38.レオ新王誕生!?

「式はいつにします?」

「……何の?」

「戴冠式です!」

「……誰の?」

「やだなー。レオさんに決まってるじゃないですか」



 城に入って、案内されて普通にマカロン姫の私室に通された俺。なんで客室とか待合室じゃないの? 俺はいい? 基準どうなってんの。でドレス姿にティアラを付けた、ザ☆お姫様みたいな格好(いやちゃんと姫なんだけど中身腐ってるっぽいし)のマカロン姫からいきなり戴冠式の話。

 頭痛い。俺偏頭痛持ちだっけ? この世界にロキソニン無いんだよ勘弁して。



「普通にマカロン姫が即位すればいいやん」

「いやいやいや、証三つ揃えちゃってますし。証人たくさん居すぎて誤魔化しようもないですし。私がやるより面白そうですし」

「おい最後本音出てるぞ。無理に決まってるだろ貴族ですらない一般人だぞ俺」

「大丈夫です。だいたい周りがなんとかしてくれます。レオさんそういうの得意そうですし」



 その通りだけど。その通りなんだけど! 反論し辛すぎて失笑。



「……ほら! その証ってやつ持ってないぞ俺!」

「私が証人として持ってますからね」



 そういってマカロン姫は首から提げたネックレスを指す。あ、それがそうなの? 全然ちゃんと見てなかったから分からんかったわ。……流石に奪って誰かに押しつけるのは無理か。



「……うん、まあなんて言われようがやらないけどね」

「国民が期待してますよ? 暴動起きるかも知れませんよ?」

「知らんし。全員ぶっ飛ばすし」



 それだけ言って給仕さんに出された紅茶を飲む。お、旨い。やっぱ良いもん使ってるんだな。いや当たり前か。給仕さんにありがとと伝えるとお勤めですからと返される。



「……王になったらそれまでの法とか権利とか無理矢理ねじ曲げちゃうぞ」

「いいんじゃないですか?」

「いや良くないだろ」

「レオさんがそういう人なので安心して任せられますね」



 駄目だこいつ何言っても聞かねえ。



「ここに入る前も何もしてないカミュぶっ飛ばしたぞ俺」

「ああ……。そうやってお互いの肉体に絆を刻み合うのがレオカミュの形なんですね……いい」

「おい」



 くそ。なんかあったら入口で問題起こしたって言って有耶無耶にしてやろうと思って、丁度コイツなら良いかって思えるカミュがいたから利用したつもりだったのに。

 カミュぶっ飛ばされ損だな可哀想に。謝らないけど。

 にしてもこいつが即位するのも、それはそれで駄目な気がしないでもない。ないけど俺が王様とかやるわけにもいかないので、ホスチェストナッツの民には腐の思考の民となってもらうしかない。ごめんなホスチェストナッツの民。俺はこの国出るんで後は知らんから宜しく。

 さっきから俺、完全にクズの思考で笑う。でも知らん。やることあるし。俺にとって大事なのは仲間だから。とりあえず『聖女』関連どうにかしなきゃいけないのに自由を奪われてたまるかっての。



「……仕方有りませんね。少し外の空気を吸いにバルコニーに出ませんか?」

「分かってくれた? いいよ」



 ふう。無駄な時間だったぜ。俺何しにここに来たんだっけ? とか思いながらマカロン姫の後ろを着いていく。



「……は?」



 何これ。バルコニーから見渡す限り、人、人、人。あれ、街中の人集まってないこれ。俺がひょっこり顔を出すと大歓声が上がる。そしてマカロン姫が横にいた衛兵に声を掛けると、その衛兵が。



「ただいまより、レオ新王の戴冠の儀を行います!」



 と声を張り上げた。それにより民衆から怒号に近い大歓声が更に上がる。

 ……嵌められた!?



「待てそんなのやらな」

「なお新王もっての希望により、戴冠の儀は省略し、民意により王位継承を決定する! 依存はあるか!」

『うおおおおおお!! レーオ! レーオ! レーオ! レーオ!』



 おいおいおいおい随分と柔軟な対応だな!? 横でしてやったわみたいな顔してるマカロン姫。お前か。やべえ人混みでどこにいるか見えないけど……魔眼発動っと。一際禍々しい魔力があるなっとシル達みっけ。おーおー呆れとる呆れとる。



「民意は確認した! これによりレオ新王の王位継承とする!」



 え、嘘でしょ。これだけで? まじで? まだあわわわわわわてる時間じゃないよね? やべ身体ぷるぷる震えてきた。



「おお……武者震いしておられるとは」



 違うよね衛兵さん。動揺してるだけなんだよ!?



「さあレオ王、民に声をお掛けください」

「え、マジで?」



 促され、というより無理矢理押し出されてバルコニーの手摺りに手を掛ける。

 更なる大歓声と俺の名を呼ぶ声。

 なるほど。完全に嵌められた。

 ……むかついてきた。さっき何やっても良いみたいに言ってたなマカロン姫。チラッとマカロン姫の顔を見て俺はニヤリと笑った。そして声を張り上げる。



「静まれ!」



 皆さんが静かになるまでに五分掛かりました。みたいな小学校の校長的な台詞を言うまでもなく、一瞬で目の前に広がる民衆は静まりかえった。



「『白獅子』は強い」



 その一言で起こる大歓声。いや俺のことじゃなくて俺『達』のことなんだけどね?



「だから星三華の証を手にした」



 歓声は止まない。



「だから王になる? ダサい。めっちゃダッッセえ!!」



 民衆に困惑と動揺が広がり始める。



「まず、だ。星三華の証を集めると王になる。そんな制度廃止にする!!」



 少しの静寂。そして怒号が上がる。「お前がその制度で王になったんだろうが!」みたいな声が多数。それはそう。一切望んでないし認めてないけど。



「ダセえって言ってんだよ!」



 その怒号を一喝する。



「強いってのはな! そういうんじゃねえんだよ! 国や王が間違った道に進んだら、その横っ面をぶん殴ってでも正せる。そういう強さが格好いいんじゃねえか! 力で権力を奪う? そんなのクッソだせえっつってんの!」



 いやお前はそれで王になってるやんみたいな空気は無視する。



「制度を廃止する責任をとって、俺は王位を前王の娘、マカロン姫に譲る! 証自体はすでにマカロン姫に渡してあるからな! 文句ある奴は俺の前にこい! 全員ぶっ飛ばしてやる!!」



 そもそも証はずっとマカロン姫の手にあるだけなんだけど。マカロン姫唖然としてるわウケる。



「その代わりじゃないけどさ。『白獅子』が必要になったら駆けつけるよ。呼べよ。答えるから。その時、獅子の瞳が燃えて嵐を巻き起こしに来てやるさ!」



 民衆は静寂に包まれたのち、嵐のような大喝采が起こった。



『かっけえええ!』『うおおおおお!』『力で正すってそういうことか!』『レーオ! レーオ! レーオ! レーオ!』



 勢いだけで誤魔化せたな。ちょっと自分でも適当に言い過ぎて何言ってるか分からなくなったな。嵐ってか荒らしだなきっと。よし、今のうちに逃げよう。どーもどーもと手をヒラヒラ振って、さっさとバルコニーから俺は逃げ出した。後ろから「あ! ちょっと!」と声が聞こえたが無視した。

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自分に自信がない最強パーティーメンバーが辞めたがる件 白石基山 @shiraishi1207

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