4.奇跡の聖女がパーティーを辞めたがってる……のは俺関係なくない?

「レオさん、私も今度『五龍』の一角になるんですよ」

「はあ、おめでとうございます」



 レオさんはさほど興味がなさそうに私に祝辞を送ります。いえ、本当に興味が無いのでしょう。その様子に私は思わずクスリと笑ってしまいました。『五龍』に興味がない、というのは私が知る限り、この世界でレオさんくらいなものです。マジクさんですらレオさんが『五龍』となった事で興味を持ちましたからね。



「来月、『朱天狐』を与えられます。これでレオさんと並びますね」

「いや、俺とクルスさんは羽虫とオーク程の差があると思いますけど」

「私を羽虫なんて言うのレオさんくらいです」

「いやどう考えてもオークでしょ。俺どころか素の力は『黄龍』よりヤバい怪力……」

「沈めますよ?」

「ごめんなさい」



 レオさんは軽口を叩きます。私に対してそんな風に接してくれるのはレオさんくらいなものです。それが心地良い、と私は思います。ふふ、幼馴染の『黄龍』ロサリアに話す事がまた出来ちゃいますね。私がいつもレオさんの事を話すのをロサリアも良く聞いてくれますからね。


 ……怪力は余計ですけど。ちょっと力が人より強いだけです。……多分ロサリアも私相手だと手加減してくれてるのだと思います。きっとそうです。ロサリアも自己強化すれば私より全然力はありますし、レオさんだってシルさんの強化があればロサリアより強いです。


 シルさんの付与魔導。あれは、うん。特殊過ぎますね。何度か見て理解はしました。シルさんに魔導を教えた人は少しおかしい人です。人によってはまったく効果が出ない、ある意味レオさん専用魔導ですからね。いえ初めからそうでは無かったようですがそう変化してしまったというべきか。


 どちらにしろ私には使えません。多分私はどこかで心が折れそうな気がします。レオさんと一緒だから成り立っているというか。羨ましいです。




「ところで私、今のパーティーを辞めようと思ってるんですよね」

「へー」

「私がパーティーに入れば『五龍』が二人ですね」

「シルがいるので間に合ってます。大丈夫です。安心して他のパーティーを探してどうぞ」



 レオさんは相変わらずつれません。冷たいです。嘘です冷たくありません。私は知っています。レオさんの弱さも強さもあり得ない心の在り方も。


 レオさん個人の力というのは、出会った時は失礼な言い方をすれば『凡人』の中では強い、一般ギルドの中では『中の中』と行った所でした。いえ、そうですね。その域まで行っているのも不思議なくらい才能には欠けていました。ただ一つ、『眼』が良かったようですね。身体能力の無さとスキルの無さを『眼』の良さでカバーしてそこまで強くなっていたようです。


 見聞の旅で訪れた街のギルドでは信用出来る前衛として彼を紹介されました。『実力が信頼出来る』ではなく『人となりが信用出来る』というギルドにしては珍しい紹介でした。


 ええ、それは正しかったと思います。粗野な方も多く、私に、その……変な視線を向けてくる方も多い中でレオさんは違いましたから。気遣いが出来ない訳ではなく、むしろ気安いというか、一緒にいて気が楽になる空気を作るのが上手な方でした。


 驚いたのは、初めから私に全幅の信頼を預けてくれたという事でしょうか。いくらギルドから紹介されて私の話を聞いているとはいえ、いきなり自身の命を私にポンっと預けてくるような真似をするなんて。いえいくら気心が知れていても普通は不可能だと思います。それは幼馴染のロサリアだってそうですから。


「じゃあ俺が前に突っ込むから死んだら宜しく」

「え、あの……! ちょっと!」


「うええ……痛え……」

「当たり前です! 傷は治せても痛いに決まってます!」


 うん、初めて組んでこれはおかしいですね。モンスターパレードに巻き込まれたのは偶然でしたが、普通は見ず知らずの人間の為に命は懸けません。逃げます。それは当たり前な事だと思います。レオさんは『話を聞いた感じイケると思った』とおっしゃいましたが、話を聞いただけで実行するのもおかしいです。ええ、おかしな事だらけですね。



「そういえばロサリアがまた試合をしたいと言っていましたよ」

「敗北でいいのでお断りします。え、いやシルの付与魔導のお陰だったって誠心誠意伝えたはずなんだけど」

「『それも含めて君の力だ』ってロサリアも言っていたでしょう? 力も使えなければ意味を持たないものですよ。むしろ色々感心していましたよ」

「使えるようになったと思う度に、シルがパワーアップしてまた振り回されるんだよなあ」

「……そうですか。また魔導の力が上がっているんですか」

「そうなんですよ……って痛い!? なんで!? つねらないで!? そのオークみたいの力でつねらないで!? 千切れちゃう!!」

「千切れたらくっつけてあげましょうね」

「怖すぎるんですけど!?」





〜〜その後〜〜


「あの……レオ、クルスさんがパーティーに入るって私、もういらないの?」

「断ったから! シルがいれば他に白魔導師なんていらないから!」





〜〜おまけの日常〜〜


「〜〜♪」

「マジクちゃん楽しそうですね」

「可愛い」

「ほんま可愛いわ」



 久しぶりに四人揃っての任務である。トンボ的な虫が先についた紐を握り、ルンルンで鼻歌を歌いながら先頭のスズの横にいるマジク可愛い。


 『白獅子』にくる依頼というのはそもそも数が多いわけではない。ぶっちゃけた話、ギルドが設定している単価が高いからだ。ギルド内最高ランクで『五龍』のパーティーだからと単価もバカ高い。なので必然、依頼主は貴族や豪族、商人ばかりになるから面白くない。


 なので今回の任務の内容は、『うちの街の祭りの為にでっかいシンボルツリーを街の中心に植えて、街中の子供達みんなで飾り付けをやろうぜ』作戦の為に、巨木を取りに森に来ているのである。依頼主は俺。理由は楽しそうだから。もちろんギルドや我らが街タオの領主の許可は取ってある。みんな快く引き受けてくれた。感謝。

 クリスマスツリーやりたいだけなんですけどね!



「向こうやな!」



 案内人はもちろんスズである。別に森に詳しい訳ではない。スズのスキル『鷹の目』で地形を俯瞰して確認、マーキングして案内してくれている。本当は周囲100mくらいを俯瞰するスキルらしいが、スズの話を聞くに王国内くらいなら俯瞰出来るらしい。マーキングまで可能で他のスキルと併用化。Google MAPやんけ。いやGoogleEarthか? どっちにしろ凄い。予め森で一番でっかい木をスキルで探してくれていたスズに感謝。



「大きい……」



 モンスターにも出会わず、実に平和な散歩を楽しみたどり着いた巨木の元。マジクが呟いた通りデカい。例えるなら屋久島の縄文杉って所か。いや生前に屋久島行った事ないから適当に言ってるけど。あれ樹齢2000年とか3000年とかだっけか? ……まあこの世界の樹木とかめっちゃ丈夫そうだから引っこ抜いて植え替えても大丈夫……だよね? 森林保護とかいう概念存在しないから何にも言われないとは思うけど。



「じゃあシル、バフお願い」

「もう掛けてますよ」

「さすが仕事が速いね」



 よっこいせっと。地鳴りを響かせ巨木を引き抜く。うん、軽い。片手で持てそう。バランス崩したくないから背中で持つけど。一歩脚を踏み出すとドシーンという轟音と震度2くらいの振動が大地に響く。やり過ぎワロタ。今更引けないので街中までこのまま縄文杉(仮)を背中に背負って歩く。マジクとスズはいつの間にか木の先端に、スズがマジクを抱えるように座っている。実に平和である。尚、木がデカすぎて街の外壁から門の中に入らなくて郊外に植える事になり適度な大きさの木を取りに行き直しました。なんか英雄の樹とか言われて街のシンボルになったらしいです。

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