第7話 側近カペラ
「聖女様、ありがとうございます」
「お大事に」
最後の患者を見送って、一息つく。
診察室での治療を始めて2週間。
異世界生活にも大分慣れてきて、
中級の魔傷持ちの患者も1日に5人まで対応できるようになっていた。
(最初は神聖力-聖女の持つ魔力のようなもの-を集中させることに苦労したけど、
シリウス様が根気よく練習に付き合ってくれたおかげだなぁ……)
「すぐにお茶をご用意しましょう」
「ありが…」
「私もご一緒しても?」
「シリウス様!?」
「ちょうど執務がひと段落したところなので、遊びに来ちゃった」
「……せめて事前に連絡してください」
忙しい中、来てくれていることはシリウスなりの気遣いであると、
付き合いが浅いシオンにも分かるようになってきていた。
「目の下の隈、また濃くなっていますよ」
「なんのことかな」
「嘘が下手ですね。リゲルさん、ジャスミンティーを用意してもらえますか?」
「かしこまりました」
「シリウス様はこちらに」
強引に診察台にシリウスを座らせ、
祈りを込めながら、目元に手を当てる。
「疲れが取れますように」
最初は抵抗していたシリウスだが、諦めたのか治療を受けてくれた。
次第に静かな呼吸になっていき、小さく声をこぼす。
「シオン……」
「え……?」
その瞬間、シリウスの体がぐらりと大きく傾き、シオンの肩に体重がかかる。
支えきれなくなる、と覚悟したが大きな手に助けられる。
扉の前で控えていたシリウスの側近、カペラだ。
彼の手を借りてシリウスを診察台に横たわらせる。
「ありがとうございます」
「もう少し早くお助けすべきでした」
「いえ、とても助かりました」
「シリウスがご迷惑をおかけします」
カペラはシリウスの側近ではあるが、
幼い頃から共に勉学に励み、敬称を付けないでも許される仲だ。
(名前呼び幼馴染、尊い)
シオンも神聖力での治療の練習中、
明らかに貴族であるシリウスに敬語を使われることに引け目を感じて、
フランクに話してくれるよう頼み、今のような関係に落ち着いた。
(本当に仲のいいカペラ様にはもっと気安いから、やっぱり線を引かれているのよね)
「いつもよりお疲れのようでしたので、効果が出やすかったのでしょう」
「聖女様のお力が素晴らしいのです」
「そうだといいのですが……」
「シリウスが、信頼を置くのも理解できます」
「私、信頼されていますか?」
「はい、シリウスは人前では絶対に寝ません」
「え?」
「聖女様は特別なのでしょう。普段は他人に触れられる前に避けますから」
「では気を張らずにいられる場所を提供できていると思うことにします。
カペラ様も、私のことはお名前で呼んでいただけませんか?」
「すみません。シリウスにきつく言われていますので」
「聖女と呼ばれるのは慣れないのです。どうしてもだめですか?」
カペラは少し考えて、真剣な目をこちらに向ける。
シオンはその空気に思わず息をのんでしまう。
「1つ、お願いを聞いていただけたら……」
「なんでしょう?」
「友人を救っていただきたいのです」
「完全に治せるかは分かりませんが、出来る限りご協力いたします」
「……ありがとう、ございます」
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