28.VSキメラカミュ、からの……
「おうおう、地面に沢山クレーターが出来てきたなっと!」
轟音と共に地面が陥没する。振り下ろされる尿意棒とかいう頭のおかしな武器、されど強度はバツグンな武器をヒョイヒョイっと避けながら考える。
別に戦闘中に漏らすとかどうでもいい。一発受ける事で隙が出来るなら、そのまま相手の懐に潜り込んで本気の一撃を打ち込めば終わる気はする。するんだけどね。
あの右腕と左腕が気になる。
細かい事は分からないが、右腕から発する魔力は炎、左腕から漏れ出す魔力は氷。
あれそのまま炎や氷の上級魔導撃ち出せるんじゃないだろうか。俺の右眼はそれぞれの腕に魔力が既に溜まっているのを見通せている。
潜り込んだらそのまま魔導撃ち込まれそうだよなあ。もしくはあのゴーレムのような身体で押しつぶしにくるか。いやそれはまったく問題か。
正直な話、地面にクレーターが出来る尿意棒による一撃も、あの魔力から考えられる炎や氷の魔導も、質量に任せた巨体による押しつぶしも全て、大したダメージにはならない範囲なんだよな。
シルのバフのぶっ壊れ具合を舐めてはいけないのだ。
大体の実力は見てて分かった。強いと思う。でも『蒼麒麟』レイラでも多分勝てる、かな? それくらいの強さ。
後、試したいことを試すには丁度良い強さ。
俺のパリィが実はパリィではないとマジク母は言っていた。なら、多少型を崩しても弾く事が出来るって事だよね?
振り下ろされる尿意棒。構えない。剣も納める。スキルは、そのスキルに必要な一定の構えを取らないと発動しないのも関わらずだ。
高速で迫る尿意棒を、当たる直前に半歩だけ身体を反らしながら尿意棒へ向け剣を抜く。
「ここ!」
尿意棒、ええい。言ってて馬鹿らしいなこの名前は! 振り下ろされたでっかい棍棒が俺の剣の腹を滑る。そのまま相手の力と勢いの方向を変え上にかち上げる!
「ぐっ!」
「出来た!」
経験と勘は完璧だな! これしか練習も実戦も使ってこなかったからな! 泣けるわ。
カミュの両の腕が棍棒と共に頭の上まで振り上げられた。隙だらけ。
「隙だらけとでも思ったか!」
右の二の腕から吹き出される炎。いや出る所おかしいやろうがい! まあ普通に避けるんですが。ひょいっと避けながら一気に近づく。
「くそがあ!」
そして左手首から吹き出る猛吹雪。いやそれも出てくる場所おかしいが? んでもってそれも読めてたのでぴょんっと避けながら接近。
近づいた所でやけくそか、巨体で俺を押しつぶす為か倒れ込んできた。
脚に力を溜める。
屈む。
飛ぶ!
ピッコロ大魔王を貫いた悟空の如く拳でカミュのゴーレム体を貫く!
「昔のほうが強かったぜお前」
「あああ……があああ」
呻きながら身体が崩れた? そして漏れ出す魔力。……キメラってこういう死に方するの? ともかく大事だというなんとかの証が地面に落ちていたので拾ってポイっとマカロン姫に投げる。
そして別に頼んではいないのに長くここまでの道のりを付き合っていたギャラリーが歓声を上げた。
◆
「あーあ、見せ場もなく負けちゃった。洗脳解かれたのは初めてだったわ」
「……軽いのね、貴女」
「別にいいもの。前座だし」
「貴女一体何がしたいのよ」
ルーランの問いかけに元『翠玄武』セルキスはクスリと笑う。
「そうねえ。教えてあげる。まず私は元『翠玄武』。ホスグルブが誇る元『五龍』」
「……へえ」
「そしてホスチェストナッツの大臣を唆してこの国の王族を殺したのも私。ホスグルブ有数の商人の娘である貴女から、貴女の財産をこの国の貴族や商人達が奪うように纏めたのも私」
「貴女ねえ!」
「さて、しばらくは次の新王誕生やらでこの国はバタバタと忙しいでしょう。落ち着いた頃にふと思うでしょうね。『元『五龍』とは言ったが直前までは『翠玄武』として国に仕えていた。本当はホスグルブが王族殺しに関与していたのでは? ホスチェストナッツを乗っ取ろうとしていたのではないか?』ってね。そしてもう一つ。貴女の件、既に貴女の父は知っているわ。ホスグルブの商人達はプンプンよ」
「貴女の狙いってもしかして」
「あら、分かるの?」
「……両国の商会を争わせ、経済戦争になった所でホスグルブに疑念を抱かせたホスチェストナッツの国民を焚き付け一気に戦争へって感じかしら」
「せいかーい! やっぱり賢いわね! 貴女! だからね、私がやったという事実! それだけあれば後はどうでもいいのよ。証拠はたくさん残してきたし」
「ゲスなのね、貴女」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ。ほら、第二ラウンドが始まるわよ」
◆
「レオ、大丈夫──」
「シル、まだだ! 離れて!」
駆け寄ってこようとしたシルを制する。カミュの身体から漏れ出した魔力と血が魔方陣となり赤い光を放ち始める。嫌な予感しかしない。
「皆、もっと離れて!」
魔方陣にカミュの身体が生け贄にされたかのように飲み込まれる。
そして現れる。
「おいおい、『千年に一度の災厄』、数年ぶりの登場って嘘だろ。スパンどうなってんの」
忘れもしない大怪獣の如き巨体。カミュの五倍はある背丈。『千年に一度の災厄』。高い外壁を遙かに超える『千年に一度の災厄』の出現に、都市内部からもざわめきと悲鳴が多く上がり出す。
まずい。
前は確かに倒せた。
でもギャラリーを守りながらは無理。マジクがいないので足止めも出来ない超ハードモードなんだが。
「レオさん!」
クルスさん! クルスさんがいるじゃないか! いっちょやっちゃってくださいよ!
「こっちは私が防護壁を張るので安心して戦って下さい!」
……違う、そうじゃないんだよなあ。
【レオオオオオオオ!!! 俺と結婚しろおおおおおお!!!】
『千年に一度の災厄』が吠える。いや嘘だろお前カミュの意識あるってマジかよ。
◆
「あはははは! なんか混ざっちゃったけど成功よ!」
「う、嘘……」
「『千年に一度の災厄』と呼ばれた巨大モンスターの召喚。ああ、これで私は『災厄の魔女』に近づいたわ。この世を混沌に落とす『災厄の魔女』に!」
「なんや面白そうな話しとるやん」
「ええ、ええこれが面白くないはずがないじゃない! 歴代最高と呼ばれる『聖女』と対になるはずの『災厄の魔女』は未だに世界に現れない。なら私がなるの! その資格の一つは得たはずよ!」
「ほほー。結局、戦争よりそっちが目的って事なんやな?」
「そうよ! ……って貴女、スズ!? 貴女いつから!?」
「やっほー、セルキス久しぶりやん。ん、二人が外壁に上がった所から気配消してつけてたの気付かんかったん?」
「ちっ……。って事は」
「ウチらと一緒に『黄龍』も『蒼麒麟』も一緒や」
「そう」
「なんや反応薄いな」
「別に? 『黄龍』ロサリア様は強いわよ。『蒼麒麟』レイラ様もね。でも『千年に一度の災厄』は別。本当なら『聖女』以外には倒せないはずの存在」
「……でもレオっちは倒したで?」
「だからなんで倒せたか、これから観るのよ。『聖女』クルス様がアレを目の前にして静観してるのも同じ理由だと思うわよ? 事情を知る誰もが思うもの。何故『白獅子』は『千年に一度の災厄』を倒せたのかってね」
◆
「レオ!」
この声はロサリアさん! 振り返るとロサリアさんがクルスさんの横にいつの間にか立っていた。後、金髪の清楚な……誰? どっかのお姫様?
「こっちは任せろ!」
いや違うよねロサリアさん。ヒーローやるなら貴方の仕事だと思うんですよ俺は。
「わ、私は援護するよ! 頑張って!」
「マジク!」
これまたいつの間にかシルの横に立っていたマジクが叫んだ。
あはは、マジクに応援されちゃやるしかないよね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます