第13話 夕食

「なんでもお答えしますよ」


同じ卓に座った瞬間だった。

自分の思考を読まれていたと体が硬くなる。


「聖女様は分かりやすいですから。

 私に聞きたいことがあるのでしょう?」

「……はい」

「側近は人を見る目を常に養っておかないといけないのですよ」

「ちょっと自分が情けないです」

「私はシオン様のそういうところが好ましいと思っておりますよ」


リゲルにフォローされて少し回復するも、

王城で働くというのは存外厄介なことが多いのだろうと同情する。


「気になっているのは、ベガ様との関係でしょうか」

「鋭いですね」

「シリウスと私、ベガ様とリゲルは幼少期を4人で過ごすことが多かったのです。

 元々シリウスとリゲルが乳母兄妹でしたが、

 そこに私が将来の側近候補として選ばれました。

 同等の家格をもっているベガ様がシリウスの婚約者として我々に加わったのは、

 シリウスが10歳の誕生日を迎えた時です」

「そんなに前から……」

「聖女様の故郷では早い、のでしょうね」

「ええ」

「でもこちらの世界では遅いくらいなのです。

 当時はシリウスの母君が粘っておりまして、しぶしぶ承諾したのがその年でした」

「シリウス様のお母様が……?」

「普通の少年らしく育ってほしいとの願いからだったのでしょう。

 息子思いのお優しい方でしたから」

「いいお母様だったんですね……」

「ええ、とても」


懐かしむカペラの表情はとても穏やかだが、どこか苦しそうだった。


「幼い頃から一緒だったから、皆さんはベガ様と仲が良いのですね」

「いえ、そうでもないですよ」

「え? でも先日は……」

「気の置けない、という意味では仲は悪くないのですが、

 お互いの立場が複雑なこともありまして、

 ベガ様は我々と極端に仲良くなることを避けていらっしゃいました」

「カペラ様! 誰かに聞かれては……!」

「大丈夫だよ、扉は閉めてある。ここには私達しかいないよ」

「リゲルさんも知っていることがあれば教えてほしいです。

 ベガ様が治療を受けたくない理由が分かるかもしれません」


リゲルはゆっくりと口を開く。


「公爵令嬢として、振る舞わなければというプレッシャーがあったのでしょう。

 いつも誰にも弱みを見せられないようでしたから」

「ベガ様はシリウス様の婚約者でしたが、

 王妃教育を受けられているという噂がありました」

「シリウス様の婚約者でありながら王妃教育を?」

「事実、仮の婚約者であるシリウス様以外に、

 王太子と謁見をしている所を侍女が目撃しておりました。

 おそらくご両親の思惑でしょう。

 時期を見て、挿げ替える算段だったのだと思います」


親の言う事が絶対という貴族社会。

婚約者を裏切る罪悪感と厳しい王妃教育、

どう考えても1人の少女が耐えられる負担を超えている。

それを誰にも言えず、ベガは1人で抱え込んでいたのだ。


「そして……ある事件が起きたのです」


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