39.地元へ帰ろう
「レオっち、また適当言っとんな」
スズが頭の後ろに手を組みながら失笑している。一緒にレオの演説を聴いていたシルとマジクも同意である。
「レオに無理矢理強いてもやるわけないのにね」
天邪鬼な面もあるレオに、やれと言えばいうほどやらない。シルの言葉に二人も頷く。
「レオ、自由が好き」
自分の好きに生きている、といつも聞かされているマジクの言葉は重い。
「せやな。まあ暴れんかっただけマシちゃう?」
「あはは。確かに」
最悪、暴れて逃げ出すかなと思っていた悪い予想からは外れていただけ、結果としてはマシかなとスズは考える。
「しばらくこの国来ない?」
「せやなー。ウチとしてはもうちょい暴れ足りんかったけどしゃーないか」
「充分じゃない?」
「いやーまだまだやって」
『怪盗ルミナーレ』として、ウツノミヤで『形天』と繋がっていた貴族や商人の資産を荒らしに荒らし回った上、多くの人間の心をわしづかみにしただけではスズには足りなかったらしい。
「さてと、帰る準備しよか」
「そだね」
「うん!」
◆
さて逃げるべ、宿へダッシュだーと駆けようとした所で路地裏から手招きを受ける。
そんな怪しいお誘いを普段なら絶対受けはしないが、あの手は見間違えない。ふらふらと誘いに乗る。
「虎の旦那、来てたのか」
昼間から麦酒片手に楽しそうに壁にもたれかかっている旦那を発見。くそ、いいなー。昼から飲むのが一番旨いんだわ。
「まあな。随分愉快な演説だったじゃねえか。やりゃあ良いのに、王様。平民からの成り上がり、一生物語として語り継がれるぞ?」
「やだよ。平々凡々な生活が望みなんだよ俺」
「相変わらずだな。まあお前らしいと言えばお前らしいか」
「そういや旦那、悪いね。ちょっとここで宴会は無理だわ。今から逃げるから」
「だろうと思った。ま、俺達も仕事が入ったから仕方ねえな」
「でかい仕事か?」
「まあ……、アマチアスのアストラから救援要請来たからな。お前の義弟分みたいなもんだろ。一緒に行くか?」
アストラ。虎の旦那の下で世話になっていた時の、確かに義弟分みたいな奴。色々教わったことを教え込んだ、俺を兄と呼ぶ奴。今は俺に対抗心剥き出しになっちゃった奴。
「いやあいつも独り立ちして長いし今更ねえ。俺が行くとまーた対抗心燃やしちゃうでしょ」
「確かにそういう奴だがな。それが良い方向に向かうかも知れんぞ?」
「前会った時は碌なことにならなかったからなあ。どうかね」
「ま、気が向いたら来るといいさ」
アマチアス、ねえ。あそこも大概きな臭いからなあ。
◆
宿に戻ると既に帰る準備が終わっていた。流石みんな分かってるね。
帰りはレンタル馬車でスタコラさっさである。まあなんか盛大に見送られてしまったので逃げ出したというには派手過ぎたのだが。あの『白獅子』グッズ売れ過ぎでは? あの獅子の仮面子供達みんな付けてなかった? いやなんか『怪盗』グッズ身に付けている子もいたな。本当に商才あると思うわルーラン嬢。
キャビンに乗るとシルの膝を枕にしたマジクは早々に寝て、シルもそんなマジクに釣られて寝てしまっている。
で、御者をやってる俺の隣に座って鼻歌を歌っているのがスズ。スズのナビは正確無比なので助かる。それはそれとして。
「なあスズ」
「なんや改まって。実は王になりたかったん?」
「まさか。いやシルのことなんだけどね」
「うん?」
「シル、『聖女』の力を持ってるっぽいんだよね」
「それは……まあレオっちがあの『千年に一度の災厄』を倒せたことでわからんでもないけど」
「クルスさんと一緒に古代遺跡行ったじゃない? あの時に『聖女』しか入れない遺跡に入れちゃったんだよね」
「いままで有耶無耶やったのに確定してもうてるやん。レオっちはどうしてたん?」
「俺もなんでか入れちゃったんだけど」
「あー、シルの付与魔導掛かってたからとかなんかな。……それ他の人間に見られたりしとるん?」
「教会から派遣されてた遺跡守ってる人達には見られたかな」
「……ならシルが教会から粉かけられるかも分からんなあ」
「戻ってあいつら消すか」
「いやもう遅いと思うから無駄やね。んー、でもクルス様が立派に『聖女』しとるんやし問題ないんちゃう? 実力で言ってもクルス様以上なんてレオっちかロサリア様くらいしか考えられんし」
「いや、それがそうでもないっていうか」
「どういうこと?」
俺はチラっと後ろのキャビンを見て二人が寝ているのを再確認した。そんな俺の様子を見てスズは目を細める。
「『聖女』が『魔女』を殺す時、『聖女』も命を落とす。そう書いてある文献を遺跡内で見つけてしまったんだ」
「だって『魔女』を倒すのは『聖女』の使命って子供でも知っとる話や。絵本だってようさんあるような話や。『魔女』を倒せるのは『聖女』だけやって。なのに『魔女』を殺すと『聖女』は死ぬ……? そんなの、あんまりやんか。いや待って。シルも『聖女』の力を持っとるってなるとまさか」
「……うん。その可能性はあるんじゃないかって」
スズははっきりは言わなかったが、俺と同じ結論に達したみたいだ。
つまり『聖女』が使命を果たす時、シルも命を落とすということ。
「レオっちが見た文献みたいな、世間に出てない『聖女』に関する情報が教会内にあるっちゅーことやんな。調べる必要ある、か。教会内部を探るかー。だいぶ危ない橋渡ることになりそうやな……」
「スズ、行く時は一緒に。最悪の場合、俺が全員ぶっ飛ばせば逃げられるし」
「いやそれ教会敵に回すやん。どこの国でも生きていけんことなるで」
「ぶっちゃけね、最悪敵に回してもいいと思ってる。シルの師匠みたいに隠居生活してもいいし。そんなことよりシルの為に情報を集めたい、かな。クルスさんに『聖女』のことを聞いても大事なところは、はぐらかされそうだし」
「……はあ」
スズが大きなため息を吐いた。
「……駄目かな」
「いや、ええよ。うん。マジクもウチらと一緒ならそれで良いって言ってくれると思う。ウチかてシル大好きやし助けたいもん。だから」
少し怒った表情でスズの手が俺の額に伸びてきて軽く指で突いた。
「一人で勝手に覚悟決めんとウチにちゃんと今度から言うこと! ええな」
「うん、ごめん」
「ええよ」
そう言うスズは、ニコッと笑ってくれた。
「にしても『聖女』かー。詳しく調べようなんて思わんかったわ。身近すぎて」
「クルスさん、しょっちゅううちのパーティーハウスにいるからなあ」
「あとはシルの師匠のリィナさんかな。何か知ってそうなのは。今度シルがリィナさんの所に行く時は付いてくって話はしてるけど」
「あー、あの人な。確かに。それにこの際シルのことを聞くのも良さそうやな。後は……マジクのおじいちゃんとか?」
「そこは……最後かな。マジクが頼めば答えてくれるかも知れない。初めっからそこを頼っても答えてくれないと思う。自分達で情報を集めた後、かな。シルの命が懸かってるから頼りはするけど、順序間違ったら世界滅ぶぞ」
「せやなあ。超常過ぎるもんな存在が」
「そーいうこと」
◆
そんな話をスズとして、タオの街に戻り馬車組合にレンタル馬車を返却手続きを済ませてからパーティーハウスへ戻る。馬車とはいえ数日の移動で疲れた明日から動くかーとか考えていたら、我らのパーティーハウスの扉の前に俺達を見て手を振るクルスさんが居た。
呆れる俺とスズを尻目に笑顔で駆け寄るシルを見て、やっぱなんとかしないとなーと改めて決意するのであった。
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