

これでも労働環境改善っていうのが意外と浸透していて、マニュアル的なものはもらえるんだけど、このマニュアルがまた大雑把な流れしか書かれていないので実質役に立たない。

マニュアルだけ渡されて、先輩神からの引継ぎとか説明とかそういうものはないのである。

まあ、何をすればよいのか逐一確認できる面では役には立つけれども。


しかし、何をするかは書いてあっても、どうやるかの詳細を書いていないというのはいかがなものなのか。


新米神の俺は、とある星を任せられた。

一つの大陸と海を持つ星だ。

今のところ大陸のほとんどは森に覆われていて、人の交流も少ない。

山一つ越えるのも困難で、地球なんかと比べると文明のレベルは著しく低い。

……まあ、だから新任の俺が担当出来るんだろうけど。


世界の文明の発展というのは、一般的には、大きく二種類に分かれる。

科学系か、魔術系か、である。

この星は恐らく魔術系に発展するというのは、まあ、見ていれば分かる。

俺の星はまだまだ文明レベルは低いのだが、地球なんかでは一部の人しか使えなかった魔法をすでにほとんどの人間が使用している。

おそらく、今後は魔術器具とかそういう系統を経て文明化していくのだろう。

すでに人々は魔術の付与という発明をしたところだ。


さて、新米の俺は上司から渡されたこの星を担当するわけだが、文明水準が一定のレベルに達した世界には異世界人を定期的に投入すべし、というのがマニュアルの記述だ。

ただし、「どこの」も「どうやって」も記述はない。

しかもこのマニュアルは無駄に高機能で、期限を設けてくる。

タイマーが期限までの猶予を知らせるのだ。


そんなわけで、異世界人の投与がミッション、期限は3日後。

ろくに話したこともないが名目上上司となっている神に話を聞くところからはじめることにした。

一日目、俺は丸一日かけて上司の世界へと赴いた。

二日目、俺は上司との面会に臨むも、上司の世界は未曾有の大災害に襲われており、祈りやら世界のバランスやらで上司はてんやわんやしていたので、ろくな答えは得られなかった。

三日目、俺は俺の世界から最も近い平行世界の中でも文明レベルの比較的高い宇宙にある地球へ赴いた。


地球は俺にとってもなじみ深い星だ。

適当にふらふら飛んで、インターネットの情報をあさる。

特に日本のネット小説には異世界転生とか転移とかが異常に多かったのは僥倖だった。

おかげで俺は異世界人投与のミッションにおける、「どこの?」の答え:地球を得、また数多くのネット小説は俺に「どうやって?」の答えまで提示した。


俺の能力をもってすれば人一人くらい共に転移させることが出来る。

幸い、地球と俺の星は近いので人間の魂は問題なく運べるだろう。

これが遠いと移動中に魂がばらばらに欠けて跡形もなくなってしまうのだ。

やれやれ、本当にそういうのって困るよな。


さて、地球、俺の見ている日本の時刻は午後三時。

三時のおやつの時間なわけだが、残念ながら三時のおやつを三時に食べてるやつは見当たらない。

まったく、つまらん社会だ。

「三時のおやつー、三時のおやつー」

ちょっとコンビニスイーツでも買いたいところだ。


コンビニの近くの路地裏に降り立つ。

地球の神々は忙しいから俺一人くらいが紛れ込んでもばれやしないだろう。


「三時のおやつー、三時のおやつー」

何を買おうか。うきうきしながら角を曲がる。


と、そこで黒いバンと、引きずり込まれる小学生が見えた。


目と目が合う。


俺は手を伸ばし、そうして俺らは転移した。












俺の星に。





そんなわけで、目の前の女の子は言った。

「かみさま、この人ゆーかいはん、です!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る