第9話 お出かけ 

向かい合って、馬車に揺られている。

シオンにとって想定外だったのは、シリウスが横に座っていることだ。

日本人として生きていた時は男性とお付き合いをしたことがなく、

異性と肩が触れるような距離感で座ることに慣れていない。

この世界の友人間では当たり前なんだろうけど…、と

どぎまぎしてしまう自分が恥ずかしくなるシオン。


カペラとリゲルは口数が少なく、

話をしているのはほとんどシリウスとシオンだけだ。

それも緊張を加速させる要因の一つだった。


「どこに向かっているんですか」

「街だよ。息抜きもたまには必要だからね」


カペラに向けた質問に被せるようにシリウスが答える。

今日はカペラに呼び出されたので、明らかにこの発言は嘘なのだが、

シリウスに口を挟めないカペラの心中をシオンは察した。


(自由人な上司を持つと大変だよね)


「シリウス様、楽しそうで何よりですね」

「何か言ったかい、リゲル」

「いえ、何も」


シリウスの視線が自分以外に移ったことに安心しつつ、

シオンは早くなった心音を彼に気づかれないよう必死に平常を装っていた。


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馬車を走らせること約30分、

大通りから少し離れた場所にひっそりと佇む可愛らしいカフェに到着する。

馬車から素早く降りたシリウスは、シオンの方を振り返って手を差し出す。


「足元気をつけてね」

「ありがとうございます」


(絵本の中の王子様みたい)


幼少期に母が読んでくれた絵本の王子様と重なり、

エスコートしてくれるシリウスに、顔が赤くなっていくのを感じる。

ばれたくない一心でシオンは顔を反らしたが、そのせいで足を踏み外してしまった。


「あっ……!」

「危ない!」


恐怖に目をつぶってしまったシオンは、落下の衝撃に備えた。

しかし、その衝撃の代わりに柔らかい感触と甘い香りが全身を包む。


(抱きとめられてしまった……!)


「……‼ すみません!」

「怪我はない?」

「はい! シリウス様は」


急いで顔を上げると、シリウスと目線がぶつかる。

完全に悪手だった。

逃げられない距離に、美しい顔がある。


「……‼」

「問題ないよ。それより、君に怪我がなくて良かった」

「……ありがとう、ございました」


何とか絞り出すようにお礼を言うと、ようやく腕から解放された。


「人の店の前でいちゃつかないでくださる?」

「そんなこと言わないでよ。僕らは純粋にお茶しに来たんだ」


声の方を振り向くと美少女が立っていた。

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