15.サン・ブリジビフォア祭③
クルスとの会話を終えたレイラが、久しぶりに王城へ帰った。その脚のまま、長兄レミアハートのいる執務室へ向かい祭の最中に考えた自分の意見を話した。
「だからレオを一回上に置いちゃえば良いと思うの! どうです……だ!」
「……はあ」
「そんなに大きなため息付きますかレミアハート兄様」
「久しぶりに顔を見せたと思ったら……レイラ、次期王はロサリアが既定路線だ」
「それは分かってるけどさ」
「……まあ代案の代案の代案の代案くらいには考えても良い案ではある。かなり詰めが甘いが」
「つまり……状況次第で採用って事!」
「他の王位継承権を持つ兄弟は納得しないだろうがな。自分こそと主張する者だっているのは分かっているだろう」
「それこそ……あの兄達は状況次第で『寿命』か『病死』になっちゃうんでしょ。それくらいわた……俺だって分かる」
「レイラ、口調が統一出来ていないぞ。その俺口調、向いてないみたいだから辞めたらどうだ? どうせクルスらの前だと保ててないのだろう」
「ぐぬぬ……」
「確かにアレらは母が違うとは言え血を分けた弟達だ。が、私利私欲が強過ぎる。王位は預けられん」
「どんな理由でもロサリア兄様はそれを許さないと思うけど」
「……政治は私の仕事だよ。恨まれるのもね」
「難儀だねーレミアハート兄様は」
「そう言うなら王城で私の仕事を手伝えレイラ」
「無理無理、俺『蒼麒麟』。脳筋女拳闘士。政治分からない。だから城から離れる。……てな訳で私はこれでー!」
「待てレイラ! ……まったく」
スタコラサッサーとレオが呟いていた謎の言葉を発しながらレイラはレミアハートの静止も聞かず退室した。と同時に柱の影から『翠玄武』セルキスが顔を出した。
「レイラ様は相変わらずですね」
「そうだな、と帰ったかセルキス。『白獅子』はどうだった」
『翠玄武』セルキスは無言で両手を上げた。
「恩を売るどころか、実力差を見せつけられた感じですね。絶対敵に回したくないです。『白獅子』が潰した『四罪』残党の拠点の一つ、英林亭の後掃除は命じてきましたよ。もうちょっと残党が集まるの待ってたんですが、集まる前に事を起こされたら仕方ないですね」
「そうか」
「『白獅子』怒らせちゃ駄目、私は心に誓います。敵認定されたら話なんて聞いて貰えなくなりますよ。アレは敵に殺意が高すぎる。あ、コレ見ます? 英林亭に偶然仕掛けていた私の研究室試作品、映像記憶水晶の映像。冒険者でいうと上位に位置付けされそうな連中が虐殺される映像ですよ。ああいった場所での荒事慣れすぎでしょ。戦う場所選ばなければ騎士団にも勝つんじゃないですか?」
「確認しておこう」
「懐に入れば身内にはゲキ甘なんでしょうけどねー。明確な敵に対して一切容赦が無い。元は冒険者としても実力が無かったところから這い上がっただけはありますね。元々強者であるロサリア様なんかとは真逆の性質というか」
「ロサリアも敵に一切の容赦は無いよ。ただ話を聞く余裕があるか無いかだろうさ」
「そうですかねえ」
「一つ聞きたいのだが」
「なんでしょう」
「「『白獅子』は付与魔導師がいないと弱い。仲間がいないと無能」という噂が裏で流れているようだな」
「それは大変ですねえ。ま、仲間の有能さを認められたいらしい『白獅子』としては別に良いのではないですか?」
「……敵対したくはないんだな?」
「敵として認識されたくないですねー。では私はそろそろアレの研究に戻りたいのですがー」
「……分かった。下がれ」
「はーい」
「……まったく。どうしたものかな」
王都ブリジビフォアを照らしていた夕陽が沈んだ。宿で血を流して着替えたレオとシルに、スズとマジクが合流し全員でシルを慰めながら出店を回る事になった。
「ほらシル、箸巻きだぞー」
「シル、わたあめ美味しいよー?」
「シル、リンゴ飴あっちにあるで」
「ううん、そんなに食べられないから」
「ほらほらー好きなもん食うとええでー。レオっちの奢りや」
「じゃ、じゃあリンゴ飴一つ……」
「よーしじゃああの特大レインボーリンゴ五重の塔飴を買ってやろう!」
「無理無理無理、無理です!」
「ねぇスズ、レインボーリンゴってあの神聖樹の?」
「着色しとるだけやろ。ほんまもんはマジクのお爺さんが守っとるんやから取れる人間なんておらんよ。マジクは食べた事あるん?」
「うん、一つだけ。美味しくなかったよ。スズも食べたい?」
「美味しくないならいらんかなあ。ウチ、美味しいリンゴのほうがええわ」
「私も!」
出店を覗きながら、ゆっくりと練り歩く。周りの喧騒もこの日ばかりは気持ちが良い。マジクですらフードは深く被りながらも楽しそうである。
「あら、レインボーリンゴって美味しくないんですね」
「あの教団本部の大神殿の壁画に描かれてる神聖樹って実在するのか。やっぱ世の中広いな」
「あれ、クルス様とレイラ様やん。なんでこんなとこおるん?」
「ほんとだー、こんばんはー!」
「はいこんばんは、マジクさん」
「はいシル、ダブルゲーミング特大レインボーリンゴ五重の塔飴レボリューション! アレ二人共何してんの?」
「えええなんでこれ光ってるですかぁ……ってクルス様にレイラさん、お二人も祭を楽しんでるんですね」
「そ、たまには城以外からでも花火見たいじゃん?」
「私も教会に籠るのはあまり性に合わないと言いますか」
「おや、皆んなここに居たのか」
「あれ、ロサリアさんまで。皆んな物好きだね。城も教会も、花火眺めるには特等席だと思うけどねえ」
「お? なら王城に来るか」
「いえいえ、教会でも良いと思いますよ」
「ちょ」
レオの両腕にクルスとレイラが抱き付いた。「「「はっ?」」」シル、スズ、マジクの三人の冷たい目線からレオは「いや、知らんし。俺なんもしてないし」と目を逸らした。
「よし俺と一緒に王城へ(あれ、クルス協力してくれるんだよな?)」
「いえいえ私と共に教会へ行きましょう(レイラさん、協力してくれるんですよね?)」
両腕を綱引きのように引かれてギリギリギリギリと人体から発してはいけない音がレオから上がった。当の本人は全てを諦めた顔をしている。レイラもクルスも、共にレオを余裕で超えるゴリラ筋力の持ち主である。掴まれている時点でレオにはどうしようもないのだ。
(協力する為の前振りですよね? ですよね? そろそろ大丈夫ですよレイラさん?)
(おおおおお、やべえクルスの馬鹿力また強くなってるじゃんか!? 鍛えてないのになんで筋力上がってるんだよ!?)
「(こんな所でレオっち争奪戦の前哨戦が始まってもうたか……)ほら、ロサリア様止めてーや」
「(スズ、やはり私の背中を押してくれるのだな)わ、分かった。二人ともその辺りに」
「「ロサリア(兄様)はどっちの味方なんですか!」」
「……とりあえず今は二人の間でグッタリしているレオの味方かな。二人共落ち着いて」
「大丈夫です! 腕が千切れても繋げますから!」
「嫌だ! 昼間に奇跡の舞披露していた奴の台詞じゃないよねそれ!?」
「レオさん、どうせご飯の事しか考えてなくて見てなかったじゃないですか!」
「ハハっ、ばれてーら」
「見いやマジク、花火上がり出したでー。綺麗やなー」
「もうすぐ目の前で汚い花火が上がりそうですけど……」
「シルー、スズー、マジクー、助けてー」
「シル、いまはロサリア様に任せとき」
「そ、そうですね」
「おー花火綺麗」
「ぎゃあああああ」
王都の夜空に打ち上がる花火が今年のサン・ブリジビフォア祭の終演を告げる。シル、スズ、マジクの目の前でも汚い花火が弾けたとか弾けなかったとか。
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