チューリップと友達と
昼の弁当タイムは悠人くんに連れられて、僕と護はB組の野球部の人たちと一緒に食べた。みんな僕らと気さくに話してくれてとても楽しかった。野球部の人たちって声大きくて、ちょっと怖いイメージが勝手にあったけど、みんなそれぞれ違う個性を持っていて、話しているうちにわかっていったからなんだかすごく楽しい食事ができた。
「はーい注目!この後はまた1時間くらい自由にしていいんだけど、チューリップの管理をしている方がもっと近くで見るのも良いし、1人1輪あげれますってことなので、希望者は手をあげてください」
クラスの女子の4、5人が手を挙げたのと、意外にも僕の隣にいた悠人くんが元気に手を挙げた。
「お前らも、お願い!俺みたいから、マジで頼む!」
野球部の石田くんと西村くん、そして僕と護も一緒に行くことになった。
クラスの女子5人と僕ら5人ちょうど男女比があったため僕らについてきたのはここのチューリップを管理しているという松永さんだった。さっきまで絵を描いていたところにもあった、”ここから先は入らないでください”のラインを越えるとなんだか胸が高まる。
実際入ってみると普通で、チューリップの香りが強くなったくらいだ。ただ、近くで観るチューリップはベンチで観るよりも鮮やかだった。ピンク色の中にも白が混ざっていたり、白には黄色があったりと感動的だった。
他の4人も各々楽しんでいた。石田くんと西村くんは2人で彼女の話とかゲームの話をしながらチューリップを眺めてるし、護はスマホで各色のチューリップを写真撮ったりしてた。そして食いつきがすごかった悠人くんはというと、松永さんと話していた。
「チューリップもらえるのって、色って俺選んでも良いですか!?」
「うん、良いよ。何色がいいんだい?」
「俺、赤がいいです」
「よしわかった」
そんなにチューリップが好きなのかな?理由はともかくチューリップを欲しがるのは可愛いっていうかギャップ萌えっていうか、いいな。
一通り花壇を見てまわったら女子たちと合流して、悠人くんお待ちかねのチューリッププレゼントの時がきた。すると悠人くんは石田くんと西村くんにこそこそと話しかけた。
「お前らさ、チューリップ別にほしいとかないだろ?」
「まあ俺は別にいいんだけど、西村は?」
「俺は、彼女にあげる」
「は!?マジかよ。せっかく花とか興味なさそうな2人連れてきて、お前らの分俺もらおうと思ったのに、3本どうしてもほしいんだよ〜」
「じゃあ俺のやるか?」
そこに割って出たのは護だった。確かに護も花には関心なさそうだったけど、自分から譲ろうとするのは初めてな気がする。
「え、護いいのか!」
「まあ、俺別に花が好きってわけじゃないし、朝陽が欲しがってたから」
「ま、マジでサンキュー。じゃあ、赤色のチューリップでお願いします。石田も」
「オッケー」
話がまとまって、1人ずつ順番に欲しい色を言って、一本ずつ包んでもらった。僕は白色のチューリップをおねがいした。そして楽しみにしていた悠人くんと、彼に頼まれた石田くんと護は赤色のチューリップをおねがいして、帰る時に1束にまとめた。
悠人くんがどうしてチューリップをそこまで欲しかったのかが気になった僕は帰りのバスの中でラインを送ってみた。
『どうしてチューリップあんなに欲しがってたの?』
『お母さんが花好きでさ、家に飾ってやったら嬉しいと思ってさ』
『すごく素敵だね』
悠人くんは多分、本当にいい人なんだと思う。誰かが喜ぶことをすすんでするなんて簡単なことじゃない。だからこそみんなそういうことができる人になりたいと思う。けど、本当にできる人っていうのは無自覚で、ちょっとした行動が人を喜ばせているんだと僕は思う。
「なあ伊月」
「どうしたの?」
「伊月さぁ、朝陽のこと好きだろ」
「うん。好き」
「…………、応援する」
「ごめんね。ありがとう」
バスの中で僕は護に悠人くんへの思いを告げた。また巻き込むことになった。申し訳なさと、悠人くんへの好きという感情が混ざって酔いそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます