折れてしまっても

「最悪な奴で離れたくなかった」


 重々しい空気を澱ませるは悠人の部屋で、悠人は今までの自分の話をしながらボロボロと涙を流していた。

 いつもは明るく振る舞う彼の弱っている姿に三人は言葉を失い、伊月は寄り添い時折背中を摩っていた。

 初めて見せた悠斗の泣き顔は、伊月にとっては心苦しくもあり、密かにうれしいものであった。

「やっぱりあいつは最低のクズだ。マジでこれからは関わらないほうがほうがいい」

 謙夜に対して憎悪を爆発させている護はやや興奮気味に言った。その横で渡はただ黙って謙夜を宥めようとしている。

「俺さ、わかってたんだよ。謙夜と付き合うのはどう頑張ってもなんだって。だから、伊月に告白された時さ、もしかしたらこれで謙夜への気持ちは無くなるかなって思ったんだよ。これでちゃんと、純粋に親友としてアイツと向き合えるって、そう思ってたのに」

 嗚咽を混ぜながら言葉を吐く悠斗に伊月は頷きながら聞き、優しい言葉を終始かけ続けた。

「わかるよ。僕の初恋の相手も謙夜の好きだった人と同じように、僕らみたいな人を絶対に認めないし、白い目で見てくる人だったから。実は僕、そいつのせいでずっと嫌がらせとか受けてたんだよ」

「え、そうなの?伊月は辛くなかったか?」

「まさか。すごく辛かったし、逃げたかったよ」

「じゃあ、なんで伊月は頑張れたんだよ!なんで、どうやって男を好きでい続けれたんだよ」

「ちょ、悠斗くん落ち着いて!」

 ぐしゃぐしゃになった顔の悠斗を抑制した後、伊月は護と渡を一目見てからこう言った。

「親友がいたからだよ」

「え?」

「みんなにどれだけ否定されても、気持ち悪がられても、僕には、僕のことを肯定して認めてくれる人がいたから。だから僕は挫けずにここまでこれたんだよ。だからごめん悠斗くん、悠斗くんの想いを完全に否定して、馬鹿にしている守道くんを、僕は悠斗くんの親友だとは思えない」

「っ!!」

 バッサリと自分の考えたくなかったことを思いもかけず伊月に語られた悠斗は、唇をギュッと噛み締め俯いていた。

 そしてそれに見かねた護も厳しい口調で喝をいれた。

「伊月の言う通りだと思うぞ。よく思い出せよ、アイツの今日の悠斗に対してのあの態度を。あれはお前の言うに対しての態度なのか?お前らの関係性は正直深くは知らないけどさ、少なくとも俺は、あいつはもう悠斗のことを友達とも仲間とも思ってないように見えたけどな」

 護は言葉は鋭い刃物のようで、悠斗の突かれたくない心の内を貫き、そして抉った。次の瞬間、悠斗はボロボロと泣き崩れた。

「もう、どうすればいいんだよ!俺は、誰も……」

「僕がいるじゃん!」

「あ……」

「確かに僕は、アイツよりも悠斗くんのこと全然知らないし、悠斗くんは多分今でもまだアイツのことが少し好きなんだと思う。すっごく悔しい。けど、この際そんなのどうだっていいんだ」

「あ、伊月、ごめ、、」

「謝らないで。悠斗くん、僕は悠斗くんの彼氏だよ。だから、頼ってよ。護も渡も悠斗くんの友達だよ」

 悠斗がじっくりと確認した護と渡の顔は、伊月の言ったことに納得しきったものだった。

「悠斗くんの支えがいないなら、僕らが支えるよ。友達として、仲間として、僕は恋人として、悠斗くんを認めるよ。だから、辛いときは僕らに言ってよ。泣いてよ」

「あり…がとう!!……」

 悠斗が泣き止み、落ち着くのは少し時間がかかった。ただ、辛くて泣いていたはずの悠斗の部屋には、いつの間にか暖かさが広がっていた。

 

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