寂しくないよ

 今日は5月2日。明日から学校は連休に入る。今日は待ちに待ったクラス別の遠足だ。僕と護がいる一年C組は自然豊かで、チューリップ畑がある緑丘公園という所にやってきた。

「今から2時間の自由時間にします。基本何をしてもいいけど、一般の人に迷惑をかけないように。花壇には絶対足を入れないこと。そして、あくまで今日の遠足はみなさんの親睦を深めるものなので、全力で楽しんでください!」

 僕らの担任のアズミ先生はノリがいい先生だ。1ヶ月しか経っていないけど、もうみんなの気分ののせ方を理解している。


 各自おのおの、ボールを出したり、靴を履き替えたりして遊ぶ用意をする中、僕はチューリップの咲く花壇を見渡すことができるベンチに腰をかけた。リュックサックに詰めていたスケッチブックと筆箱を取り出して、僕はチューリップ畑を見渡して、描くアングルを決めた。

「いたいた。チューリップ綺麗だな」

「うん。めっちゃ綺麗」

 鉛筆を持つ手を動かし始めて間もなく護がやってきた。

 護は僕の隣に静かに座って花壇を見た。スケッチを描く僕の邪魔しないように静かに音をたてないように座るあたり、昔とは全然違うなと思ってなんだかホッコリした。

「スケッチするって言ってたから来てみたら、伊月がやろうとしてるの風景画じゃん」

「それな。チューリップがすごいって聞いてたけど、こんな広い畑あると思ってなかった」

「確かにな。で、どうよ」

「描きがいあって楽しいよ。まだ描き始めたばっかだけど」

「ばっかちげえよ。学校生活楽しいか?って聞いてんの」

「いやわからんよ。まあ、今んとこは楽しい。2人には感謝しかないな、僕のわがままに付き合ってくれてさ」

「お互い様だろ。俺も渡も、伊月には助けられたしさ」

 僕らの関係は緻密で誰一人欠けることはあり得ないものだ。僕は護と渡にはいじめられていた時に助けてもらった。だから2人には感謝しか無くて、大切な親友だと思っている。

 同じように護もそうだ。護の小さい頃は、とても乱暴で口より先に手が出る奴だった。本当は優しい奴なのに、人との話し合いがとても下手で、噛み違って、取り返しがつかなくなってしまう。どうしようもないヤバいやつと思われた彼を僕らは必死で庇った。友達なら当たり前のことなのに、彼は僕らに感謝をした。

「何ニヤニヤしてんだよ」

「なんでもない」

「ところでさ伊月」

「ん?何」

「お前なんかあった?遠足そんなに楽しみだった?」

「え?」

「なんか、いつもより楽しそうっていうか、昨日から浮かれてる気がする」

「え!そうかなぁ?なんもないよ」

 悠人くんと土曜日にデパートで出会ってから、一日空いて昨日の月曜日で軽く挨拶する仲になったことが嬉しかった。さっきもバスに乗り込む前に、軽く話した。そんなあからさまに幸せオーラ出していたんだ。ちょっと反省。……していたら、

「めっちゃ上手じゃん」

「うわ!」

 僕のスケッチブックを覗き込む顔は薄く焼けていて、でも眩しく見える人のものだった。

 なんで、今来るんだよーー!

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