37.帰ってきましたウツノミヤ
道中、またホヘト坂にてシルが絡まれるかと思ったが、シルの真似をしようと崖を馬車で降ろうとした連中がこぞって大事なことになったらしい。入信したらしいから、その場にクルスさんがいれば治療してもらえただろうに。ま、当たり前に馬が言うことを聞かなかったらしい。そりゃそうだよな。どんな馬でも初見で使いこなすシルが凄すぎるというか。それも『聖女』としてのなんかなんだろうか。さっぱり分からん。
というわけで、帰り道は特にイベントもなくウツノミヤへ帰ってきた。
帰ってきたは良いのだが街の様子がおかしい。
「俺は白獅子仮面だー」
「俺も白獅子仮面だぞー」
顔にちょっと猫っぽくデフォルメされた白獅子のお面を付けた子供達。
だけでなく白い獅子の人形を抱く子、白い獅子が刺繍された白地のマントを付けた子など、街に溢れる白獅子グッズを身に付けた子供達。いや子供だけじゃなく大人までも。一体どういうことだこれは。
「私も買ってきますね」
「じゃあクルスちゃんに付いていこうっと」
「えっ」
その様子を見た二人が即座に街中へ消えていった。
うん、まあ良いけどね。こういう時はとりあえず宿に戻ってスズえもんに聞くに限る。
「ああ、あれな。ルーランがホンキ・ドーテで絶賛販売中や」
犯人はルーラン嬢だった。
「というか良いのか? ホスグルブの五龍の称号だぞ『白獅子』って。この国にもあるだろ。奪三振だか胸三寸だかってやつが」
「星三華な。三しかあっとらんわ。いや、レオっちにしては覚え取るほうか……? まあホスブルグのほうには許可もろてるんやと」
「俺の許可はいらないのこれ」
「ああ、あれ」
「あれ?」
スズが指を指した先にあるは大人一人分はあろうかというでっかい包み。なんじゃいと開けてみると、中には札束。……札束!?
「ルーランがな、とりあえずの使用料やって置いていったわ。ホスグルブのほうもきっちり筋を通せるコネもっとるみたいやしやり手やな。この国で売るのもちゃんと許可取ってるみたいやで」
「……これ多くない?」
「多分多いで。薄利多売しとるみたいやし実際利益でとらんのちゃう? でも『白獅子』グッズ目当てに客が殺到しとるみたいやし、他の商品で利益出すからいいって言うとったで。損して得とるやと。商人ってそういう考えもあるんやな」
「見て見てー。貰ったのー」
マジクが白獅子の仮面を嬉しそうに頭に付ける。
……マジクが嬉しそうならいいか。
ルーラン嬢、俺の弱点的確に付いてて笑う。とりあえずマジクの頭を撫でる。マジクがえへへと笑う。あー癒やされる。
「そうそう。国葬終わったで」
「あ、そうなんだ。じゃあ明日にでも報酬貰いに城に行こうかな」
「……報酬、王座やと思うけど?」
「は? いるわけないじゃん。てかそんな訳ないでしょ」
「『星三華』の証を揃えた者が王になるってこの国の規則あるの本当に知らんの?」
「……なんかそんなこと言ってた気もする。でもそんな馬鹿な王選びなんかしてたら国滅ぶって。ちゃんと教育受けた奴がやるべきでしょ」
「じゃ、ちゃんと断りーや(どうせ何かあったら逃げようとか思っとるんやろうな」
「了解(どうせ何かあったら逃げるだけだし平気平気)」
本当に大丈夫かなーと撫でていたマジクが呟く。大丈夫。だいたいマカロン姫生きてるんだから、あの娘が即位すればいいだけの話だし。
「そういや国葬凄かったで」
スズが手をポンっと叩いて思い出したかのように言う。
「まあそりゃ豪華な葬式でしょ」
「そうやなくて。まずセルキスの奴が途中乱入してきた」
「は? あいつ死ねばいいのに」
あいつこの国に居たの? どこにでもいるな。ゴキブリか?
「で、『ホスグルブ王国元五龍、『翠玄武』である私が国王暗殺の犯人よ!』って宣言しおってな」
「あー、……つまり両国の仲を引き裂こうっつーか戦争させようみたいな?」
「そっ」
「どーせロサリアさんがその場でぶっ飛ばして丸く収めたとかでしょ」
「でそのロサリア様が体調不良で欠席しててな」
「ロサリアさんが!?」
え。クルスさん達と居たとき元気そうに見えたけど。もしかして無理してたのか? 忙しそうだもんなロサリアさん。
「セルキスの演説聞いたレイラ様が飛び出してセルキスの頭に綺麗に回し蹴り決めて、セルキスの奴建物の壁突き破って吹っ飛んでって」
「レイラ、一発の威力だけならロサリアさん超えてるからな。普通当たらないと思ってたけど」
「それレオッちの基準がおかしいだけやから。まあぶっ飛んだセルキスはお仲間が回収したみたいなんやけど、レイラ様が『先のセルキスは、ホスグルブ王国では第一級犯罪者として指名手配されています。ですが我が国出身者がこの様な愚行に及んだこと、ホスグルブを代表して私、レイラが謹んでお詫び申し上げます』って頭下げて」
「レイラが俺様口調じゃなかっただと!?」
「で、あまりに見事なハイキックの披露にホスチェストナッツの国民が大喝采。強さを見せた美しいホスグルブの姫が正しいに違いないってことで丸く収まりましたと」
「やっぱこの国の国民性おかしくない?」
「ま、ええんちゃう? 戦争せんに越したことないやろ」
「それはそう」
確かに。余計な争いなんか無いに越したことはない。
◆
明日城へ行くと見回りをしていた衛兵に告げると、翌朝なんかめっちゃ衛兵がやってきた。仰々しいなおい。何かイベントあんの? って聞いたら俺が城へ来ると返事。俺が行くのイベントになってて笑う。
しゃーないなと重い腰を上げ行くことにしたが、何故か皆付いてきてくれない。後から行くからと言われ俺涙目。なんで一緒でええやん。え、ちゃんと自分で責任取れって別に俺なんもしてないでしょ。
という訳で城へドナドナ運ばれていく俺。
城前で馬車から降ろされてた。城門前の桟橋には兵が両サイドにズラッと並んでいた。何これ。
あ、どーもどーもと適当に挨拶しながら近づく。
城門に最も近い位置には見たことのある顔。
確か星三華だかの三人。
三人。
さんにん!?
「あれカミュなんで生きてんの!?」
「ふっ。この間ぶりだな愛しの君」
「きもっ」
「はっはっはっは。相変わらずだな。実は他のモンスター達と共にあの怪獣に取り込まれた時に『こいつキモくね?』との意見が満場一致したらしく、強制的に吐き出されたのだ! 丁度吐き出されたタイミングでレオがあの怪獣を爆散させて俺は爆風で吹き飛んで死にかけたが、『レオカミュの火は消さない』とに姫様の言葉で密かに回収され治療され「もう一回死んどけ」ぐはあっ!」
なんか喋ってる途中だったが股間を蹴り上げ黙らせる。まあシルのバフ込みの蹴りなので、そのまま城を囲むお堀にボチャンと落下したが知らん。視界から消えたので良し。
ていうかマジで帰ろうかな。これからそのマカロン姫に会うの嫌なんだけど。
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