5.王国最強聖騎士が俺にめっちゃ興味があるらしいんだけどもしかして
同性愛者なの? なんて嘘である。多分ロサリアさんから見ると珍獣である俺に興味があるのだろう。
王家の八男として生まれたロサリアさんは幼い頃に宰相閣下の元へ養子に出されている。簡単に言うと政治の駒。そして宰相家では継承権も持たされていない。王位継承権は八番手で、この国の武の最高峰という事で有力視されていた事もあったようだが、本人の要望で放棄したようだ。政略結婚が嫌だった説とかあるが、この辺は面倒だし詳しくもないので置いておく。
王家であれ宰相家であれ、貴族の中の上澄みであるロサリアさんは俺みたいな平民は珍しいのだろう。まああくまで珍しいってだけだと思うけど。王国騎士団も多くは貴族で構成されている。平民にもその門は開かれてはいるが、余程の実力が無ければ入団は出来ない。つまり少数は平民もいるのだ。
そんなロサリアさんがなった王国騎士団団長というものは、コネや名声で成れるものではない。王国騎士団団長は五龍の中でも最高位と言われる『黄龍』となる事が決まっているので、王国騎士団は貴族然としていると見せかけて中身は超が付く実力主義である。過去には平民出の『黄龍』だっているくらいにはね。
「ゼェー……ゼェー……」
「素晴らしい。付与魔導が無くても王国騎士団でもやっていけるよ」
「ゼェー……手加減……されて……これかよ……」
今現在、どうしても試合がしたいというので二度と俺に興味を持たないでくれよという意思を込めて一人で出向いてバフ無しでボッコボコにされた所である。聖剣技一度も使わない舐めプされてて笑う。
「戦士系下位スキルを中位相当まで威力を引き上げる。並の努力で出来る事ではないよ。スキルの威力が変質する事がそもそも珍しいのに尊敬に値する」
「……それしか……覚えられなかったんだよ……くそ……」
「確かに、スキルも身体能力自体も特筆すべき所は無い」
「……はっきり言うねえ」
「だが失礼な言い方に聞こえるかも知れないが、君は所謂天啓を与えられなかった、『凡人』と言われる人達の中で最も強いのではないかと私は思う。君の剣技、動き、全てに君が出来る限りの努力を重ねてきた軌跡が見えたよ」
この世界にはスキルがある。戦士スキルを極めると戦士の上位スキルを……と繰り返すこの世界に置いて、戦士系最高位である聖騎士スキルを極めているロサリアさんはマジもんの天才である。もちろん、スキルの一部は覚えずともその上の位に上がる事もあるが
なんとなく、自分が持っているスキルが分かる人間もいれば、一生分からずに過ごす人間もいる。下位、中位、上位、最高位と分類され下位のみしか習得出来ない者は所謂『凡人』、上位以上を習得出来る者が『天才』と称される。つまり俺は天から『凡人』認定されたのである。
「よくそこまで鍛えたものだ。それにその見極める『眼』だ。経験を重ねて素晴らしい域にいる。普通ならそれを使いこなすには余程の能力が必要だと思うが、良き仲間を持ったものだ」
「……王国騎士団でもやれるって? 新人騎士くらいか?」
「まさか。君は仲間の力抜きの能力だけでも小隊員はこなせるさ」
「……それ新人騎士と変わらなくない?」
「入ったばかりとこなせるでは雲泥の差だよ。私も一番下からの叩き上げだから良く分かっているつもりさ」
ロサリアさんは生まれて俺との御前試合まで生涯無敗だった。まあ引き分け扱いだから無敗なのは変わらないんだけど。ロサリアさんは恵まれた天啓に驕る事も無く努力を続けた男である。そして俺程度を褒めるほど、出来た男でもある。しかも今の試合だってロサリアさんの個人邸にて完全に人払いを済ませた上での気遣いの男でもある。
「はあー……。やっぱロサリアさんすげえわ」
「私が君と同じだったとして、私は君ほどの努力を重ねる自信がない。私は君を尊敬するよ。うちの団員はきっと私と同じ感想を抱くだろう。スキルの変質というのは並の努力で得られるものではないことは皆知っているからね」
「いや逆に俺がロサリアさんと同じ天啓を貰えてたら、俺ロサリアさんみたいに研鑽を重ねれねえわ。ロサリアさんはどうしてそこまで努力出来たんだ?」
「……生まれつき『天啓』を授けられていると宣言された幼馴染がいてね。特別扱いされて育てられたその娘に格好つけたかったんだ。格好つけて、その娘に並んで示すことで君は一人じゃないって伝えたかったんだ」
「え、何それエピソードまでイケメン……」
「だが私はやりかたを間違えたらしい。……結局、彼女を一人にしてしまっていた事に気付かなかった。格好の悪い話さ」
なるほどなぁ。ロサリアさんがお見合いの話を断りまくってるってクルスさんも言ってたが、貴族の結婚なんて所謂政略結婚が主のはずで、相手次第で思い通りに立場を優位に固める事が出来るだろうになんでだろうとは思ってはいたが、その幼馴染が好きなのか。純愛じゃんか。
「でもロサリアさんはそれに気付いたんだろう? その幼馴染にはもう良い人がいるのか?」
「……想い人はいるようだね」
「なら大丈夫だよ。ロサリアさんなら大丈夫! 顔も良い! 性格も良い! 王国騎士団長! 『黄龍』! 欠点なんて無いじゃない」
「そうだといいんだけどね」
ロサリアさんは困ったように笑う。
「いやロサリアさんで無理ならこの世の男じゃ無理じゃない?」
「そうだね。もしかしたら、この世の男じゃないのかも知れない」
「え……何それこわ……」
「冗談だよ。本当になんとなく、そう思った事もあるってだけさ」
「もしくは相手が好きなのが実は同性だとか?」
「いやそれは無いかな。その相手も私は知っているし」
「じゃ、じゃあ幼馴染の前でその相手と試合して格好良い所を見せつけるってのは?」
「彼女の為に力を身に付けたのは間違いないんだけどね。それを誇示する事で靡くような娘じゃないんだ」
「あー……やっぱロサリアさんが惚れてるだけあって、そういう感じじゃないんだな。だからこそロサリアさんが惚れたって事か」
「……この話はこの辺りにしよう。それよりギルドでの任務の話とか聞かせてくれないか? 君の話は私には新鮮でね」
「俺達にとってはその辺に転がってるような話なんだけどそれでも?」
「ああ、構わないよ。美味しい酒も用意してある」
「ありがたいけど高級酒は合わない気がするんだよなあ……」
「ふふ、この前君と抜け出して行ったあの酒場のお酒さ。あの酒場と同じツマミもある」
「あーあれか! あれは美味かったもんな! でも安酒だぜ?」
「高くても安くても、美味しいものは美味しい。君から学んだ事の一つさ」
ロサリアさん……本当幸せになって欲しい。
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