第16話 1歩1歩

カペラの部屋。

先代聖女の死、ベガの魔傷のきっかけである事件の詳細を

食事をとるのも忘れて聞いているシオンとリゲル。


「その事件以降、王城で調査を進めましたが、

 なぜあのタイミングで中央神殿の結界が解けたのかを

 突き止めることが出来ませんでした。

 真実を知っているであろうカノン様は、亡くなってしまいましたから」

「ベガさんは……」

「カノン様と行動を共にされていたベガ様も、

 魔傷の影響でとても調査を進められる状態ではありませんでした」

「そう……」

「シリウス様は魔傷に倒れた王と王太子を支える為、

 誰にも文句を言わせないくらいに壮絶な努力をして、

 城内の情勢を今の地位を手に入れました」


この国に起きた過去の事件を皆引きずっている。

ベガの魔傷、シリウスの責務、カペラの苦しみ、

その憂いを晴らすために、自分は召喚されたのかもしれないと

シオンは身が引き締まる。


「もどかしいです。私の力不足で今すぐ皆さんを救えないことが」

「聖女様は、随分努力なさっています」

「まだまだです。10年、ずっと苦しんでいる方がいます」

「シオン様……」

「まずは手の届くところから」

「ベガ様ですね」

「はい。でもベガさんだけではありません」

「え?」

「シリウス様とカペラ様…それにリゲルさんも、です」

「聖女様……」

「シオン様……」

「……それにしても、シリウス様のお母様は先代の聖女様だったんですね」

「説明していなくてすみません」

「シリウス様は、私がお母様と同じ聖女だから、親切にしてくださるんですね。

 理由が分かって嬉しかったです」

「違いますよ」

「え?」

「シリウスが優しいのは、貴女だからです」

「私だから……?」

「はい」


カペラは優しく微笑む。

シオンはその笑顔の裏に隠された悲しみを取り払ってあげたいと思った。


「私、ベガさんともう一度お話したいです」

「しかし、ベガ様は治療を望んでいませんでした」

「きっと、罪の意識があるのだと思います。

 自分だけが助かってしまったことに」

「そんなの、偶然……」

「そう思えない理由を、彼女は抱えているのではないでしょうか。

 皆さんのご友人なら、私にも無関係ではありません」

「聖女様……」

「それに……カペラ様ご自身が、彼女を救ってあげたいのでしょう?」


カペラは静かにうつむき、目頭を押さえる。


「ありがとう……ございます……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る