第5話 観察保護対象

「ところで、聖女って一体何をすれば良いのでしょうか?」


泣いてしまった恥ずかしさを払拭するように、話題を変える。


「聖女の役目は主に癒し、怪我人や呪いにかけられた人の手当です」

「お医者様のようですね」

「ええ。ただシオン様に診ていただきたいのは通常の患者ではなく、

 魔傷を負った患者です」

「魔傷?」

「魔物に襲われた傷を魔傷と呼びます。

 魔物のレベルによって治療や解呪ができる限界があり、

 現在確認されている魔物は、特級・上級・中級・下級の4種ですが、

 聖女以外の癒しの力ですと、下級までしか治せません」

「そんな……では皆さんは傷を抱えたまま?」


シリウスは静かに頷く。


「10年前、先代の聖女様が亡くなられてからは」

「私がもっと早く来ていたら……」

「……いえ」


(おそらく先代の聖女様は慕われていたのだろう)


シリウスもリゲルも、辛そうな顔を隠せていなかった。

シオンは沈んだ空気を切り替えるように明るく話し始める。


「そういえば!お仕事を始める前に、私は住むところを探さないといけませんね」

「我が国では召喚した聖女は国賓扱いになります。

 王城に滞在していただき、

 診療も城内の医務室をご用意しておりますのでご安心ください」

「……私、お城で暮らすんですか?」

「はい。聖女は王族が保護する決まりになっております」

「保護というか、観察ですよね……? 逃げ出さないためにとか……」

「いえ、保護です」


にっこり笑うシリウス。

表情をひきつらせるシオンと相対している。


(笑顔ではごまかされませんよ、

王族の方々が異世界の人間をすぐに信用する訳ないじゃないですか)


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