18.ディスカウントショップ『ホンキ・ドーテ』

「とりあえず街に着いたらランさん用の着替えが簡単な服買うか」

「必要ですよね」

「服ですか……?」

「ドレスは目立つし旅だと邪魔になるし、それに……ランさんって一人で着替えられる?」

「え、着替えを一人で、ですか?」

「やっぱそのレベルだよな……。地位を用意とか言い出したからただのお嬢様じゃないとは思ったけど。ちなみに先に言っとくけどシルを召使い扱いしたら放り出すからね」

「し、しませんよそんな事。着替えを一人で……。なんだかワクワクしますね!」

「……シル、出来るだけ簡単そうな服選んであげてね」

「そうですね……」



 近くの街に辿り着き、最近増えているというこの街でも開店したばかりのディスカウントショップ、ホンキ・ドーテにシルとランさんが服を買いに向かったので俺は適当に宿を取りに行った。

 ディスカウントショップって発想、この世界に存在しなかったよな?



「久しぶりね!」



 宿に向かっていると、俺の前に立ちはだかる仁王立ちの女性。誰だっけ。あーあの、あれだ。ルドランのおっさんの娘っ子だ。えーと……確か……



「ルドラン二世!」

「違うわよ! 違わなくもないけど違うわ!」

「うそうそ、ローズマリーとかだっけ?」

「カスリもしてないわ! ルーランよ!」

「ああ……覚えてる……よ?」

「なんで疑問形なのよ! ほんとむかつくわね!」



 何故怒っているのだろうか。こっちとしてはあんたの親父さんから邪魔な像を家に送りつけられている事に怒りたいくらいなんだけど。



「んでルーラン嬢は何故ここに?」

「ふふん、私の店、ホンキ・ドーテのホーチェストナッツ一号店の開店記念だもの!」

「……え、ホンキ・ドーテってルーラン嬢の店なの?」

「そうよ! 色々な物を一つのお店で安く買える! そんなお店を作りたかったの!」



 ルドランのオッサンが娘は商才があるとか言ってた気がするけどガチやんけ。異世界ドンキ無双し始めてるぞこの娘。



「ルーラン嬢、ただの引きこもりじゃなかったんだな。マジで凄いよ。尊敬するわ」

「……何よ、急に。私の事嫌いなんでしょ」

「引きこもって見た目だけ気にしてるお嬢様には一切興味無いって言ったけど、今のルーラン嬢は本当に凄いと思うよ」

「じゃあ私と結婚!」

「する訳ないんだよなあ……。常識を身に付けてどうぞ。っていうか俺じゃなくても選び放題だろ。性格は知らんが見てくれは良くて金も持ってるんだから。そんなに結婚したいのなら適当に選んでこい」

「……これだから何も覚えてない英雄様は」

「え?」

「ふん、いい? 絶対振り向かせてやるんだから!」



 ぷんすか怒りながらルーラン嬢は俺の前から去っていった。いや俺なんかした? 分からん。っていうかもしかして髪染めた意味ゼロ過ぎ? 即バレしたんだが?


 考えても仕方ないのでとりあえず宿を取った。シルとランさんも宿で合流し、ランさんは簡素なワンピースに着替えていた。

 夕食を宿で食べながら、ランさんに攫われた時の状況やらを聞く。いや聞いて何が分かる訳でもないとは思うけど一応ね? こういう考えるのはスズに基本的に任せていたから苦手である。



「ある街で行われる式典に参加した時の事でした。屋敷内であの一団に襲われまして、私の護衛に付いていた方々も犠牲に……」

「ふむ……」

「あいつら二十人くらい居たけど一斉にその屋敷の中に?」

「いえ、私が見たのは五、六名でした」

「ふーん、絶対手引きした奴いるじゃんかそれ」

「そんな!? 私の屋敷の中に裏切り者がいたと!?」

「で、どんな感じで攫われたって?」

「大広間の扉を開けていただき、中に入った所で急にあの一団の人に捕まってしまって……、振り返ると護衛の方々も既にやられていまして……」

「なるほどね……」

「リオン、何か分かるの?」

「まあ、護衛って人達がグルだったんだろうなあとか」

「まさか!?」

「ていうかさあ、この国今ゴタゴタしてるって話だけチョロっと聞いてはいるんだけどさ」

「……はい」

「そんな国でレディファーストが当然って思って、行動誤るくらい平和ボケしてるお嬢様な訳でしょ?」

「……どういう事でしょうか?」



 レディファーストっていうけど、有事の際に先に部屋に入れるなんて弾除け目的でしかない。先に入れて安全を確認してから入るって事。使用人がいるならせめて、扉を開けさせて先に入れて扉の横で礼でもさせてから入るべきなんじゃ。ていうか護衛を先に入れろ。いつも通り扉開けてもらってその場で礼をしてくれたので入りましたーなんてマジで平和ボケだと思うけど。とは思うが言っても仕方ないし説教臭すぎるな……。っていうかこれくらいなら冒険者長い俺でも分かるんだが。



「……まぁ、ちゃんと護衛の教育したほうが良いと思うわ」

「う……」

「……と申し訳ない。別に平和ならそれでいいんだけどね」

「いえ、……ですが私の護衛の方々がグル、というのは?」

「いや戦ってみた感じ、数人で騎士クラスの集団を音も立たずに瞬殺するレベルの強さとは思えなかったから倒されたフリをしてただけだろうなって」

「そんな……」

「リオン、ランさん本当にウツノミヤに送り届けて大丈夫かな? 身内に敵がいる状況なんじゃないかな」

「ですが私には帰らなければならない理由が……」

「理由、ねえ……」



 これは思ったよりも面倒そう。……最悪教会にでも放り込めばええか。ランさんの敵(?)がなんなのかも理由も分からんし、深く関わりたくないから聞かないけど教会内で暴れるイコール教団を敵に回すだからな。流石に世界最大の宗教を敵に回す程の勢力はおらんやろ。そんな事したら国中で内乱起こるレベルだし。どうにもならなそうだったら……ホスグルブ王国にある教団本部にクルスさん宛のお荷物ですっつって届けよう。なんとかなるだろ。聖女の威光はマジでどの国だろうが関係ないからな。どの国でも会っただけで泣く人が出てくる。普段ホスグルブにいるから他国なら尚の事。本性ゴリラなんて誰も知らねえんだ。



「ま、なんとかなるだろ」

「なるの?」

「なるのですか!?」

「なるなる、多分」



 知らんけど。と、この時のくっそテキトーな判断をやはり後々後悔する事になるのであった。

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