(短編)5年目の贈り物~祖母のくれた魔法の時計~
コツッコツッ
秒針が時を刻む音。僕の嫌いな音。
僕が中学生になった時に、亡き祖母がくれた電波式の目覚まし時計。部屋の灯りを消せば、俺の出番だとばかりに自己主張してくる。
普段は聞こえないくせして、急に俺は立派に仕事をしているぞ! お前はどうなんだと言ってくる。
僕だって嫌いな学校に、毎日通っている。行けばいじめられるのに、それでも休んだことはない。
勿論、学校のある明日は来てほしくない。僕の出来る精一杯の抵抗は、少しでも長く起きていること。眠ってしまえば、一瞬で朝が来てしまう。
でも、どんなに寝ないぞと意気込んでも、コツッコツッと時を刻む音が、僕に魔法をかける。
気付けば朝。虚しい気持ちで、何も変わらない1日が始まる。もう、5年も続けてきた。それも、もう終わりにしようと思う。
だけど、今日は違った。何故かは分からないが、睡魔が襲ってこない。
時計を見れば、秒針は動いている。しかし、59秒から先に進めないでいる。動きはしているが、頂点に来ると再び戻される秒針。
電波が受信出来ないのか、それとも壊れたのか? 電波を再受信させてみると、長針も短針もクルクルと周り、また正しい時を刻み始める。
しかし、また秒針だけが59秒から先に進むことが出来なくなる。
もしかして、時間が止まったのか……。
国道を走る騒がしいトラックの音が、今日は聞こえずに静まり返っている。
僕の願いが叶ったのだろうか? そうならば、明日は来ない。ただ、不安なまま時計をじっと見張り続ける。
やがて、空が白み始め朝を告げてくる。
どうして、朝が来るんだ? 時計の針は進んでいないのに、どんどん外は明るくなってゆく。
もしかして、電池切れ? そんな単純なことに、今さらながら気付き、新しい電池と交換する。
コツッコツッコツッコツッ
再び動き出した秒針は、何事もなく59秒に別れを告げる。情けなくて、笑うしかない。
もう、空は明るい。もう、寝る時間なんてないだろう。寝不足の僕には、いつも以上に最悪な日々が始まる。そう覚悟して、カーテンを開ける。
外に広がるのは、真っ白な雪の世界。トラックが行き交う国道は雪に覆われ、どこに境界があるかさえ分からない。ニュースでは、10年に1度の寒波と言っていたが、まさか本当だとは思わなかった。
時間は止まらなかった。でも、学校は休みになるだろう。
コツッコツッという時を刻む音が、僕を眠りへと誘う。時計のリズムに合わせて、今日も僕の鼓動は動く。
ただの電池切れなのかもしれない。単なる偶然なのかもしれない。それでも私が魔法と感じたなら、それは祖母の魔法に違いない。
もう壊れてしまった祖母の魔法の時計。だから、これは私の1000文字の魔法の呪文。
【後書き】
底辺作家と呼ばれても、私はこれからも投稿を続けるのだろう。収益化や承認欲求ではない、もっと些細なことがモチベーションだと思う。それが、人生に彩りを与えてくれると信じている。
そんな想いが、カクヨムの運営に届きますように。
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