頂点に昇る

 護と渡のサポートのおかげで映画館でも僕と悠人くんは隣同士に座ることができた。特大サイズの塩味ポップコーンを買って二人でシェアしながら映画を観た。

 悠人くんは映画を観ながら大きくリアクションをとるわけでは無いが、綺麗なシーンや、ちょっと感動的なシーンでは「おっ」と小さく声を漏らしたり、目を見開くなどの動作が見られた。映画鑑賞中にチラチラと悠人くんのことを見ていたのだが、悠人くんはそれにも気が付かなかったらしい。

 僕らは映画館から出て再び暑い世界に放たれ、カフェに来た。涼しい店内のテーブル席に座って映画を振り返って話していた。

「さいっっっこーだったよな!」

「だな!ハルヒが覚悟を決めてサリーの武器になるシーンとかめっちゃ感動した!」

「わかるーー!悠人やっぱわかってる!」

「いやマジで最高だったよ。ケンはどうだった?」

 涼しげな赤色をした夏限定のスイカフラペチーノを吸っている謙夜くんはストローから口を離した。

「うん。面白かったよ。イワネとユウガが夜に二人で踊るシーン、音楽と映像が綺麗すぎてめちゃくちゃ感動してた」

「確かにあのシーンの曲良かったよな。ケン、今度演奏してみてよ」

「いいよ。俺もあれ吹きたい」

「え、謙夜くん楽器吹けるの?」

「ああ、言い忘れてたな。謙夜は杏西高校の吹奏楽部なんだよ」

「なんでお前が言うんだよ」

「いいじゃん」

 音楽の世界は僕にとっては未知で、何が凄いのかもわからない。だけどどうやら杏西高校の吹奏楽部はここら辺では結構有名らしくて、コンクールでも目覚ましい成績を残しているらしい。さすがは部活強化校と言うべきか。謙夜くんに対して護が珍しく質問した。

「守道は、なんの楽器をやってるんだ?」

「ケンは、ずっとユーフォニアムって楽器吹いてるんだ」

「だからなんでお前が言うんだよ。あと、ユーフォは他の子に譲ってて、今はバストロンボーンを吹いてる」

「あれ、確かにそんなこと言ってたな」

「トロンボーンってあの長い楽器だよな?」

「合ってる」

「トランペットとかと違ってボタン無いけど、調節ってあの伸び縮みするやつで全部してるの?」

「基本そうだよ。あの長い菅にも位置があって、どの音がどこで出せるとかも決まってる」

「大変なんだな」

「最初大変だったけど、慣れたら楽しい」

 護と謙夜くんはなんだか雰囲気が似ているな。護が誰かと進んで話をするのを見るのは珍しいから、ちょっと嬉しい。

 すると悠人くんが急に僕に話しかけてきた。

「伊月、マジでありがとうな今日は誘ってくれて。すげえ楽しかった」

「いや、そんなありがとうなんて。僕も楽しかったから、きてくれてありがとう」

「それに謙夜もみんなと仲良くなったみたいで嬉しいしさ、またこのメンツで遊びたいな」

「うん。いいね」

「ケン!またこの5人で遊ぼうぜ」

 謙夜くんは夏限定メニューの、濃厚メロンのチーズケーキを一口頬張り、しっかり噛んで飲み込んでから言った。

「いいな。今度はカラオケとか行きたい」

「あり!ケン歌上手いからな」

「そうなんだ!楽しみ〜」

「ユウの方が上手い」

「それはねえよ」

 カラオケか、楽しみだな。でも、次のために、あともう少し、頑張ろう。

 僕らはカフェから出て噴水のある公園で涼んでいた。近くにちょっとした出店が構えられていたため、護と渡は謙夜くんを連れて周りに行った。僕もそろそろ腹を括ろうと思う。

「悠人くん、今日ほんとに楽しかったね」

「それな。俺も久々にこんな楽しい休み過ごせたわ」

「休みは何してたの?」

「前半はずっと練習してたよ。夏の大会があるからさ」

「あー甲子園?」

「まあ、出れなかったけどな。今年も杏西が地区突破した」

「やっぱ杏西高校って部活強いんだね」

「そりゃ強いさ。あそこにいる奴らはマジで全力を注げて部活をしている。そんな奴らだから、負けて悔しいけど、嫌いには憎いとは思わないんだよな」

「そうなんだ。でも悠人くんも野球に真剣だよね?杏西でやろうとは思わなかったの?」

「うーん。そりゃあっちの方が勝てるし、野球に打ち込めるだろうけどさ、俺は勉強もとっちゃったから」

「そうなんだね」

 意気地無しだな。早く言わないと、3人が戻ってきちゃう。言わないといけないのはわかってるけど、怖い。悠人くんに恋をしてから必死で彼を目指してきた。それが今日、この後の一言で決まるってことが、とても恐ろしい。

 酷いことを言われたら?嫌われたら?拡散されたら?悠人くんはもう一年生の中でも中心にいることが多い。

 ………………、僕に釣り合うのかな?僕なんかが、悠人くんと付き合えるわけ……。

 ダメだ。やっぱり、諦めることなんてできない。どんなにネガティブな思考が僕の思考を包もうとしても、悠人くんの前だとそれは晴れる。だって、悠人くんは今まで見た人の中で一番輝いているから。そんな、憧れとは違うけど、彼に惹かれたんだ。僕は、好きなんだ。

「悠人くん、言いたいことがある」

「ん?何々」

 言え!僕は、僕は!


「悠人くんのことが好きです。僕と付き合ってください!」

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