1章 恋の話

1編 新しい恋

まっさらな高校生活

 芽蒙高校は偏差値62のなかなかに入るのは難しい高校だった。僕と渡と護は周りからうんと飛び出た成績では無かったから、中学校の頃はテスト期間じゃなくても、ほぼほぼ毎日勉強漬けだった。

 でも、そうでもしないと僕らはいけなかった。もしも同じ市内の学校に行っても、また同中の奴らに噂を流されて、居心地が悪くなってしまうだけだ。だから僕たちは必死になって勉強をして、テストでの点数を見せて親を説得し、わざわざ登校に朝早く起きて、電車で1時間半かかるこの高校に入った。

 僕のクラスは1年C組で護と一緒になった。渡はA組で離れてしまったが、お昼は一緒に弁当を食べて、登下校はもちろん一緒だから特に困らない。それにさすがは名門だ、クラスメートは皆頭も良く、いい人だらけだ。確証はないけど僕らはこの学校で、いい日々を過ごせそうな気がする。


「伊月、行こうぜ」

「うん。今行く」

 入学して大体1週間が経った日の放課後、僕ら3人は1枚のプリントを持って美術室に向かった。

「失礼します」

「いらっしゃーい……、え!男の子が3人!?」

 扉を開けるとボブカットの女性が迎えてくれて、他にも絵を描いていた人たちが僕たちの方へ寄ってきた。

「もしかして見学!?」

「絵描くの好きなの?」

「3人ともいらっしゃい!好きに見てって!」

「あ、あの……」

 四方から放たれる歓迎の散弾銃に自分の言葉がかき消される中、僕らの言葉を切り出してくれたのはフワッとした髪が特徴的で茶色い丸みを帯びたメガネをかけた渡だった。

「あの!俺たち美術部に入部しに来ました!!」

 瞬間、先ほどまでの騒ぎは静まった。かと思いきやそれは嵐の前兆で、彼らは感動のあまりに歓喜の声を捲し上げた。

 それに戸惑う僕らに気がついた最初歓迎してくれた女性が、手をパン!と叩いた。

「鎮まれ!」

 “スンッ”という効果音が本当に聴こえたような静まりように僕らは声も出なかった。

 そんなことはお構いなしに女性は僕らの方を向き言った。

「初めまして。芽蒙高校美術部の部長をしています。泡沫芽衣うたかためいです。現在私たちは3年生が5人、2年生が3人で活動しています。活動内容は絵画、彫刻など自らの美的センスを養うことを目的としてならなんでも行って良しとしています。つい先ほどは男子が3人も入部してくれると知ってはしゃいでしまいました。でも、本当に嬉しいです。これから私たちと一緒に頑張りましょう!」

 泡沫芽衣さん。一見華奢に見える彼女の演説はとても力強く、引力を持っているかのように僕らを惹きつけた。この瞬間、僕らは美術部に入ることを決めてよかったと思った。ここでなら僕らはきっと自分を表現していいんだ。

 中学校の頃には堪能できなかったこと……、ここでなら僕らは取り戻せる。リスタートを踏む音が護も渡もきっと聴こえたはずだ。


「よろしくお願いします!」

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