27.VSキメラカミュ

 ウツノミヤに滞在して数日。


 起床し、ふと扉を見ると、扉の下に封筒が差し込まれていた。

 開封すると「昼前までに正門側外壁上へ」と短い文章。

 おそらくレオとあのモンスターがウツノミヤを囲う外壁外で戦うのを一緒に見学する、という事なのだろう。正直な話、持ち逃げすると思っていた。名義の書き換えは魔力を込めた血印があるので本人でないと容易ではない、というか普通は出来ないがあんな複数のモンスターを合成した化け物を作り上げるくらいだからそれくらい出来そうなものだが、意外と律儀なんだなと妙に感心した。



「さてと」



 私は気合いを入れて化粧台へ向かう。

 だってそうでしょう?

 綺麗な私を見て欲しい人に会えるのだから。




 ウツノミヤの高い外壁上に向かう階段を上ると翠色髪の仮面の女が待っていた。仮面、付けてないけど。



「ごきげんよう。逃げずに来たのね」


 私を待っていた翠色髪の女は綺麗なカーテシーをしながら私を迎えた。

 ……まったくもってこの女の行動が分からない。


「ごきげんよう。逃げても無駄って言ったのは貴女でしょう」

「ふふ、それはそうね」

「レオが勝ったら権利書、忘れないでよね」

「ああ、これ?」



 翠色髪の女は胸元から権利書を引っ張り出す。だからそんな所に仕舞うなと。品の無い女。



「はい」

「え?」



 翠色髪の女はあっさりと私に権利書を投げ渡した。



「……どういうつもり?」

「アレが『白獅子』に勝てる訳ないじゃない」

「なら尚更どういうつもりなの」

「アレ自体は自信作よ? 『白獅子』やら『黄龍』じゃなきゃ勝てると思うくらいにはね」

「……訳が分からないわ。もしそれが本当なら『白獅子』相手じゃなくて他の五龍とか有名な冒険者とか相手にすればいいじゃない。それにこの権利書をあっさり手放したのも」

「それを返したのは私が貴女を気に入ったからってだけよ。だいたい私はそんなものに興味無いもの。ああ、純粋に盗み出しただけだから別に貴女の所に誰かが潜り込んでいるって訳じゃないから安心していいわよ」

「信じられると思う?」

「まさか。信じるほど馬鹿じゃないと思ってるわ」

「そう」

「ま、何故相手を『白獅子』にしたのかっていうのは見ていれば多分分かるわ。上手くいけば世界をひっくり返す奇跡を起こした上で私の知りたかった事が分かるの。楽しみで仕方ないわ」

「……貴女、狂人?」

「理解出来ない人から見ればね。あーそうそう、貴女が賭けに勝ったらって景品だけど」

「あら、誤魔化すのかと思ったけど何をくれるのかしら?」

「面白い真実とかどう?」

「……何の、かは分からないけど興味はあるわね」



   ◆



「なんだあれ」


 思えばここまで長かったような短かったような。ようやく着いたぜウツノミヤと思ったら、都を囲う外壁の正門前に陣取る4階建ての建物くらい、二十メートルくらい背丈のありそうな大型モンスター。手にも背丈の半分くらいありそうな巨大な棍棒。いや大木か?


 うん。


 いやなんでモンスターが陣取ってるんだろうとかも思うけど。

 身体のパーツがそれぞれ違うキメラモンスターなのも、一度見たから何故ここにいるのかとは思うけども。


 頭にくっ付いてるのが見覚えある顔なのはなんだ。「グルルルル……」とか唸ってるけど何。あ、目が合った。



「!?」 



 俺と目が合った途端あの巨大キメラが苦しみだした。うん、全然意味分からんけどとりあえず。



「みんな下がって、俺の相手らしい」



 一応、周りに声は掛けた。が、既に俺以外下がって見学モードである。いや別にクルスさんが瞬殺してくれても構わないんだけど。



「レオさん! 首に『星三華』の証のペンダントを身に付けてます! 最後の証です!」



 マカロン姫がそう教えてくれた。ならばあれは本当にカミュなのだろうか。

 気持ち悪い奴だったけどあんな姿になっちまって……。



「オ、オレに洗脳なぞ効くかあああああああ!!」



 巨大キメラは突然叫んだ。首に浮かんでいた黒いアザがはじけて消えた。



「レオオオオオオオオオ!!!」



 荒い息遣いで興奮しながら巨大キメラがオレに叫ぶ。



「お、おう?」

「オレと結婚しろおおおおおお!!!」



 ……うん、こいつカミュだ間違いねえ。



「……普通に嫌だが?」

「何故だ! オレが男だからか!」

「お前がカミュだからだよ」



 相変わらず気持ち悪いなこいつ。



「オレは襲われた! 気が付いたらこんな身体にされた! 洗脳された! だが! お前を見ただけで洗脳が解けた! 愛だ! これを愛と言わず何という!!!」

「いやそうはならんやろ」

「なっているから言っている! ならばお前を倒して美味しく頂く!」

「!?」



 カミュがいきなり棍棒を振り下ろした。大地が揺れる。おいおい質量が洒落になってねえぞ。



「ちなみにこの棍棒はな、ニョウイ棒とか言うらしい」

「……ニョイ棒?」



 如意棒? でっかくなったりちっちゃくなったりするの? おいおいそんなとんでも武器西遊記だけにしとけよって。



「違う。尿意棒だ。これで殴られると失禁するという」



 ……馬鹿なの? 作った奴本物の馬鹿なの?



 ◆



「……あんた馬鹿なの?」

「あら、アレも自信作なんだけど」

「ふざけてるとしか思えない」

「えー、アレ凄いのよ? 体外からの衝撃で他人の生理現象をコントロール出来る画期的な発明よ?」

「その画期的な発明を戦いに持ち出すのが馬鹿だって言ってるんだけど?」

「そう? 誰だって人前で漏らしたくないでしょ?」

「騎士やこの国の闘士の決闘ならそうでしょうね」

「あら、『白獅子』は違うとでも?」

「あの人は勝つ為ならそれくらい問題にしないと思うわ。他人からの評価だって、そもそもどうでもいいと思っている人だしね」



 ルーランは表情を変えずにそう言った。そんなルーランを見て元『翠玄武』セルキスは漏らす『白獅子』は余興としては面白いと思ったんだけどミスったかなーと天を見上げながら考えていた。

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