踏み出す足はみんなで

 遠足の次の日。ゴールデンウィークの連休初日は朝から僕の家に護と渡が遊びにきていた。僕らは家も近いからよく3人でどこかの家でお泊まりをしたりしている。基本的に一緒にゲームをやったり、楽しく喋りまくっている。僕ら3人だけの時間では皆普段は隠している自分を赤裸々に見せているため、この時間は大好きだ。

「いいなぁ~、俺もC組が良かったなー。遠足でクラスの人と話くらいはしたけどさぁ、やっぱ2人いないと寂しいよー」

「渡はBだったよな。どこいったんだっけ?」

「えっとねーめっちゃ景色いい公園。海めっちゃキレイに見えるからずっと遠くの景色見てた」

「渡って本当景色見るの好きだよね」

「好き嫌いの問題じゃなくてさ~、遠くの景色を見ると眼良くなるって聞いたことあるからちょっとは眼良くしたいから見てるんだよ」

「へぇーそうなんだ。それってさ、コンタクトとかメガネつけて眺めてても効果あるの?昨日たしかコンタクトじゃなかった?外せないじゃん」

「うわー知らない知らない!」

 渡はちょっとちょっと事情があって目が悪い。学校ではコンタクトを欠かさずつけている。

 

 夜になってご飯を食べてから間も無く、僕らは近所の銭湯に行った。身体を洗い流してからお湯に浸かる。今日は特に動いたわけじゃないけど身体がほぐされる。

 3人まったりしたとこで、護が話題を持ち出してきた。

「リラックスしてることだし、今後の話でもしようと思う」

「え〜なになに?急に真面目じゃん」

 いつもの癖っ毛が濡れてペタンとしている渡がニヤニヤしながら聞いた。

「伊月の恋愛についてだ」

「はぁ!?」

「え!!」

 思わぬ言葉に僕は声をあげた。渡も驚いている。

「え!伊月好きな人できたの?C組?どんな人〜!?」

「ちょ、待って待って。渡落ち着け。護!どういうこと!?」

「どうも何も言葉の通りだろ。伊月の好きな人とのこれからについて話すんだ」

「こ、これからって……?」

 護は至って本気そうだった。だから僕もこう聞いてしまった。

「好きってだけで終わらせていいのか?」

「それは、苦しい」

「だろ?付き合いたいだろ」

「そりゃそうだよ。付き合いたいよ」

「だったら告白するしかない」

「でもっ!」

 護があまりにも無責任なことを言うから声を少し荒げてしまったが、すぐ護の声で止められた。

「ただ告白するだけじゃ無理だ。だから今から話すんだろ。短気にならないでくれ」

 あ……。

「ごめん」

「ねえねえ、2人だけで内緒はやめてよ!俺にも教えてくれよ〜!」

「わ、渡。すまん」

 ちょっと気まずい空気を渡は壊して和ませてくれた。

 渡への説明は僕からは恥ずかしいから護に任せた。

「へぇー、俺が知らない間にそんなことがあったなんて……、悠人って人と僕も話してみたいなぁ。てかこの連休中遊びに誘おうよ!みんなでボーリングとかさ!」

「え!そんな急に迷惑だよ。あとまだ友だちになって間もないし」

「え?何言ってんの伊月。友だちになったらもう気軽に遊びに誘っていいんだよ?」

「そうだな。渡の言う通りだと思う。大体一緒に遊ぶことをしないと仲も深まらないぞ?それに、俺が考えている作戦自体がそういうものなんだ」

「え、どういうこと?」

「まず、朝陽の性格上、アイツは友だちが多いだろ」

 確かに悠人くんは基本誰かと一緒にいる。男子も女子も構わず仲がいい気がする。天性の陽キャって感じだ。

「そして多分朝陽はみんなを同列に考えている。誰にでも対応は同じだ。みんな大事な友だちって感じだ」

「朝陽悠人……、めっちゃイケメンなのでは!?」

「ああ。運動もできて性格もできている。すごいやつだ。だからこそ作戦会議が必要だ。クソ加賀見かがみの時の二の舞にはしない。今回は絶対に伊月が泣かない結果にする」

 加賀見かがみきゅう。僕が小学3年生の頃、僕をふっていじめや嫌がらせ、ゲイだということを全てにバラした、僕の初恋の相手。当時は顔だけが僕の好みでうっかり好きだと言った。軽率な僕が今の僕を作ったんだと思う。加賀見はプライドだけが高く最低な男だった。思い出したくもない。

「つまりは、他のクラスメートよりも朝陽との親睦を深めるのは先だ。まずはそこから始める。そしてその後に俺らも手伝って伊月に対して意識をさせる。この作戦は何度も何度も朝陽と遊んで試行錯誤するしかない。だけど一発勝負ってことは忘れないでほしい。どうする?このままでいいのか?」

「嬉しいよ。だけどさ、もしうまくいかなかったら?せっかく中学生の頃と同じことにならないようにみんなで頑張って芽蒙に入ったってのに、また……」

「伊月、俺はお前がゲイだからって、恋愛を諦めてほしくないんだ。お願いだからあの一回で恋愛を嫌にならないで俺らを使ってでもいい、幸せになってくれよ。もう伊月のあの悲しそうな顔はみたくねえ」

 護……、確かに護は僕がいじめられて泣いてる時、そんな僕をみて悲しそうな顔をしたんじゃない。僕をみて悔しそうな表情だった。

「ていうかさ、今更だよね。もしダメでも、俺らは迷惑だって思わない。巻き込まれたなんて思わない。地獄も一緒に歩けば辛くなかったよ?」

 渡はいつだって笑顔だった。自分だって酷い悪口言われてたのに、気にしてないみたいなふりして僕らの手を引いてくれていた。

「ほんとにいいの?」

 彼らの答えは揺らぐことはなかった。

 僕は悠人くんの恋人になることを決心した。そのためにみんなと進んでいくことに決めた。




「ところでさぁ、伊月は悠人くんと付き合ったらどんなことしたいの〜?」

「普通に、デートとかかな」

「うんうん。あとは?」

「お泊まり、とか?」

「ほうほう。それでそれで?」

「え、えっと」

「お泊まりの時は熱い夜をもちろん過ごすんですよね?」

「は!?おい!」

「伊月はどっちがいいんだい?」

「ちょ、やめろよ」

「伊月、たってるぞ」

「護!?マジで……お前ら見るな!!」


 その夜、悠人のスマホには伊月からの、遊びの誘いのラインが届いた。

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