挑む時 中
食欲をそそる甘い黄金色の
紙袋を一カ所にまとめて5人は料理を前に座り、談笑を交えながら食事をしていた。
「本当にさっきの伊月の格好は似合ってたぞ。朝陽のセンスはすごいな。今度渡のコーデもしてやってくれよ」
「えぇ!おれ!?」
「こいつ今日もそうだけど灰色とか黒とか地味な服ばっかなんだよ」
「確かにそうだよね。渡の部屋にも同じような服ばっかなんだよ」
「中学の時なんて学校のジャージで遊びにきたこともあったよな」
「そうそう、それに前なんて……」
自身の過去の雑なファッションを片っ端から暴露されて渡はたちまち赤くなってしまった。
さすがにかわいそうだと思った悠人が伊月の食べているカニ玉に話題を切り替えた。
「伊月が食べてるカニ玉、思ったより大きくて、めっちゃ美味そうだな」
「美味しいよ!一口食べてみる?」
「食べる」
「はい」
伊月はレンゲいっぱいにカニ玉を掬って悠人へさしだした。
悠人は大きく口をあけて伊月のカニ玉を一口いただいた。
「うっま!」
「でしょ。悠人くんのチャーハンもちょっと食べたい!」
「オッケー!」
またも二人の甘い空間が創り出され、蚊帳の外にいる三人だが、そのうちの謙夜を抜かしては楽しそうだった。
「伊月も朝陽も楽しそうだな」
「本当にねぇ。いいな〜」
「羨ましいのか?」
「あったりまえだよ!伊月の恋路ばっかり応援してたけど、おれらも頑張らないと!高校生!」
「それはそうだけど、渡、今いい感じの人いんのか?」
「……あー、いない」
「ダメじゃん」
餃子を飲み込みボソッと呟いた謙夜に、隣に座っていた渡がギュッと抱きついた。
「そんなこと言うなよ〜けーんーやー!」
「おい……なんだよっ」
「そういう謙夜は、彼女いるのか〜?」
「……、いねえよ」
「まあケンはモテるからつくろうとすればできるだろ!彼女」
「適当なこと言ってんじゃねえよ」
謙夜は悠人のことを鋭く睨みつけ、低い声で言った。そして浅いため息を吐いた後で聴こえるような独り言くらいの声量で言葉を漏らした。
「できたとしてもお前みたいに外で恥ずかしいことはしねえよ」
「そんなことしてるつもりないんだけどなぁ」
斜め下に目線を向けて苦笑いを混ぜた悠人の言葉には何も返ってこず、空気が重くなったまま食事は終わってしまった。
食事が終わり会計を済ませようとレジに向かう際、伊月が前回のデートの時は払ってもらったからと、悠人の分も払うことになった為、悠人と、渡に払ってもらう謙夜の二人は先に店の外で待つことになった。
謙夜はスマホを見ていて何も会話が生まれない。その隣で悠人はどうにか謙夜との気まずい仲を打破したくて話しかけてみた。
「なあ、ケン」
「なに?」
「最近、なんで俺のこと悠人って呼ぶの?」
「なんでって、お前は悠人だろ」
「そうだけどさ、前がユウって呼んでたじゃん。俺だってケンって呼んでるし、てか中学の頃から」
「ああ、そんなのなんとなくだよ。ていうかもう恥ずいだろ」
スマホから目を逸らすことなく無愛想に会話する謙夜に、悠人は返事をやめてしまった。
しかしそれでは良くないと思い、一番聞きたいことを謙夜に投げることにした。
「なあ、そんなに嫌か?」
「何が」
「俺が伊月と付き合ったことだよ」
謙夜は返事をしなかった。スマホを見続ける謙夜に、悠人は舌打ちをして謙夜の右腕を強く引いて、やっと謙夜と目を合わせることができた。
「答えてくれよ!」
「なんだよ」
「何がそんなに嫌なんだよ。伊月と付き合うのがそんなに悪いか?そんなことでケンとは仲悪くなっちゃうのか?」
間髪入れずに口を動かす悠人に対し、何も答えずに謙夜は下唇を噛んでいる。
「そんなに同性愛が嫌いか?彼氏ができた俺はそんなに気持ち悪いのか?なあ、教えてくれよ。俺と伊月が付き合うのはそんなに嫌なのかよ……」
火照った顔で涙目になった悠人は信じていた。また謙夜と前みたいに仲良くやれると。
しかし次の謙夜の言葉に、悠人の希望は杭を打たれることとなる。
「そうだな」
「は…?」
「マジで、無理だ」
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