薄線をなぞって見つけた色

 高校生になってもう1ヶ月も経った。今週末はクラス別の遠足がある。僕は遠足で行く公園でスケッチを描こうと思っているから今日はデパートにスケッチブックと鉛筆を買いにきた。

「鉛筆選んでるとなんか、マジで美術部員なんだな!…………、この後本屋行こ」

 誰からも返事が来なかったことで久しぶりに1人でいることに気がついた。

 誰かと話すトーンで独り言を言ってしまったことに恥ずかしくなって暑くなっていた。すると横から不意に誰かに声をかけられた。

「香取じゃん」

 自分の苗字を急に呼ばれて心臓がギュッとなった。「わっ!」と声を出してしまったから相手も驚いている。

「わりい、驚かす気はなかったんだ。ただぶらっとしてたら学校で聴いたことある声が聴こえたから見にきてみただけで」

 必死に言い訳っぽいことを喋っているなか僕も落ち着いて話しかけてきた彼の顔を見た。背丈は僕とほぼ同じで、薄めの褐色肌でサッパリとしたショートヘアの人。学校で確かに見覚えがある。というか名前もしっかり覚えている。

朝陽悠人あさひゆうとくんだよね?」

「名前覚えてくれてるんだ。めっちゃ嬉しい」

「あ、ほら朝陽くん出席番号1番だから覚えやすくて、なんかごめん」

「いやいや謝んなくていいよ。どんな理由でもこの時期にもう名前覚えてもらえてたことが嬉しいんだよ」

 朝陽くんはなんだか自分とは違う次元に住んでいる人のようでとても眩しく見えた。

「鉛筆買うの?シャーペンじゃなくて?」

「あ、えっとねこれはスケッチ用に買おうと思ってて」

「あそっか!確か伊月美術部だもんな!」

「え、名前……」

「もしかして名前で呼ばれるの嫌だ?」

「あ、ううん!たださっきは香取って呼んでて、急に名前で呼ばれてびっくりしただけ」

「そっかそっか。俺基本名前で呼ぶ派だから、馴れ馴れしいの嫌だったら言ってな?てか伊月も俺のことは全然悠人って呼んでくれていいからさ!」

 ますます眩しく見える彼の笑顔に僕はキュンとさせられた。うっかりすると彼にはハマってしまうということをなんとなく僕は察した。でもきっとこの人は自分では自覚していない。4Bとか6Bの鉛筆を見て物珍しそうに瞳を輝かせているところもきっと彼にハマった人にとっては推せるポイントなのだろう。

「ていうか、ゆう…とくんも、よく僕の声覚えていたね。耳良いんだ?」

「そうそう。吹部の友達の演奏会とか結構行ってたりするから耳ちょっと良くなったんだよな」

「へぇ〜、あのさ……、さっきのは別に独り言言ったわけじゃなくて……、いやでも、独り言ではあるんだけど、違くて……」

 あ〜、これ以上言わない方がいいのに。インキャがバレる。

「わかってるって高校生だしまだそういうこともあるよな!」

「いや、誤解だってば!!」

「ごめんって」

 ニカっと笑う悠人くんはやっぱり眩しくて、僕とはとても合わないような人なのに、一緒に話していてとても楽しく感じる。

「そういえばこの後本屋行くんだろ?俺もついてっていい?」

「え……」

 僕はヒュッとなった。一緒に話していると楽しいし、どうせならもう少し仲良くなりたい。だけど本屋に一緒に行くとなると考えてしまう。

「あ、もしかして嫌だったか?無理強いはしないからいいよ気にしなくて」

 その言葉にあやかって一緒に行くのは断ろうと思ったが、彼の顔はシュンと、少し落ち込んだような表情をしていた。

 ………………、それはずるいよ。

 僕は言ってしまった。

「ううん。一緒に行こう」

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