追3-1.マジク加入時回想
砂漠で一人、乾いた風を浴びていた。
しんりゅーじーちゃんに世界を見て来なさいと言われたは良いものの、何処に行って何をすればいいかわからない。しんりゅーじーちゃんを慕う赤いドラゴンに人の領土のほうまで送ってもらい適当な所で赤いドラゴンの背から飛び降りたはいいものの。降りる場所が悪過ぎた。
砂しかない。
見渡す限り砂。
暑い。
涼む場所が欲しかった。しんりゅーじーちゃんが何処からか集めていた本で読んだ城というものを砂で作ってみた。うん。とりあえず住める。
食事はどうしようかな。大気から魔力を集めて吸収すれば食事は取らなくても大丈夫なんだけど、出来れば美味しいもの食べたいな。
そんな感じでなんとなく数日その場で過ごしていた。
ここはモンスターも多い。こちらを見て逃げるモンスターもいれば生物がいるというだけで反応し襲ってくるモンスターもいる。いちいち対処するのも面倒なので作った城に触れた相手を突き刺す機能を追加。殺したモンスターの死骸を大きなモンスターが食べていた。こちらに来ない限り放置。
そのうち私に形が近い四肢を持つ二足歩行の生物が来るようになった。おそらく人間だ。
観察。
人間はあまり強くない? いや個体差が大きいようだ。やってきた人間はいくつかのモンスターを倒してもあの大きなモンスターの罠に掛かってしまっている。観察の邪魔なので大きなモンスターを砂に沈め圧殺。
そして来たのがレオとクルスさん。
私の姿を見て明らかな敵意を見せたクルスさん。その時は何故か分からなかった。対照的に私と対話しようとしたのがレオ。
クルスさんは強い。この世界で出会った人間の中ではっきり強いと思ったのはロサリアさんとクルスさんの二人。二人は人間の枠を超えていると思う。しんりゅーじーちゃんが言うにはこういう人間が現れる時は逆に……今はその話は良いか。
レオ。
弱いけど強い人。
能力的には間違いなく弱いほうの人。でも何故か強い人。私のお兄ちゃんになると言ってくれた人。
この世界の人間は魔族を嫌う。それを知ったのはレオと共に街に入ってから。クルスさんが初めは私を敵視したのも同じ理由。昔、人と魔族は戦争をしたらしい。それも魔族側の一方的な理由で。強い魔力を持つ魔族はひどい事をしたようだ。それが未だに魔族が嫌われている理由。
私の長耳を見るだけで私に聞こえるように罵声が飛ぶ。私が何かしただろうか。私は人間の敵なんだろうか。敵なら倒さなきゃいけないのかな。
悲しさと苦しさと……少しの嫌悪。
レオが私に謝った。レオは何も悪くないのに。
だから私は我慢した。きっと私が人間を傷付けたらレオが悲しむから。
レオと話して、私は外では外套を纏いフードを被る事になった。私はもちろん受け入れた。私に罵声が飛ぶとレオが傷付くから。
私がしんりゅーじーちゃんに会いに戻ると言うとレオが付いてくると言った。しんりゅーじーちゃんが住んでいる場所は神域という場所でしんりゅーじーちゃんの許可、もしくは私の許可が無いと入るどころか認識が出来ない場所だが、私がレオを断る理由は無かった。
そしてしんりゅーじーちゃんとレオが会った。
レオの足は少し震えていた。仕方ない。しんりゅーじーちゃんはデカい。とにかくデカい。さらに神気で威圧したから、むしろ普通の人間でしかないレオが耐えたのが奇跡。私はしんりゅーじーちゃんを睨んだ。それに気付いたしんりゅーじーちゃんは少し笑った。
その後だ。
なんとレオがしんりゅーじーちゃんを怒鳴った。私の為に怒った。レオより強い私の為に、私より遥かに強いじーちゃんに怒った。あんな場所で一人で可哀想とか言ってた気がする。うん、あの場所に一人で居たのは本当に偶然でじーちゃん関係無かったんだけどね。
少し呆気に取られた後、じーちゃんは爆笑した。こんなに腹の底から笑ったのはいつ振りか分からないと言った。
じーちゃんが褒美をやろうかと言った。
『力』が欲しいのなら『勇者』にしてやろうかと言った。
じーちゃんがレオを試したのだ。私は本気で怒りそうになった。
じーちゃんから聞いた話、世界の根幹にあるシステムと呼ばれるものが二つ。一つが『災厄と聖女』、もう一つが『勇者と魔王』。
じーちゃん曰く、特殊な生まれながら『魔王』として生まれたらしいのが私。ただし覚醒というものをしていないので、まだ、ただの人間と魔族のハーフ。『勇者』が覚醒すれば強制的に私は『魔王』に目覚める。もしくは私が『魔王』に目覚めれば強制的に『勇者』は覚醒するらしい。すでに世界の『災厄』に発生の予兆があり、歴代最高の『聖女』が覚醒しているように。
じーちゃんは、世界に飽きたらしく私が『魔王』として動くのなら私の味方になってくれると言った。つまりレオが『勇者』になってしまったら私とじーちゃんの敵になる。
嫌だ。絶対に嫌だ。私の敵意に気付いているのにじーちゃんは無視した。私が声を上げる前にレオは言った。
「いらん」
「何故だ? 心の底から欲しているのだろう? 何故か己の身に一切身に付かぬスキルや力を」
「なんだか分からんがマジクを悲しませる奴の話なんか聞く訳あるか!」
じーちゃんの言葉には『魅了』や『誘惑』といった力が乗っていた。でもレオはそんな理由でその力を弾き飛ばした。
だから私はレオの前に立った。
私はレオを守ろうとこの時に決めた。
そんな私達を見て、じーちゃんはまた笑った。神気を霧散させて、いつものじーちゃんに戻って笑ってくれた。レオに私を頼むと言って本当に力をあげようとしていたけど、レオは普通に断った。
そんなやり取りの後くらいに、レオが家を買った。宿暮らしでは他人とどうしても接触があるからだ。
レオと暮らし始めてすぐ、スズがやって来た。
私を見ても嫌な視線も感情も無かった二人目の人。スズが私のお姉ちゃんになってくれた。人間の家族が出来た。
楽しかった。本当に楽しかった。
三人でパーティーを組んだ。レオが『獅子』と名付けたパーティー。
レオの前だとどうしても張り切っちゃって失敗してしまう。恥ずかしい。パーティーを抜けて家で待ってようかなって良く考えてしまう。モンスター相手とか、小規模かつ低火力に魔導を使うのはとても難しい。というか人の枠に合わせて魔導を使うのが本当に難しい。でもレオとスズに何かあったら嫌だから付いて行く。辞めたくなる時もあるけど、もしもの時に二人を守る為。加減をしなければ大体の事はどうとでもなると思う。
三人でしばらくパーティーを組んでいたら、レオがシルを連れて来た。
スズも凄い人だった。でもスズは戦えない。私も加減が上手く無いからあまり戦えない。
戦いは基本的にレオ頼み。けどシルが来た。シル自身は戦えない。でもシルがいるとレオが凄く強くなった。シルの付与魔導は、レオに特効があるかのようにレオにだけバフの上昇効果が高かった。
そしてシルも凄く良い人。私の二人目のお姉ちゃん。
スズも、シルも、私も、育ての親は居ても家族はいない。スズに関しては孤児院の子供達皆のお姉ちゃんでもあるけど。レオも家族はもう亡くなってる。私達は皆家族になった。
シルが加わって『獅子』は『白獅子』の称号を与えられた。レオは凄く嫌がっていた。
そんな私達『白獅子』を見たしんりゅーじーちゃんは、私に言った。
「奇跡の産物だな。世界のバグか」
「バグ?」
「レオだけでも、シルだけでも成り立たない。スズも一人では活躍の場は広げられない。『魔王』覚醒も、レオが止めた。一人では大した力も持たぬ人間なのに。まだまだ世界は面白い」
私に家族が出来て皆が好きになった事は、私が『魔王』に覚醒する事を止めたらしい。
もう一つ言うのであればレオは『勇者』の覚醒も止めている。
『黄龍』ロサリアとの一騎討ちで引き分けた事で、『黄龍』が超越した人間にならず人の枠に留まったらしい。あの人が今代の『勇者』になる人だったようだ。道理で強い訳。
『勇者』か『魔王』が生まれ、戦乱の世になる。そんな世の中は誰も知らない所でレオが既に救っていた。レオに言っても多分「へぇー」くらいで流されそうだけど。
私はシルが好き。
スズが好き。
レオが大好き。
だから私は皆といるし皆を守ろうと思う。
……たまに自分が嫌になって家にずっといようかなと思ってしまうのは許して欲しい。
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