30.入りましたウツノミヤ
あの怪獣、爆発するなんて聞いてないが?
空中で爆風に煽られて姿勢を崩したものの、なんとかなれー精神で前転し見事スーパーヒーローっぽい着地に成功しました。ウツノミヤまで付いてきたギャラリーも、外壁上に集まった野次馬達も大喝采である。
いや凄いのシルの付与魔道だからその喝采は向けてシルに向けてあげてどーぞ。
「レオ!」
シルが心配そうな顔つきでタッタッタッと小走りに駆け寄ってきた。どしたん?
「右眼、大丈夫?」
「まあ、多分?」
と言いながら右眼付近を拭うと袖に血が。出血していたようだ。道理で激痛な訳。
「あああ……、ごめんなさいごめんなさい! 私が未熟だからレオが怪我しちゃった……」
「いやいやいや!? シルがいなかったらそもそも戦えてないが!?」
「私が半端だったからレオが戦って怪我を……」
「そうじゃないよね!? アレとなんでか俺が戦ってたけど、そもそも国一つ滅ぼすやつらしいから、アレと戦ってこの程度のダメージで勝てるだけの力を俺程度に与えてくれるシルが凄いんだよ!?」
「でもでも……」
まずい。シルがへこみモードに入ってしまった。誰か!
そうだマジク……は空中に向けて怒りの表情で土の塊を連続で射出してる……? 何故に? ……ああ、マジク母も観に来てたのか。でマジクが気付いて殺意剥き出しになってると。マジク母は空中にて笑顔でマジクの攻撃を避けて、マジクのイライラが止まらないようだ。マジクは「うー!」と唸りをあげる。可愛い。
まあ、マジク母。絶対にマジクに手は出さないから放っておくか。本当に娘をたまに観に来てるだけなんだよな。経緯も口も悪いからあの仲はなかなかどうしようもないが。
で、マジクと一緒に来てるはずのスズは……どこ? うちのパーティーの常識枠ツッコミ枠その他諸々を一手に引き受けるスズはどこに? あ、外壁の上にロサリアさんとルーラン嬢と一緒にいるわ。なんか深刻な話してそうな雰囲気。
「レオさん」
クルスさん! ……は今じゃない! 今はややこしくなりそうだからやめギュッ。……ギュッ? え、なんで抱きついてんのクルスさん、え、何その顔。
笑顔だけど獰猛。覚悟決めましたみたいな、絶対に譲らないみたいな顔。ちょ、嫌な予感がする。おおおおおお!? このくそゴリラ、シルの付与切れてないのに力が強過ぎて抱きつき、というかベアハッグを離せないんだが!? どうせ思考読んでんだろ離せこr。顔近い近い近い。まてまてまてマズいマズいマズい。『聖女』が公の場っていうかこんだけの人の前でキスはあかんてほんまに。
「あら、喜んでくれないんですか?」
「ただ口と口がくっつくだけだろ、離せ!」
「ただくっつくだけ、なら別にいいのでは?」
俺の筋肉がギチギチと悲鳴を上げる。全力で振りほどこうとしてるのに完全にホールドされてて解けない。くそどんな筋力してんだっての!
「あらひどい。でも周りはそう思わないみたいですけど?」
ギャラリーがなんか盛り上がってる。いやもうほんと勘弁して。シル、助け落ち込み過ぎて地面に突っ伏してるだと!? マジクは……気付いてない! スズは呆れてないで助けて! 外壁上のロサリアさん口閉じて! イケメンが崩れてますよ!
「クルス、そこまでよ」
貴女はクルスさんの隣にいた謎の金髪清楚美女さん! ……誰?
「レオさんの右眼の怪我を治してあげただけですよ」
「……貴女の奇跡は接吻しないと起きないものだったかしら?」
「そういう日もあるかも?」
「貴女ねえ」
「はいはい、分かりましたよー」
金髪清楚美女さんの説得によりようやくクルスさんのベアハッグから解放された。助かった。未遂で終わった。クルスさん右眼の治療、ありがとうって言わないからね!
で、誰? ショート金髪、蒼眼で青いドレスが良く似合う。うん、知り合いにはいねえな。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「……レオ、何その口調?」
「いやだって初めまして……だよね?」
俺がそう言うと、金髪清楚美女さんはニコッと笑って近づき、俺の腕を抓る。痛い痛い痛い!?
「俺が分からないって?」
「は? ……レイラ!? 嘘だあ!?」
「いや髪色戻しただけなのになんで分からないんだよ」
「口調も態度も違いすぎる」
「どっちもわた……俺なの!」
そうか。そういうことか。コイツ……にじゅ
「二重人格とかじゃないから」
「あ、はい」
なんか心読める系女子多くない?
◆
周囲の盛り上がりをよそに付いてきていたギャラリーに解散しろと言ってようやく俺達はウツノミヤに入った。スズやマジクも合流して『白獅子』フルメンバーである。クルスさんは教会に用事があるらしい。ロサリアさんとレイラもクルスさんと一緒に別行動だ。ロサリアさんがクルスさんに挙動不審だったのが気になる。何があったのだろうか。
行方不明(途中から俺と一緒にいる事は判明してたらしい)の姫が帰ってきたという事でマカロン姫は衛兵に連れられて王城に帰った。俺達も一緒にと言われたが、疲れてるから明日昼くらいに城に行くから勘弁してと言って断った。このまま城に行かずに帰りたい。
さて宿どうすっかなと思ったらめちゃくちゃうちに泊まってくれと勧誘された。というか街に入ってから、あの怪獣倒したの観られてたからか、ずっとなんらかの勧誘やらが止まらない。
だんだん面倒臭さが加速してきたなと思っていたらなんとルーラン嬢が宿を手配してくれた。
かなり良い宿を貸し切りで、しかもタダで良いと。
流石に胡散臭いかと思ったが、条件として『白獅子』御用達と名乗らせて欲しいと言われた。
それだけで良いの? それくらいなら全然良いよと言うと、ルーラン嬢はその宿の権利をその場で買い取った。どういうこと?
そして夕食。ギョーザ食べたいと思っていたらこれまたルーラン嬢が良い店を紹介してくれた。これがかなり旨かった。しかもまた、『白獅子』行きつけの店と名乗らせてくれたらタダで良いと。そんだけで良いの? 全然良いんだけどと言うとまたもルーラン嬢はその場でその店を買い取った。ルーラン嬢、恐ろしい娘。見てみろシルはぽかーんと訳分からないって表情してるぞ。スズは……なんか納得してるな。何を納得してんだろう。マジクは美味しそうに食べてる可愛い。
「それはそうと……」
店の外を窓から眺める。人人人、人だかりである。キャーキャーうるさい。
「良かったやん、モテモテやでレオっち」
「なんも良くないが?」
そう、追っかけ、みたいな人達が凄い。しかも女性が多い。俺目当てらしい。なんで?
「なんで? とか思っとるやろ。なんでもなんもない。この国で今一番強いのがレオっち。この国は強さこそ正義みたいなとこあるしな」
「いかれてる」
「そういう価値観なんやからしゃーないやん」
パクパクとギョーザを食べながらスズは言う。というか女性二人に子供まで連れてる俺になんで何処までもくっついてくるのか本当に分からん。というか「私と子供作って」とかほざいたやつ、それこそマジクみたいな子の前で言うことじゃないよね? 倫理観どうなってんの。
「モテモテ……」
「モテモテー」
「二人も揶揄うのやめてね?」
「……ま、ウチ的にあんま面白くはないかな」
「スズ?」
スズの様子が不穏である。スズ、落ち着こう。ね?
「ウチは冷静やで?」
そういうスズの手には狐の面が握られていた。え、何するつもり?
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