29.VS『千年に一度の災厄』

 さてと……この『千年に一度の災厄』とかいうゴジラもどきをまたしても相手にしなければならなくなった。とにかくでけえんだよな。多分イデオ○とかダ○ターン3くらいデカい。なので普通に剣で戦ってもサイズ感でいうと爪楊枝以下というか、薄皮をちょこっと斬る程度で無意味な感じがしたので前回は素手でひたすら打撃だった。

 今回は良い武器がある。尿意棒だ。くそみたいなネーミングだが、これも電柱くらいデカいのでゴジラもどきを殴るには良い感じだ。

 よっこらせと肩に担ぐ。それだけでギャラリーからどよめきが起こる。いやこれくらいの重さ、クルスさんならお手玉出来ちゃう程度だからそんなに驚かな「レオさん?」なんでもないです心読まないで下さい。



「マジク宜しく!」

「うん!」



 マジクが何かを発動する。いや何なんだろうね本当。マジクしかり、クルスさんしかり。魔導っぽいものではあるけど魔導じゃないんだよな。系統から外れてるというか。キチンと系統化されて発動も形も決まっているはずの魔導から絶対外れてる。魔力を決まった方向に導いて発動する形じゃなくて、使い方が自由過ぎる。魔力の桁が違いすぎるからなんだろうか。その辺は分からん。クルスさんは気にせず自由に使ってるが、マジクは魔導をちゃんと使おうとして失敗する。魔力の桁が違うのはロサリアさんやシルだってそうなんだけど何が違うんだろうな。それはそうと俺だけ魔力無で笑っちゃうね。

 ともかくマジクがゴジラもどきの足下に何かを発動。魔方陣が形成されるもゴジラもどきは前回同様アンチ魔導能力があるらしく足下で相殺されている。されてはいるが、その為か完全にその場に足止めされるのだ。



「さっすがマジク! シル! この棒にもバフを!」

「うん!」



 シルにくそ棒にもバフを掛けてもらい、肩に担いだまま怪獣に向かって跳躍。殴る殴る殴る殴る殴る殴る。ひたすらラッシュ。どうでもいいが怪獣は漏らさない事が判明。俺を払い落とそうと腕や尾で振り回してくるが大振りが当たるはずもない。超スピードで唸りを挙げながら迫る尾に捕み再び跳躍、殴る殴る殴る殴る。払い落とそうと爪を立て振るわれた腕に飛び乗り腕を殴りまくってから跳躍。

 なんとなく、だけど前回より動作が遅い? それと肉質が柔らかい気がする。



「前回より弱い? まあいいや、このまま押し切る……って、ギャラリー集まりすぎでは?」



 歓声に気付いたレオが、王都の外壁を見やるといつの間にか外壁上に人だかりが出来ていた。



    ◆



「クルス、どう見る?」



 レオの爽快な殴打に盛り上がる周囲と違い、じっと観察していたロサリア、クルス、レイラの三名。ロサリアが眉を潜めてクルスに尋ねる。



「魔導無効、であるはずなのに足止めが出来ているのは単純にマジクちゃんの火力と魔力量が異常なんです」

「宮廷魔導士全員で魔導を放てば足止め出来るか?」

「その程度ではそよ風を受けた、くらいでしょうね。気にもしないでしょう」

「……私が全力で射てばどうだろう」

「瞬間火力はロサリアが上でしょうから留められるでしょうけど、マジクちゃんのように延々と放ち続けるのは厳しいでしょう?」

「少しでもその場に留めていられるなら、その間に君が処理するのは可能だろう?」

「まあ、恐らく」

「しかしそれほどのマジクの魔導でも一切のダメージは入っていないにも関わらず、レオの殴打は効果的に見える」

「ええ、……理由が分かりませんね」

「二人とも、『千年に一度の災厄』の背びれが青く光出したよ!」



 レイラが怪獣の変化を指摘する。それは教会上層部や王族のみに観覧が許される文献に記されていた変化。



「口から吐き出される消滅光線、あれが例の『災厄ビーム』か!」

「この世、生命体、魔力を全てを消滅させるという……」

(正直文献書いた人のネーミングセンス疑う)



 ロサリアとクルスの会話を邪魔しないようにレイラは心の中で突っ込んだ。クルスが胸の前で手を合わせ、ギャラリー前方に広域の防護壁を展開する。クルスの表情に少し焦りと不安の色が浮かぶ。



「クルス、大丈夫だ。レオはアレを受けて無傷だったというじゃないか」

「そう……なんだけど」



 クルスを励ますロサリアの表情も硬い。目の前の存在が発する魔力は、生命を脅かす驚異そのもの。本能が人に恐怖を感じさせるもの。遠くから観ているだけで震え上がりそうになる、そんな存在。実際ギャラリーから数名、クルスが防護壁を展開するまでの間に失神してしまっている。



「放った!」



 レオに向かって一直線に放たれる蒼白く光る破壊光線。

 レオがその光の奔流に飲み込まれる。

 時が止まったかのように、観ているもの全てが固唾も飲んで見守る。

 光の奔流が止まり、そこには確かに無事なレオの姿がある。ただし、聞いていた話とは違った。レオは左眼から出血し苦しんでいた。



「「レオ!!」」



 シルとマジクが叫ぶ。二人の声に反応し、片手で左眼を押さえ、地に膝を付いたままだが親指を立て平気だとレオが合図をする。



「レオの左眼……確か魔族の魔眼。そこだけダメージを受けた? どういうことだ? クルス、君はどう……クルス? どうしたんだ!?」



 呆然自失といった様子のクルスは答えない。

 あり得ない光景だと思った。

 レオの身体にとって異物である左眼のみにダメージが入った、というのは恐らくレオにも何らかの秘密があるのだろう。


 そんな事はどうでもいい。


 あの光の奔流に飲み込まれてなお、レオに掛かっているシルの魔力が消えていないのだ。


 肉体も魔力も消滅するはずの光に飲まれたのにも関わらず。


 『千年に一度の災厄』に対抗出来る魔力は、唯一『聖女』の持つ魔力のみのはずだ。


 だから。


 シルさんの魔力は。


 常識外れで桁違いのあの『付与魔道』は。

  

 唯一であったはずの『聖女』の力も帯びているということになる。


 私は。


 『聖女』として死ぬ運命を背負わされた。


 だから少しの自由が許されて生きてきた。


 そしてレオと出会い、死ぬのが少し怖くなってしまった。


 なのに。


 この世に一人のはずの、この力を持つ貴女は。


 何故。


 私が生きたい理由と思ってしまった隣に立っているの?


 こんなのってない。


 もしかしたら、少し何かが違えば私とシルさんの立場逆だった可能性もあるんじゃないか。


 ……駄目だ。考えてはいけない。『聖女』として死ぬのは私だ。そんなこと、絶対考えてはいけない。私が『聖女』だ。この世を救う、そして死ぬ。その為に生きてきたんだ。


 でも。


 ああ。


 駄目だ。


 嫉妬してしまう。


 だって、こんなの残酷過ぎる。



    ◆



「いったたた……」



 ぐぬぬ。あの光線、前回はノーダメだったのに左眼だけ超痛かったな。目蓋閉じたら痛くなくなったけど。クルスさん回復してくれないかなーチラッ。ん? なんか様子おかしい? ……まあロサリアさんおるから平気やろ。

 さてと。シルとマジクが不安そうに見てるから平気アピールしてっと。



「またか!」



 背びれ尾びれが再び輝く。



「大技連発は余裕ない証拠……ってそっちはマズい!」



 ゴジラもどきは俺をチラっと見て笑った気がした。そして身体を都市に向けた。おいおいおいそっちに放たれると王都壊滅するって! 俺に執着してんじゃねえのか! 外壁上のギャラリーから悲鳴が上がる。やべえ、クルスさんその防護壁あっちにも展開……は無理そうか。くそ、間に合うか。光る尾に飛び乗り脚に力を込め弾丸の如く駆け上がる。背びれが力強く発光すると同時に跳ぶ。

 口を開き光が放たれる、直前。顎を上に蹴り上げ、光が宙に放たれる。一際大きな歓声がそこら中から上がった。



「閉じとけ!」



 上を向いた下顎にクソ棒を全力で突き刺す。顎が閉じられ、口に中で光が爆発する。その様子を見ながら百メートルくらい落下して着地。これで脚が痺れすらしない。

 ゴジラもどきの脚を抱きかかえる。ゆっくりと、持ち上げる! 最近夢に出てきていた変身ヒーロー的な感じで決めてやる!



「いい加減……消えろ! きりもみシュートオオオオオ!!」



 力任せに捻りながら巨体を宙に放り投げる。なおライ○ーとは違い投げるだけで爆散はしない。

 なので! 跳ぶ! くるくると回りながら跳ぶゴジラもどきに向け身体を反転させ脚を突き出す!



「ライ○ーキイイイイイイック!!!」



 突き出した蹴りがゴジラもどきを貫通する!

 そしてゴジラもどきはその貫通した穴からひび割れ俺を巻き込み空中で爆発。え、ちょ。爆発するとか聞いてな、前回はそんな事なかったあああああ……!!



    ◆



「あの巨体を持ち上げた! クルス以上の怪力!」



 レイラがわざとそう叫んでクルスをチラっと見たが、クルスは相変わらず反応しない。どうやら本当に駄目らしい。兄ロサリアから後は頼むと目で合図された。うん、大事な仕事があるのは分かるけどね。そういうとこだと思う。いや私と仕事どっちが大事なのとかクルスは絶対言わないけど。レオの蹴りで『千年に一度の災厄』が爆発したのを確認し、盛り上がる周囲をよそにロサリアが消えた。



「はいはい、任されたよ」



 ロサリアが消えてもなお呆然自失のままのクルスのおっきな胸をレイラはツンツンと突いてみる。「……へ?」と間の抜けた声を出したクルスがようやく我に返った。



「あ、あの……何を……駄目です! みだりに触っては!」

「そんなエッチな格好してる上に、お姉さん振る癖に意外とウブなんだよねえ。自分から迫るのは平気なのに」

「だって、そういうのはもっとこう! 駄目なんです!」



 顔を真っ赤にして抗議するクルスを見て、とりあえず大丈夫かとレイラは思った。



「っていうか爆発ってなんでだろう。確か文献でも前回のレオの時の報告でもゆっくり消滅したって話だったけど……」



 爆発に派手に巻き込まれてたな、とは思ったがレオだし大丈夫かとも思った。案の定、爆発の中から飛び出したレオがクルクルと前転しながら落下、右膝と左手を地に着き右手を水平に広げながら華麗に着地した。

 イーノキ教側からも、王都側からもこの日一番の歓声が上がる。



「やっぱ俺の旦那が一番なんだよなあ」

「貴女のではありませんけど?」



 クルスから突っ込みが入り、ようやくらしくなってきたなとレイラは笑うのであった。



    ◆




「うーん、レオの身体とあの『付与魔道』、二つセットで『聖女』同様の力って感じかな? でもなんか違う気もするなあ」



 いつの間にかギャラリーで埋め尽くされた外壁上から観ていた元『翠玄武』セルキスがぶつぶつと呟く。



「最後に爆発したのは召喚が不完全で蓄積されたダメージのせいで内部魔力に器が耐えられなくなったところにあの一撃で限界突破、爆発したってとこかな。うん、今後の参考になるね」

「今後? アンタ逃げられると思ってんの?」



 腕を組みながら言うスズの言葉をセルキスは鼻で笑う。



「勿論。貴女たち二人とも戦闘力皆無じゃない」

「だから私が来た」

「なっ」



 セルキスの背後、外壁の手摺りの上に立つロサリアが立っていた。


「いつの間に!?」

「ウチがここにおるの、ロサリア様にアンタの場所伝える為やし?」

「この程度の外壁なら跳躍で登れるからね」

「ちっ化け物か」

「いやレオのほうがよっぽどな戦いっぷりだったけどね。さて、大人しく捕まるとは思っていない。覚悟してもらおうか」

「あはは、これはまずい……なんちゃってね!」



 セルキスは腰のベルトに付けた試験管を抜きロサリアに投げつけた。ロサリアはその試験管を剣で切り払うも、その隙にセルキスがルーランの襟首を掴んで外壁上からルーランを放り投げた。



「きゃああああああ!」



 ロサリアは迷わず外壁上から飛びルーランを掴んで抱え込み着地し、そのまま跳躍し再び外壁上に着地したがすでにセルキスは姿を消していた。



「すまん、逃げられてもうた」



 スズは申し訳なさそうに言う。



「いや、君のせいじゃない。スズは私の頼みを忠実に守ってくれた。全て私の落ち度だ」



 そう言って割った試験管から出た液体を被ってしまっていたロサリアは、液体を袖で拭いながら外壁上をロサリアが見渡す。ギャラリーで覆われた外壁上はいまだ歓声が鳴り止まない。



「これだけの人だかりでは追うのは難しいな」

「せやな。ま、ひとまずの狙いは分かったしそれを止めれば炙り出せるんちゃう?」

「セルキスの目的?」

「そ、戦争やって。ホスグルブとホスチェストナッツの」

「……そういうことか! やってくれる」



 ロサリアはスズの話を聞いて思わず外壁の手摺りを叩いた。



「それなら心配ないかと」



 ルーランが二人の話に割って入る。



「君は確か、ルドラン殿の娘の……」

「はい、ルーランです。ロサリア様。確かにあの元『翠玄武』がこの国の王族殺しに加担していたとしても、問題には……多少はなるかも知れませんが、ホスグルブが、とまで大きくはならないでしょう」

「何故そう思う?」

「それほど、レオがこの国で初めて『証』を全て集めた。正統に王位継承権を得たという行為は、この国の国民にとって大きな意味を持つからです。更にその王位継承権を持つ者は、今『千年に一度の災厄』から民を救った英雄となったんです。しかもその様子を国民は目撃しているんです」

「レオが立てば全ては解決する、と?」

「……レオっち、絶対継承権放棄すると思うで?」

「ええ、レオはそうでしょうね」

「ならどうして大丈夫だと?」

「混乱しているうちに私がこの国の経済を握ります。切磋琢磨、共存共栄。この国で商売をするにあたって私はそう思っていましたが、あの女に煽られたからと私から全てを奪おうとしたのであれば、この国の商会は私の敵です。潰しますので経済戦争は起こりません。私が手中に収めます。そう決めました」



 ニコリと可憐に笑うルーランに、ロサリアはこのルーランもまた傑物なのだと認識した。そしてロサリアはレオの周りには良くもまあこう言った人間が集まるものだと関心するのだった。

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