第4話 優しい人

シリウス様が指定した時間まであと5分。

なんとか、間に合った。


(私が身支度10分でできる社畜で良かったですね??

リゲルさんの為に次からは早めのお知らせお願いしたい所存だった)


シリウス様との謁見用に準備されたドレスは

落ち着いた薄水色だがフリルがふんだんに使用され、

普通の日本人であるシオンでは明らかに着られている感が満載だった。


(リゲルさんは可愛いと褒めてくれたけど、

シリウス様には笑われてしまいそうで怖い)


などと考えていると扉の外から声を掛けられる。


「シリウスです。入ってもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「失礼します」


半日ぶりのシリウスも変わらない眩しさを纏っていた。


(まともに顔が見られないわ)


「お加減はいかかですか?」

「おかげ様で、もうすっかり良くなりました」

「我々が負担をかけてしまったのでしょう」

「いえ、日々の蓄積だと思います……社畜でしたし」

「社畜……?」

「あ、すみません。社畜はですね……仕事ばかりしている生活、です。

 前の世界では14時間労働が普通でしたので」


(ってなんでこんな身分の高そうな人に惨めな身の上話してるのよ、私。

二人とも困るに決まってるわ。シリウス様はとても考えこんでいるし、

リゲルさんなんて真顔でこちらを見ている、心配させてしまったかしら)


「私が聖女というのは信じられませんが、実はちょっとわくわくしているんです。

 第二の人生をもらえたようで」

「前向きですね」

「お二人と顔見知りになれましたし、

 私には過ぎるくらいの綺麗なドレスも着られました。

 だから、とってもラッキーなんです」

「随分頑張ってこられたのですね。シオン様はご立派です。

 私がお手伝いできることがありましたらなんでも仰ってくださいね」

「ありがとうございます」

「ドレス、とてもお似合いですよ」


シリウスは真剣な顔をして、そっとシオンの頬に優しく触れる。


「?シリウス様……?」

「私が泣かせてしまったのでしょうか」


シリウスに指摘されて、シオンは自身が泣いていると気づいた。

過去の頑張りを立派だと認めてくれたこと

ドレスが似合うと褒めてくれたこと

涙を流した自分を慰めてくれたこと

シリウスの気遣いが感じられて、

ここにいてもいいんだと思えてシオンは嬉しかった。


「違うんです。嬉しくてつい…」

「本当ですか?」


静かに頷いた後、シオンはシリウスを真っ直ぐ見据える。


「私、立派な聖女になれるよう精いっぱい頑張ります」


彼の優しさに応えるために、聖女として生きていく決意を固めた瞬間だった。

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